『イングロリアス・バスターズ 』(『キャット・ピープル』) クエンティン・タランティーノは、劇中に使用する音楽へのこだわりが強いことで有名だが、数ある中でもボウイの音楽を使用したこのシーンは、選り抜きの一つと言えるだろう。09年に公開された『イングロリアス・バスターズ』は、第二次世界大戦期を舞台にした歴史修正主義的な作品だ。『キャット・ピープル(Putting Out Fire)』は魅惑的なドラムとシンセサイザの音色と共に、激しいクライマックスを効果的に盛り上げている。もともとは、ポール・シュレイダー監督の依頼で、82年公開の怪奇映画のために作った楽曲である。本作では、ナチスドイツの最後の夜に、ユダヤ人の映画館主のショシャナ(メラニ―・ロラン)が窓から夕闇を見つめるシーンに使われている。曲の歌詞(僕は愛の炎を消そうとしている/ガソリンで)は、その夜に彼女がヒトラーに対し何を企てているかを暗示しているようだ。歴史を学んだ者として、ショシャナの計画は失敗に終わるに違いないと思うのだが、彼女もボウイと同様、自身が描く将来しか目に入らないようだ。