スカート最新シングル『遠い春』のアートワークができるまで

最初のラフが上がってくるタイミング、これが一番緊張します。私も人の子、それも人の命を預かる消防士の息子なのでプレッシャーは人一倍感じる方です。これが、いいのが上がってきたら私の手柄、ちょっとどうしようかなという感じの仕上がりであれば私以外の人の責任と思えると人生が楽そうなんですが仕事は来ないでしょう。今回のケースの場合は、音楽家と画家という二人のアーティスト、そして生き馬の目を抜くショービズの世界でありとあらゆる種の馬の目を抜いてきたレコード会社及びレーベルの担当者たち全員が満足の行く仕上がりに誘導するという荒業がアートディレクター/デザイナーの仕事です。この段階で思い詰めすぎると霊園中の卒塔婆を芝刈り機でガーってやる夢を見たりすることがあるので、あまり考えすぎないように『ナイツのちゃきちゃき大放送』等を聞きながら他の仕事をしつつ影を畏れ迹を悪みに悪み、物陰で静かに待ちます。

山崎さんとの打ち合わせから一週間、第一次ラフが届き、杞憂の時間は予想より遥かに短いものとなりました。写真をコラージュしたラフを何案か送っていただいたのですが、どれも非常に素敵極まりない。中でもその中の一つは非常に的確、音楽に寄り添いつつも作品としての強度も失わない仕上がりを予見させる素晴らしいものでした。DVDの方はこのままお任せで進行してもらうことにして、CDの方に少しだけ微調整の相談をしていきます。








山崎氏から届いたCDの第一次ラフの一部

私も人の子、それも人が演奏している横でうなずきと指摘を繰り返すピアノ教師の息子なので「背景に模様を入れて二つのビジュアルに地続き感を……」「スカートの音楽的な性格を考えると人物の服装は……」等と横でうなずきと指摘を繰り返し、連絡と警戒を生業とする消防士の息子らしくレコード会社/レーベル関係者とも意見をやり取りしつつマジの締切を探ります。

各所に確認を取り、最終的なGOをお願いしたらもう気楽なもので、犬を撫で、鶏を煮込み、本や広告をデザインする平穏な生活を続けます。そして完成品を提出して頂いたのがこのイラスト。




完成したCD(上)DVD(下)のイラスト

残っているのはこれに先方から送られてくるであろう文字要素を入れ、デザインして製品に落とし込む作業だけ。もうここまでくればすべて完成したようなものです。帯や歌詞カード、外貼りシールなんかも鼻歌交じりで素敵に作成するでしょう。完成品をお見せするまでもなく、10月31日発売予定、スカートのメジャー1stシングル『遠い春』の素晴らしい仕上がりをぜひ店頭でご覧ください。

なぜここまで来て完成品を見せないのか、そこまで言うなら早く作ればいいじゃないかとお思いの方、文章の不自然な締めくくりに疑問を持たれる方も多いでしょう。分かります。これを説明するには高度知的生命体と神の概念を持ち出すしか無くなってしまうのですが、雑誌のコラムには締切という強い概念が存在し、CDのデザインには制作の遅延という現象が生じる場合があります。完成品の写真を大きく誌面に掲載する予定だったものが、人間にはどうすることもできない大きな力(この場合はCDの文字要素到着の遅れ等)により雑誌の締切が製品の仕上がりを超越してしまうこともしばしばあるといいます。受け入れましょう。現実は厳しい。

※そして雑誌発売後、ジャケットが完成。


初回限定盤、通常盤共通のCD(ピクチャーレーベル仕様)


初回限定盤DVD


『遠い春』 スカート
2018年10月31日発売
ポニーキャニオン
昨年10月にメジャーデビューを果たしたスカートのメジャー第1弾シングル。映画『高崎グラフィティ。』の主題歌に採用された表題曲「遠い春」、新曲「いるのにいない」、インディーズ時代からファンの中でも人気の高い「返信」の再録バージョン、そして現在は未発表のタイアップソング(タイトル未定)の計4曲が収録される。

初回限定盤DVDに収録される「回想」のライブ映像



森 敬太
京都府生まれ、デザイナー/アートディレクター。書籍、CD、などの装丁を手がけながら、2011年から自主制作漫画レーベル「ジオラマブックス」を主宰、漫画誌『ユースカ』を発行。2017年、合同会社飛ぶ教室を設立する。スカートの澤部渡、元コミックナタリー編集長・唐木元、漫画家の西村ツチカ、ラッパーのオノマトペ大臣らと趣味のスーパーバンド「トーベヤンソン・ニューヨーク」として活動、ギターを担当する。
Instagram : @m_o0_ri

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