「もしも自分がボウイやブリトニーだったら?」ホールジーが歴代スターを演じる衝撃の理由

デヴィット・ボウイ(左)、ブリトニー・スピアーズ(右)を演じるホールジー(中央)※画像はX(@halsey)より引用

ホールジー(Halsey)が通算5作目の最新アルバム『The Great Impersonator』をリリースした。2022年にはフジロックのヘッドライナーを務めて話題に。「もしも自分が70年代、あるいは80年代や90年代のアーティストだったら……」という作品のテーマ、その背景にある悲劇とユーモアについて、ライターの辰巳JUNKに解説してもらった。




デヴィット・ボウイからブリトニー・スピアーズ、エヴァネッセンスまで……本物そっくりなホールジーの仮装がバズりつづけている。じつはこれ、このたびリリースされた5thアルバム『The Great Impersonator(偉大なるものまね芸人)』の予告。1970年代から2010年代にかけての歴代音楽スターを真似る楽曲それぞれの元ネタ開示として、SNSでコスプレを投稿していたのだ。



X(@ROBCRAVEE)より引用

人々を楽しませた『The Great Impersonator』だが、エキセントリックな音楽史として機能しながら、キャリア史上もっとも重い大作とも言える。まだ30歳ながら難病を患ったホールジーが、字義どおり「人生最後」かもしれない一枚として制作したコンセプトアルバムなのだ。

日本ではBTSとのコラボ「Boy With Luv」で有名なホールジーだが、ロックのルーツを持つアーティストでもある。たとえば、2020年作「3am」を聴けば、開幕早々にUKバンド、オアシスの影響を感じとれるだろう。1994年アメリカ生まれとしてパンク界隈に属したこともあるそうだが、性差別を経験したため、ポップジャンルに移行したという。

今作でエヴァネッセンスに捧げられた「Lonely is the Muse(孤独こそミューズ)」は、ホールジーの才能を象徴している。ポップとオルタナティブを混ぜあわせながら、演劇的かつ赤裸々に孤独や怒りを歌い、世代を代表するスターになったのだ。同曲で主張されているように、2015年にデビューして以降の人気はすさまじいものだった。全米100万枚ヒットのひとつ「Without Me」は、2010年代にもっともヒットしたアメリカ出身女性のソロ曲でもある。



2020年代に入ると、芸術面の高みに達した。ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナー&アッティカス・ロスと制作した4thアルバム『If I Can't Have Love, I Want Power』は、ポップスターにしてグラミー賞のオルタナティブ部門候補となる評価を授かった重要作である。同時期、息子にも恵まれたホールジーは、すべてを手に入れたかのように見えた。実際、悲劇について書いてきたアーティストであるのに、あまりに幸福になったため音楽のアイデアも浮かばなくなっていたという。

そんなホールジーの人生は、30代を前に一転してしまった。ジョニ・ミッチェル意識の先行シングル「The End」によって明かされたように、白血病を引き起こす難病、全身性エリテマトーデスと診断されたのだ。治療、そして生存のため、ポップスターとしての仕事をやめるよう勧められたという。パートナーとの破局も重なっていった当時の境遇を「呪い」と表現する本人は、このように回想している。「幸せになって書くことがなくなったところで、宇宙が『これはどう?』と言ってきたみたいだった」。



あまりの悲劇に見舞われたホールジーは、闘病のなか、運命について思考をめぐらせていった。自分は何度生まれ変わっても、ポップスターになって、病気になってしまうのか? たとえば1970年代でも、80年代の世界線でも?……ここから生まれた大作こそ『The Great Impersonator』。各世代のスターを参照しながら、さまざまな時代に生まれた場合のポップスター「ホールジー」を想像していく、コンセプチュアルかつ私的なアルバムだ。

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