中年の危機をロックバンドが克服するには? ガスライト・アンセムがビリー・アイリッシュを歌う理由

スプリングスティーンの助言とバンドの再出発

―ガスライト・アンセムを再開するに当たって、あなたはブルース・スプリングスティーンに相談しに行ったそうですね。彼もEストリート・バンドを一旦休止して、再開させた経験がある人ですが、ブルースからはどんなアドバイスを受けましたか?

ブライアン:ブルースとは長い間知り合いで、彼の電話番号もずっと前から持っているんだ。でも電話したことはなかったし、携帯電話のテキストメッセージも送ったことがなかった。煩わせたくなかったし、彼に何かお願いするつもりもなかったからね。俺にとってはバットマンの電話番号を持っているようなものなんだから!(笑)。だってさ、バットマンには本当に困ったときだけ電話するだろう? なので、いよいよ彼にテキストメッセージを送ったんだ。さっき君にもパール・ジャムだフー・ファイターズだと色々話をしたけど、そこからの流れで、「どうしたらいいかわからない。俺は何をすべきなんだろう」と思ってしまったんだよね。それでカミサンに「ブルースに電話すべきだと思う?」と相談したら、「そうよ! 電話すべきだわ」って言われてさ。

それで彼に「相談したいことがあって……」と伝えたんだ。「バンドのことなんだ。すごく葛藤があって。会ってもらえないか」とね。そうしたら「もちろんさ、会おう! すぐ近くのフリーホールドにあるフェデリチズでピザを食おう! ノー・プロブレム!」って言ってくれたんだ。俺とブルース・スプリングスティーンが一緒にピザを食う。これ以上ニュージャージー的なことなんてないよ!(笑)

で、ピザを食いながら俺はこう尋ねたんだ。「Eストリート・バンドを再始動させたときどうだった? カネはどう工面した? 曲はどうやって? ラモーンズのジョニーとジョーイは仲が悪かったよね? そういう時どうしてた?」なんて色々と。彼は兄貴みたいな感じで俺を助けてくれたよ。どうしたらいいかって教えてくれた。人生最高のアドバイスだったよ。ありがとう、ブルース!

―そうだったんですね。ブルースがバンドを再結成して以降、今も絶好調なことにも希望が見えたでしょうね。目指したい目標になったのでは。

ブライアン:そうだね! 色々なことを抜け目なくやっていかないといけないことが判った。音楽をやるときに一番大切なことのひとつは、先人たちが自分より物事を知っているということを常にわかっておくことだね。謙虚になって、「自分が今何をやっているのかわからない。どうすればいいんだろう」と考えるんだ。そうしたら、必ず経験者の誰かが手を差し伸べてくれるはずだから。大抵の場合は兄や父親に相談する訳だけど、俺の場合はバットマンに相談することができた。



―それがきっかけかどうかはわかりませんが、そのブルースとデュエットした新作のタイトル曲「History Books」は、この共演に相応しい、非常によく練られた歌詞ですね。過去と決別して再び動き出そうという気概もよく表れていると思います。

ブライアン:あの曲の歌詞は、過去や人々の期待に縛られることなく、それを打破して自分の思う自分になることを歌っているんだ。俺が音楽の道に進んだのも、そもそもそれが理由だしね。よくある話だけど、俺が若いときも、ブルースが若かったときも、「ミュージシャンになりたい。音楽をキャリアにしたい」なんて言い出したものなら「勘弁してくれよ、まさかお前はやらないだろう?」なんて言われてしまう。でも実際音楽を生業にすると、何だってできるような気になるんだよね。俺と他の人との唯一の違いは、俺はトライした、それだけだ。夢を持っている人は誰でも、トライさえすれば、どこへだって抜きん出ることができる。それが絵だろうと、書くことだろうとね。この曲はそういうことを歌っているんだ。「お前にはできない」なんていうやつらは一昨日来やがれって感じだよ。



―「Positive Charge」はアルバムの曲を作り始めた頃に、「またこの感じでやれるかもしれない」と手応えを感じたそうですね。歌詞にも、苦難の時期を乗り越えて、今を生きている喜びがにじみ出ていますが。コロナ禍で全てが止まった後の閉塞感を打ち破りたい気持ちも反映されていますか?

ブライアン:……かもしれないね。ただ、俺的には、あれは俺自身が長年苦しんできたメンタル的な問題についての曲なんだ。何とか自分の中に平和を見いだそうとする感じ。自分の中で常に葛藤を抱えるんじゃなくてね。俺は何年も抱えてしまったけど。「Positive Charge」は……(犬の鳴き声)…うちにはすごくデカい犬がいるんだ。人嫌いでさ。表の庭を誰かが通りかかるとすぐ吠える(笑)。

あれは自分を奮い立たせようとしている曲だね。全体的に、俺が俺に語りかけているんだ。自分で自分を激励している。オーディエンス、ガスライト・アンセムのファンについての曲でもある。俺が歌詞で「How I missed you(どんなに君が恋しかったことか)」と歌うとき、あれはファンに対して歌っているんだ。ファンとバンドと俺自身に対するラブレターみたいなものだね(笑)。心から喜びを感じながら歌ったよ。俺にとってはスペシャルな曲だね。



―新作は非常にパーソナルな内容の歌詞が多いアルバム、と感じました。僕もあなたと同じようなメンタルの症状になった時期があるんですが、自身の体験を歌詞に反映していくことが、あなたにとってセラピーのようなプロセスになっている面はありますか?

ブライアン:大いにね。「Positive Charge」だけじゃなくて、アルバム全体がそんな感じだった。曲を書いているだけでセラピーみたいだったよ! 自分が考えていることを掘り下げていくと、書いていくうちに自分自身に対する発見があるんだ。自分の心の中で何が起こっているかについて、ゆっくりと、でもポジティブに対応できるようになっていく。そして、でき上がったものに人が耳を傾けてくれて、その人たちの心も打つとなると…「よし、いいぞ、俺は世の中からもらうばかりじゃなくて、何かを与えることもできている!」と思えるんだ。

―このアルバムを作り終えた時、爽快感や生まれ変わったような気分が得られましたか?

ブライアン:もちろんさ! 新しいアルバム、新しいガスライト・アンセムのアルバムができて、ものすごくハッピーだったよ。再結成を望んでいるからと言って、アルバムがもう1枚できるかなんてわからなかったからね。でも、できた。俺たちはやったんだ!

Translated by Sachiko Yasue

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