映画史に残るボウイのサウンド&ヴィジョン12選

『ドッグヴィル』(『ヤング・アメリカン』)
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ラース・フォン・トリアーは、デビッド・ボウイへの思いが強い監督だが(『奇跡の海』の衝撃的な最終章には『火星の生活』を選曲)、これぞまさにフォン・トリアーというべき、ボウイの最高の瞬間は、思いがけないタイミングで訪れる。『ドッグウィル』は、アメリカの不道徳性のルーツについて、3時間かけて容赦なく批判した寓意的な物語だ。ブラック・ボックス型の劇場内にセットが配置され、家からペットに至るすべてを床に引かれた枠線だけで表現している。本作の当惑するような暴力の描写に、観客がざわめき始める直前、『ヤング・アメリカン』の心地よいサクソフォーンが響き、最悪なアメリカのイメージに対比する形で軽快なソウルのリズムを奏で始める。こうして、最終的にはこの映画のミニマリズムが冗談の意味を伝え、観た者に笑みを強要する。そして同時に、笑えるものなら笑ってみろと挑むのである。映画が終わった後でさえ、その印象をすっかり変えてしまう力を持つミュージシャンが、果たして何人いるだろうか?

『ウォールフラワー』(『ヒーローズ』) 
どの映画も、ここぞというタイミングで『ヒーローズ』を流したいはずだ。マーベル・シネマティック・ユニバースの時代にあり、数え切れないほどの超大作が決戦のシーンでこの曲を使用し、恩恵を得ている。しかし、曲のタイトルから引用符を取り除き、この名曲から真実を掘り出すのは、報われない恋で傷心した主人公の成長物語に任せよう。ここでいう真実とは、ボウイは曲の提供を嫌っていたのだ。皮肉はさておき、ピッツバーグの郊外出身の、それぞれに問題を抱えた3人は、ある晩ドライブでラジオから『ヒーローズ』が流れるまで、この不朽の名曲を聴いたことがない。ウォール・オブ・サウンドに乗った力強い声は、ベルリンの壁の瓦礫をかき分けるように進み、壁の向こう側で待ち受ける、社会からはみ出した新世代のティーンエイジャーに届くのだ。

Translation by Aki Urushihara

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