中年の危機をロックバンドが克服するには? ガスライト・アンセムがビリー・アイリッシュを歌う理由

ビリー・アイリッシュの名曲をロックンロールに

―新しいEP「History Books (Short Stories)」についても聞かせてください。ビリー・アイリッシュの「Ocean Eyes」をカバーしたことがとても意外ですが、この曲を取り上げたきっかけは?

ブライアン:娘のアシュリーが、音楽を俺に聴かせるのが好きでね。学校に車で送っていくときに、今自分が好きな音楽を俺に聴かせる。そうやって聴いて気に入った曲は今までもあったけど、ビリー・アイリッシュのあの曲を聴いたときは「うわぁ、これは素晴らしい曲だな」と思ったよ。で、自分でも聴くようになった(笑)。バンドでカバーしたらクールだろうなと思ってね。そうなったら娘がどんなに楽しんでくれるだろうと思って、やってみたんだ。最初は単なる遊びのつもりだったけど、素晴らしいものができて、「これはすごくいいじゃないか!」という話になった。

―アシュリーちゃんの感想はいかがでした?

ブライアン:ものすごく気に入ってくれたよ! 今度はビリー・アイリッシュにも聴いてもらえるといいね。うちに遊びに来てもらえないかな(笑)。




―オリジナルの「Ocean Eyes」は空間だらけで音数も非常に少ない、風変わりなサウンドデザインになっていますよね。あの曲にビートをたっぷり与えて、ああいういかにもガスライト・アンセムらしいロックンロールに仕立てた狙いは?

ブライアン:オリジナルがあまりにも気に入ったから、「これは全然違うものを作らないといけないぞ。同じ風にやったってビリー以上にいい感じには絶対にならない」と思った(笑)。変えないといけない、俺たちならではのものにしないといけないと。それで、自分たちであの曲を書いたらどうなっていたかを考えた。俺たちにとってはすごく自然な流れだったよ。ものの5分でできた。みんな自分が何をすべきかわかっていたし、とんとん拍子にできたよ。マジックだね!

―ビリー・アイリッシュは自分でも曲を書きますよね。ソングライターとしては、彼女が支持されているポイントはどこにあると思っていますか?

ブライアン:俺たちのバージョンがその証拠になると思うけど……ビリー・アイリッシュの曲はとにかく“名曲のソングライティング”なんだよね。ひたすらいい。ポップソングの形式だろうと、ヒップホップ・アーティストとのコラボだろうと、あるいは単にピアノで弾いただけでも……ソングライティングがあまりにも素晴らしいから、否定のしようがないんだ。彼女とフィニアスは本当に……素晴らしい才能の持ち主だよ。気に入らないやつがいたら、それは曲のスタイルが気に入らないだけだと思う。曲はものすごく良く書かれていると思うよ。ビリー・アイリッシュやテイラー・スウィフトといった若手は素晴らしいソングライターなんだ。あの世代のボブ・ディランやブルース・スプリングスティーン的存在だと思うね。

―あなたはカバー曲が得意で、ホリブル・クロウズ(ブライアンのサイドプロジェクト)でもインエクセスの「Never Tear Us Apart」をカバーしていたし、他にもフー・ファイターズの「Everlong」、トム・ペティ、ボン・イヴェールなど何でも幅広く取り上げてきましたよね。あなたにとって、“カバーしたくなる曲”の基準は?

ブライアン:通常は、俺が心から信じることのできる歌詞があることだね。自分のものとして歌えるかどうか。自分で自分の人生について書いていてもおかしくないようなもの。それがカバー曲になる鍵だと思うね。俺は“歌詞の人”なんだ。歌詞が大好きだからね。



―そのEPでは「Blue Jeans & White T-Shirts」の新しいバージョンも印象的でした。原曲は2007年ですが、新しいバージョンは今のあなたの声にもよく合っているし、奥行きのあるアレンジもいいですね。まるで短編映画を見ているような手応えがあります。

ブライアン:そう、それが狙いだったようなものだよ。もともとはさっさと作った曲で、EP(「Señor And The Queen」)にしか入らなかったから、あまり人に聴かれてなかったんだ。だから多くの人に聴かれるチャンスをもう1回与えたかった。俺たちがこの曲をもう1度やったのは、古いバージョンからの差し替えとしてじゃなくて、この曲を未来に持っていきたかったんだよね。ほら、映画もバージョンをいくつか重ねることがあるだろう?

―先ほど挙げた「Positive Charge」「History Books」もアコースティックバージョンで再録音されましたが、曲の風景がガラッと変わっていて新鮮です。ソロ作から続いている道筋も、ここで見えてきました。

ブライアン:確かにそうだね! アルバムが出た頃にアメリカではラジオ番組に色々出てさ。番組の中でアコースティックでプレイしないといけなかった。何回かやってみて、「これはクールだからぜひ録音してみよう」ということになったんだ。それで、ビリー・アイリッシュの曲や、「Blue Jeans & White T-Shirts」と同時に録音したんだ。

―日本でもガスライト・アンセムが戻ってくるのを多くのファンが待っています。前回の来日は東日本大震災の頃でしたよね? 1つショウがキャンセルになったと思います。

ブライアン:震災! そう、震災の日に俺たちは日本にいたんだ。あれはクレイジーだったよ。ニュージャージーでは地震なんて滅多にないからね。

―あれは13年前ですから、そろそろ戻ってきてほしいところです。家族がいる今は、遠出は気乗りしないかもですが……。

ブライアン:そんなことない、行きたいよ! 行くから!(笑)。日本は俺にとって世界の中でも大好きな場所のひとつ。うちの娘も、日本のことなら何でも夢中なんだ。だからそうだね、答えが「イエス」になることを願っているよ。

―この後6月にヨーロッパに行って、その後全米ツアーが控えていますが。その後はどんな予定でしょう?

ブライアン:年末にオーストラリアに行こうとしているんだ。その後、来年頭くらいに日本に行けたらいいんだけどね。それが俺の希望なんだ。その後にニュー・アルバムを作り始める感じかな。新作ができたら、またツアーからスタートだね。




ガスライト・アンセム
『History Books』
配信リンク:https://orcd.co/historybooks

Translated by Sachiko Yasue

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