ブルーノ・マーズ「完璧主義者の新たなる挑戦」

2013年5月、マーズはドイツのTV番組に出演していた。その少し前に彼からiPadをもらった彼の母親は、世界中を飛び回るブルーノの動向をSNSで欠かさずチェックするようになっていた。「俺がドイツの番組で演奏しているのを観て、母さんはこうメールしてきたんだ『ちゃんと寝なさい』ってね」彼は笑ってそう話す。「『目の下にクマができてるじゃないの』なんて言うんだよ」

その直後、ロサンゼルスに戻ったマーズを悲劇が襲った。「空港に着くやいなや、電話が鳴ったんだ」彼はその電話で、母親が脳動脈瘤で倒れ、搬送先のホノルルの病院で意識不明の状態となっていることを知らされた。マーズは自宅には戻らず、迷わずハワイ行きの飛行機へと飛び乗った。しかし彼女が目を覚ますことはなく、その翌日に息を引き取った。55歳だった。

「もう立ち直ったって言ったら嘘になるよ」短い沈黙を挟んで、マーズはこう続けた。「文字どおり心にぽっかりと穴が開いたままなんだ。他人にどう伝えたらいいのかわからないけどね。多分、この悲しみが癒えることはないと思う」

彼女の健康状態に大きな問題はなかったという。「日に日に若返ってるんじゃないかってくらい元気だったんだよ」彼はそう話す。「少し前にハワイに家を買ってあげたばかりだったんだ。すごく気に入ってくれたみたいで、毎日のように電話してきては、プールや庭で孫と一緒に遊んでるなんて楽しそうに話してたんだ」そんな様子だったからこそ、その死をすぐに受け入れることはできなかった。「少なくとも、母さんは何年も病院で闘病生活を送らなくて済んだ」彼はそう話す。「でも...母さんは俺に何かを伝えようとしていたような気がするんだよ。それがこの先もずっと分からないままだってことが、今でも俺を苦しめているんだ」

その後数週間は「抜け殻のようになっていた」とマーズは話す。「何もやる気がおきなかった。何もしたくなかった。ただ座って、何時間もぼんやりと宙を見つめてた」その3週間後には、何ヶ月にも及ぶワールドツアーが開始する予定となっていた。「俺は祈りを捧げて、天国の母さんに問いかけたんだ。俺にできることはあるかって」彼はそう話す。「その時決めたんだ、前に進み続けようって。母さんが生きていたら、きっとそれでいいって言ってくれると思うんだ」

ジャンプロープも好きだし ビデオゲームも大好き
でも僕は曲を書くことにするよ
母さんや父さんに喜んでもらうために
どうかうまく歌えますように
アイ・ラヴ・ユー・ママ
母さんは世界で一番素敵な女性
アイ・ラヴ・ユー・ママ
母さんは永遠に世界一素敵な女性

マーズは天国の母親に想いを馳せている様子だ。「きっとどこかで、今も俺のことを見守ってくれていると思うんだよ」彼はそう話す。「ステージで俺がしくじるたびに、母さんの声が聞こえるような気がするんだ。『全然ダメ!』『ステップが甘い!』『弟のヒゲが伸びっぱなしじゃないの!』なんて風にさ」


ロサンゼルスで行われた今年のグラミー賞授賞式でのマーズとガールフレンドのジェシカ・キャバン「彼女は俺のハートさ。俺たちは幸せだよ」

Translation by Masaaki Yoshida

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