ジェイ・Zやファレルも惚れ込むR&Bの後継者、Maetaが語る音楽ルーツと初来日への想い

Photo by Juliet Wolf

 
ジェイ・Z率いるロック・ネイション所属の新進気鋭R&Bシンガー、メイタ(Maeta)が8月28日・29日にビルボードライブ東京で初来日公演を行なう。音楽ジャーナリスト・林剛による最新インタビューをお届けする。

昨年11月に行われたBET Soul Train Awards 2023でのパフォーマンス。風に髪をなびかせながら「Through The Night」を歌うメイタの姿に見惚れたファンも多いと聞く。自分もそのひとりだが、映像を見なくてもクールで情熱的な歌声から漂ってくる妖艶な雰囲気に吸い込まれそうになる。

ジェイ・Zを創設者とするロック・ネイションとの契約で注目を集めたインディアナ州インディアナポリス出身の彼女は、いわゆるZ世代で、オルタナティブな感覚を標準装備しながらマチュアでトラディショナルな感覚も身につけたシンガーだ。ブラック・チャーチ叩き上げではないマルチレイシャルなR&Bシンガーは数多いが、その中でもメインストリームに最接近して、今や現行R&Bを代表する歌い手のひとりになった。2023年リリースの『When I Hear Your Name』に参加したアーティストやプロデューサーたちの名前を見ても、その立ち位置がわかるというもの。業界内からは「R&Bの正統な後継者」との声も一部であがっている。

現在はクリス・ブラウンの北米ツアー「The 11:11 Tour」にスペシャル・ゲストとして同行中。同ツアーでカナダのモントリオールにバスで向かう途中の彼女に、国境検問所での待機中、音楽的なルーツからアーティストとのコラボ、楽曲のことなどを根掘り葉掘り聞いた。




R&Bシンガーとしての音楽的ルーツ

―まず名前ですが、Maetaは“メイタ“と読むのですよね? 

メイタ:そう、メイタ(本名メイタ・ホール)。最後の“タ“にアクセントを置くのが正しい発音なんだけど、私は普通に(アクセントの強弱をつけずに)発音したほうが呼びやすいと思っている。ドイツ系の名前で、高祖母あたりの先祖にちなんでつけられたって聞いている。父方の一族がドイツからの移民で、どうやってインディアナに辿り着いたのかは知らないけど、私にはドイツの血が流れているの。

―お父様がドラマー、お母様がビジュアル・アーティストというアートな環境で育って、5歳でピアノを弾き始め、8歳で歌い始めたというバイオグラフィを目にしましたが、音楽業界で仕事をするようになったのはいつ頃ですか?

メイタ:物心がついた頃から歌っていて、ビヨンセやレオナ・ルイスのようなシンガーに刺激を受けて、いつか自分もあんなふうに歌いたいって憧れていた。実際に音楽業界に入ったのは13歳の時。初めてマネージャーが付いて、レコード会社との契約交渉が始まった。その後、18歳でロック・ネイションと契約したのをきっかけにインディアナからLAに移住した。そこから本格的なレコーディングが始まって人生が大きく変化した。8歳の頃から自分の進むべき道はこれだと決めていたとはいえ、こうして夢が叶って世界中でライブができるようになったのが信じられない。

―ロック・ネイションとの契約に至った経緯を教えてください。

メイタ:13歳の時にSNSの活用とカバー動画をアップロードすることが才能を見出される手段だってことをジャスティン・ビーバーのドキュメンタリーを観て知っていたから、18歳までの5年間はとにかくたくさんカバーを録ってアップロードしまくっていた。それで18歳の時にインスタに上げたH.E.R.とダニエル・シーザーの「Best Part」のカバーが、今ロック・ネイションの共同代表をやっている(A&Rの)オマー・グラントの目に止まった。当時ルックスに関してはかなり調整の余地ありで、ひどいもんだったけど(笑)、私の声に惚れ込んで感謝祭の数日前にインディアナまで会いに来てくれて、1週間後には契約していた。あれを機に私の人生は大きく変わった。オマーは私のキャリアを理解してくれている親友でもあって、この6年間に作られた曲はすべて彼の助言をもとに一緒に取り組んだもの。楽曲のプロデューサーではないけど曲を形にするということを熟知していて、私の音楽のために尽力してくれている。



―以前アップしていたカバー動画には、ミニー・リパートンの「Every Time He Comes Around」、ドレイクfeat.リアーナの「Take Care」、ジェネイ・アイコの「None Of Your Concern」などもありましたが、こうした曲があなたの音楽的なベースにあると考えていいでしょうか?

メイタ:うわー、すっかり忘れていた! そう、小さい頃からR&Bに惹かれて夢中で聴いていた。自分もボーカル・ラン(フェイク)が得意だったし、ソウルフルな声も含めてR&B独特の雰囲気が大好きだった。ジャズミン・サリヴァンとかケリ・ヒルソンとかね。最近ではイエバも好きでよく聴く。リアーナとかレディー・ガガ、あとマイケル・ジャクソンのようなポップ・スターに夢中になっていた時もあった。ポップ・スターと言ってもR&Bのソウルフルな要素を取り入れた歌手だけど、そういったアーティストたちが持つミックス感覚が好きだった。私が育ったインディアナって、どちらかといえば素朴な中西部だから、カントリーもよく聴いた。だから私のベースにはいろいろな音楽のジャンルの影響が少しずつあると思う。




―マイケル・ジャクソンの名前が出ましたが、インディアナと言えばジャクソン・ファミリーも同じ州の出身です。同郷意識はありますか?

メイタ:それはないかな。彼らは同じインディアナ州でもシカゴに近いゲイリーの出身だから。ただジャネット・ジャクソンが最近インディアナに帰省したりして、少しは繋がりを感じる。私の地元から数時間は離れている場所だから同じとは言えないけど、ジャネットが育った場所を見たりすると嬉しいし、マイケルとかジャクソンズと同じ州の出身だって人に言えることはちょっとした自慢ではある。

―“R&B“とはどんな音楽だと考えていますか?

メイタ:R&Bって愛にまつわる曲が大半だと思う。誰かに対する溢れる想いを歌っているものだったり、時には自分にとって良くない関係についての歌だったりするけど、愛と苦しみの深い感情がもとになっている曲が多い気がする。ポップとかダンス・ミュージックの中にもそういった気持ちにさせる曲もあるけど、それらはどちらかといえばもう少し気楽というか、楽しくて明るい、ワクワクさせる感じでしょ? それに比べてR&Bはズバリ本題に入って、感情がはっきり表現されている。だから聴いていて共感できる。他のジャンルには、なかなかない要素だと思う。心にグッとくるという点ではゴスペルも似ているかもしれない。

―ゴスペルのルーツはあるのですか?

メイタ:ゴスペルのルーツはないの。幼少期に教会で歌った経験はあるけど、礼拝の時にみんなに混じって歌っていただけで、本格的にやっていたわけじゃない。ゴスペルを聴き始めたのは10代に入ってからで、聴いたことのないような素晴らしい声の持ち主もいるし、今では大好きなジャンル。私の持つボーカル・テクニックの多くはゴスペルを研究したおかげだと言える。



―あなたのボーカルは、囁くような声と地声の使い分け、息遣いやトーンも絶妙で、とても美しいと感じていますが、歌唱面でお手本にしているシンガーというと?

メイタ:ボーカルに関して言うと、ジャズミン・サリヴァンやイエバが素晴らしい。彼女たちのボーカル・ラン(フェイク)は完全に別レベル。ビヨンセのボーカルも、批判的な人もいるけど超一流だと私は思う。ホイットニー・ヒューストンもインスピレーションを与えてくれる存在ね。彼女のビデオはよく観ていて、真似したり、研究している。だから私の歌唱のルーツはそういったアーティストたちにあると思う。

―あなたのことを“現代のティーナ・マリー“と評するメディアもあります。

メイタ:なんとなくわかる気はする。子供の頃に彼女の音楽を聴いていたわけじゃないから肯定も否定もできないけど、声質も似ているし、実際に音楽活動を始めてからよく言われる。だからもし将来、彼女の伝記映画を撮るなら本人役に起用されたい。素晴らしい音域の持ち主で、一度、私のA&Rにティーナの「Déjà Vu(I’ve Been Here Before)」(79年)をカバーするように言われて歌ってみたけど、すごく難易度が高くて……。A&Rとはこの曲をめぐって何度も喧嘩して、今のところその時の音源はお蔵入りになっている。とにかく素晴らしいボーカリストだし、似てると言われてから彼女の歌い方についても研究した。



―ライブなどで歌う際に心がけていることはありますか?

メイタ:あれこれ考えずに感じること。感情に身を任せることを大切にしている。私は形にはめられた状況だと自分の能力を発揮できないタイプ。まるで学校にいるみたいに窮屈に感じたりするのが嫌だし、練習を重ねて非の打ち所がないようにする音楽も好きじゃない。だからライブの時にも自分を解き放つ。そうするとお客さんもそれを感じとってくれる。

―ジャズミン・サリヴァンやH.E.R.のツアーでオープニングアクトを務めていましたが、その体験から得たものはありますか?

メイタ:他のアーティストとツアーする時は、いつも多くのことを学ばせてもらう。ジャズミン・サリヴァンのボーカルは言うまでもなく素晴らしかったし、H.E.R.は観客を飽きさせないで楽しませるコツを心得ている。今はクリス・ブラウンとツアー中だけど、彼から学ぶこともすごく多くて、もっと努力する必要があるってことを身をもって示してくれるから、とても謙虚な気持ちになる。私の持ち時間はたったの20分だけど、クリスは2時間ぶっ通しで歌って踊っているのに疲れた素振りすら見せず、ステージでは感情豊かに表現している。本当にすごいと思う。

Translated by Aya Nagotani

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