第1次トランプ政権、米朝戦争に備えた極秘計画が明らかに

シンガポールで北朝鮮の金正恩総書記を迎えるドナルド・トランプ前大統領(Saul Loeb/AFP/Getty Images)

2024年7月の米・共和党全国党大会で、ドナルド・トランプ氏は大統領選指名候補の受諾演説の中で、さんざん聞かされた過去の外交政策の功績を改めて強調した。北朝鮮の指導者、金正恩氏とは「非常にウマが合っていた」からこそ、金氏に弾道ミサイルおよび核兵器実験を止めさせることができたのだ、と前大統領は主張。「核兵器を大量に所有する人間とは仲良くしておいたほうがいい」とも付け加えた。

【画像】金色のAR-15型ライフルを構える文亨進氏

全体的に強気なトーン演説での、弱気な一幕だ。だが同時に、トランプ氏の北朝鮮に対する姿勢がはっきり変化したことも示している。トランプ氏が再選したあかつきには、こうした方向転換は朝鮮半島の平和を大きく左右しかねない――ともすれば、東アジアで核戦争が勃発する可能性もある。

残り時間は少ないかもしれない。有識者の間では、アメリカとの国交正常化に進展がまったくないことに業を煮やした金氏が、ソウルに向けて攻撃の準備を進めているとの意見もある。朝鮮問題の著名な専門家、ロバート・L・カーリン氏とジークフリード・S・ヘッカー氏は今年、「朝鮮半島情勢は1950年代初頭以来、かつてないほど危うくなっている」との記事を寄稿した。北朝鮮は核兵器を用いて奇襲攻撃を仕掛けるだろうというのがカーリン氏とヘッカー氏の意見だ。これについて懐疑的な見方をする専門家もいるが、金氏は今月上旬、韓国およびアメリカに対して核兵器の使用も辞さないと威嚇した。

2017年、大勢の人々が米朝間でこうした核戦争が起こるかもしれないと危惧していた。トランプ政権初期は北朝鮮政府との激しい言葉の応酬が日常茶飯事だった。政府が「最大限の圧力をかける」戦略を取る中、トランプ氏は金氏に「ロケットマン」というニックネームを付け、北朝鮮がミサイル発射を繰り返すなら「世界史に例を見ない炎と怒り」で返礼すると脅しをかけた。同じ年、トランプ氏は軍の最高指揮官として対北朝鮮戦略の見直しを命じた。ボブ・ウッドワード氏がトランプ政権時に出版した著書『RAGE 怒り』によると、北朝鮮指導部の殺害計画や、全面侵攻および政権交代を想定した計画の刷新も見直しの一貫に含まれていたという(米軍はつねにあらゆる状況を想定した戦争計画を準備しているが、当時は別格だった。なにしろ二大核保有国間で危機感が高まる中、平壌に攻撃を仕掛けたがっていた大統領が事態を悪化させたのだから)。

トランプ氏が抱いていた対北朝鮮対策のいくつかは、控えめに言ってもかなり突飛だった。2017年2月から2018年4月までトランプ政権の国家安全保障顧問を務めたH.R.マクマスター氏が最近出版した回顧録によると、前大統領は「北朝鮮の軍事パレードの最中に、朝鮮人民軍をごっそり根絶やしにすればいいじゃないか?」と尋ねたそうだ。また北朝鮮に核兵器を投下し、第三勢力に濡れ衣を着せる案を内輪で検討していたとも言われている。ウッドワード氏の著書『Rage』によると、当時のジム・マティス国防長官は、トランプ氏の北朝鮮政策がきっかけで「数百万人が灰と化す」のではないかと危惧していたという。

だがほどなく、トランプ氏は北朝鮮への姿勢を180度転換した。少なくとも表向きはそうだった。2018年6月、両国の緊張が和らぐ中、トランプ氏と金氏はシンガポールで史上初の米朝首脳会談に臨んだ。後日トランプ氏は金氏から「素晴らしい書簡」をもらい、両氏は互いに「恋に落ちた」と発言した。2019年にトランプ氏はベトナムで金氏と再会し、やはり同年、短時間ながらも北朝鮮の地を踏んで3回目の首脳会談を行った。

そして今、トランプ氏が政権奪回を目指す中、再選したあかつきにどちらの北朝鮮政策が顔を出すかはまだ分からない。「炎と怒り」と核兵器による大量虐殺で平壌を威嚇した好戦的なトランプ氏か、それとも北朝鮮の独裁者と「恋文」をかわした懐柔的なトランプ氏か?

トランプ陣営の全米メディア広報担当者、カロリーネ・レヴィット氏はローリングストーン誌の取材に対し、「トランプ氏が大統領に返り咲きしたあかつきには、かつて世界に平和をもたらした力による平和の政策を復活させるだろう」と述べた。

いずれにせよ、トランプ氏が再選した場合、任期中に見直された米軍の北朝鮮政権交代計画が引き継がれるだろう。だがそうした侵攻の際、CIAも絡んだ最新極秘計画も同様に引き継がれることになるだろう。CIAの対北朝鮮計画の改訂に詳しい元CIA職員および諜報関係者の3人はこう語る。

2017年、当時のマイク・ポンペイオCIA長官はアスペン研究所で行われた講演で、改訂された計画についてほのめかし、政府は北朝鮮の政権交代の道筋も検討中だと言明した。CIAは「必要とされる最終目的のために幅広い選択肢を用意」するだろう、とポンペイオ長官はアスペンで発言した。

2022年に出版された回顧録『Never Give an Inch(原題)』には、北朝鮮に関しては「外交や従来の軍事力では不十分だと大統領が判断した場合に備え、極秘任務能力を揃えておくことが自分の使命だと受け止めた」と書かれている(ポンペイオ氏にコメント取材を申請したが、返答はなかった)。

だが、想定される米朝戦争でCIAが果たす役割についてどんな見直しが行われたのか、トランプ政権の「最大の圧力をかける政策」で強化された極秘任務能力についてCIA内でどんな計画が行われていたかについては、これまで具体的には語られてこなかった。

Akiko Kato

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