スカート最新シングル『遠い春』のアートワークができるまで

フォーマットが決まれば次はメインビジュアルを誰に依頼するか考えます。スカートの場合、アルバムでは漫画家やイラストレーターのイラスト、シングルやライブ盤では写真をメインにビジュアルを作成してきました。ですが今回はメジャー1stシングルということもあり、ちょっと選択肢を増やしてみようと思い、画家の方のペインティング作品を使ってみたくなりました。曲も聴かずタイトルも知らずにそこまで進めていいのかと思われる方もいらっしゃるとは思いますが、そのあたりの矛盾は私も心の底から自覚していますので、良心回路をスッとオフ。

ここまでは脳内会議のみなので半日でできるのですが、漫画家の本秀康さんと金沢にトークショーついでの一泊二日旅行に行く予定があったので資料作成にかけられる実質の時間は二日程です。幸い私の事務所は本とカレーの街・神保町に位置しているので、ボンディからエチオピア、三省堂からmagnif、ボヘミアンズ・ギルドから小宮山書店そしてエチオピアと、街とインターネットを駆け巡り、素敵な作家さんを何人かリストアップして資料を作成します。この時点ではイメージを絞り込むより、初回打ち合わせで明かされるであろう収録曲とそのタイトルがどういったものであっても対応できるように幅広めの人選を心がけます。「今回のシングルは方向性を変えまして、頭脳警察のカバーで『銃をとれ』です。素肌に革ベストを着た澤部のポートレイトをイメージしています」みたいなことを言われれば話は別ですが、それはそれで泣けばなんとかなります。

『ふたりマンガサミット』と大きく題された本さんとのトークショーも無事盛況に終わり、行きの新幹線からトークショー本番、帰りの新幹線まで余談に次ぐ余談を繰り返し伝達系脳番地が超活性化、ドレスコーズのライブに行く本さんを後ろ髪引かれつつ見送り、非常に良いコンディションで初回打ち合わせに事務所に戻ります。一流のデザイナーはここでプレゼン資料を見直したりするのでしょうが、私は打ち合わせ中の余談が大好きなので起爆剤BGMとして対澤部/カクバリズム用プレイリストを作成することに全力を注ぎます。

どうもご無沙汰しております、あれなんかまた大きくなってない? などと挨拶もそこそこに始まった打ち合わせで明かされたシングルのタイトルは『遠い春』。メランコリックで少しだけ前向き、静かにもがいているような非常にスカートらしいナイスポップソングでした。CDとライブDVDの二枚組になるとのこと。それならばと間違いない候補がいますよ皆さん! と以前から気になっていた作家、山崎由紀子さんの資料を配ってプレゼンします。山崎さんは画像ベースのモチーフを分解、コラージュの技法を使用しつつ再構築し絵画として出力されているのですが、単なるインパクトにとどまらない画面の鮮烈さや、筆致から漂う抑制された繊細な感情に山盛りのセンス・オブ・ワンダーを感じる超素敵作家なのです。




提案時に見せた山崎由紀子氏の作品の一部

澤部くんの反応は上々、角張社長もザ・クラッシュの「Lost In Supermarket」が流れると「世界一いい曲だ!」と膝でリズムを取りつつOKを出してくれました。ホセ・フェリシアーノがカバーした『Golden Lady』が流れたとき、「これ誰のバージョンだっけ?」と余談が発生、「あーメガネかけてるジャケのやつか」という社長に「大体全部メガネかけてますよ」と鋭く刺す澤部くんというやりとりを聞けたので選曲係としても仕事をした感がありました。その場で即山崎さん宛に依頼メールを送ってもらい、しばらく緊迫感がある時間を過ごします。

こういうことは意外と多いのですが、偶然にも以前からスカートのファンだったという山崎さんから即快諾の返信があり、イラストのディレクション作業を開始します。もうこうなれば九割は完成したも同然、不安なことは一つもなく、世界は美しい。

山崎さんと直接お会いして打ち合わせができることになったので、『遠い春』及び収録曲をエンドレスリピートしつつ相談余談。CDの方は「切なさ」と「花」、DVDの方は「視線」と「動感」をテーマにイラストを描いてもらうことにしました。題材を何個か提案しつつも最終的にはお任せっスみたいな付かず離れずのディレクション距離を意識して、いくつかラフを描いてもらいます。

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