ブルーノ・マーズ「完璧主義者の新たなる挑戦」

史上2番目の長さとなる14週間にわたってチャートの首位に居座り、グラミーの最優秀レコード賞に輝いた『アップタウン・ファンク』で、マーズはスーパースターとしての地位を確立した。現在までに1200万枚を売り上げ、ストリーミング再生20億回を記録している同曲は、シーンにおけるライバルたちを寄せ付けない圧倒的な人気を誇った。人々の目にはマーズがアーティストとしての自信を深めたように映ったかもしれないが、実際には破格の成功が彼を混乱させていたという。

「キャリア最大のヒットを経験した後でスタジオ入りするプレッシャーはキツかったよ」そう話す彼は、あらゆることにおいて確信が持てなくなっていた。「みんながこの作品を気に入ってくれるかどうかは分からない」彼はそう話す。「ラジオで曲をかけてもらえるかどうかも分からない。でも後になって『アレとコレをやっておけば、もっとヒットしたはずなのに』なんて風に後悔することだけは絶対にしたくないんだ」

しかし、ブルーノ・マーズがそうたやすく人々を落胆させるとは思えない。6曲のナンバーワン・シングルを生み出し、合計30週にわたってチャートの首位に居座り(『アップタウン・ファンク』を含めれば44週)、全世界でアルバム2600万枚を売り上げ、これまでに4つのグラミーを獲得している彼の動向を、今や世界中の人々が注視している。そんな状況下で、曲がヒットするかどうかを見極めることができるかと尋ねられれば、虚勢を張るしかないだろう。

「どうだろうね」一瞬笑みを浮かべてマーズはそう話す。「できてるのかな。ググってみれば?」

その夜、マーズは夜遅くまでスタジオで作業していた。午前3時を過ぎてやっと、彼は2010年製のキャデラックに乗り込み(「そろそろ買い替えなきゃな。これじゃウーバーのドライバーみたいだ」)、ハリウッド・ヒルズにある自宅へと向かった。彼のガールフレンドであり、モデルのジェシカ・キャバンは既に眠っていたため、マーズはドライブウェイに車を停め、30分にわたってその日のミックスを繰り返し聴き続けた。マーズにとって、その私設車道は重要な作業スペースとなっているのだという。「夜中の3時とか4時まで作業し続けて『これがファーストシングルだ!』って意気込んだ曲をここでかけてみると、いかに冷静さを欠いてたか気づかせてくれるんだよ」彼はそう話す。「窓を開けて、路上の雑音混じりに聴くくらいがちょうどいいんだ。ほとんどの人はそうやって楽しむわけだからさ」その一方で、愛車に積まれたスピーカーへの思い入れは並々ならないようだ。「いつか車を買い換えたとしても、こいつを手放すつもりはないんだ」

満を持して発表されたマーズの新作は『24K・マジック』と題された。今作のベースとなっているのは、ジミー・ジャム・アンド・テリー・ルイス、ニュー・エディション、ボビー・ブラウン、ジョデシィ、ボーイズ・Ⅱ・メン、テディ・ライリー、ベイビーフェイスといった、彼が育ったハワイで慣れ親しんだ90年代のR&Bからの影響だという。「俺にとって、あの頃の音楽ほど幸せな気持ちにしてくれるものはないからね」彼はそう話す。「思いを寄せる女の子とゆっくり踊ったバレンタインデーの夜に、DJがブラックストリートの『ビフォー・アイ・レット・ユー・ゴー』をかけたあの瞬間、誰もが魔法にかかった。向こう8ヶ月間解けることのない魔法にね」

マーズは今作を、自身の頭の中にある物語のサウンドトラックだと話す。「舞台はある夏の夜のニューヨーク、どこかの家の屋上で開かれる史上最高のハウスパーティだ。午前2時30分、ヴェルサーチのスーツに身を包んだ超イカしたバンドの登場に、女の子たちは狂喜乱舞する。そして世界一セクシーでクールなリードシンガーが、その歌で人々を魔法にかけるんだ」

その翌日、昨夜気になった点をいくつか修正すべく、マーズは再びスタジオにやってきた。まず着手したトラックのタイトルは『フィネス』だ。「何かがグルーヴを台なしにしてしまってる」彼はそう話す。「ステージの上であれカメラの前であれ、身体が自然に反応するようじゃないといけないんだ。このアルバムではグルーヴに徹底的にこだわってるんだよ」

Translation by Masaaki Yoshida

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