小原綾斗が語る、傑作『(((ika)))』にまつわる表と裏、Tempalayというバンドの真実

次は根本的な録り方からちょっと変えようと思っている

─話は前後するけど、アルバムの全体像は最初どういうものを描いていたんですか?

最初はアンビエントなテンションというか。今回、仏教的なテーマなんだけど──アンビエントと言ってもいろいろありますけど、とにかく音像しかり、トータルとしてネイチャーなイメージが見えたらいいなと思ってたんですよ。でも、それも作っていくなかで、そっちでいくのは難しいんじゃないかと思ってきて。それに関してもシングルが邪魔だった(笑)。

─このアルバムは、1曲目の「(((shiki-soku-ze-kuu)))」に始まり、ラスト「))kuu-soku-ze-shiki(((」の閉じ方まで、特定の宗教観からはみ出た死生観であり観念というものがこれまで以上に明確に表現されてると思うんですよね、音楽として。

「結局、この世ってなんなんだ?」みたいなことはもともと興味があったし。じゃあ作品を作るということ自体の意義だったり、根本的な存在理由、死ぬということに対しても自分なりに見えながら作ってた感じはありましたね。この1年、本当にいろいろと思うことがあったんで。AAAMYYYに子どもが生まれたり。子どもが生まれて、あの子はマジで人格が変わったんですよ。それは自然構造に従っている感じがして。





─命を繋いでいくことだったり。

そうそう。それって抗えないわけで。悪い意味ではなくて、そういうところに結局巻き込まれていってる気がするんですよね。

─生物として自然なこととしてね。

はい。それって物理学とか飛び越えて、俺らくらいの脳みそじゃたどり着けないようなレベルの大きな流れじゃないですか。

─間違いない。

そういうところに流れていってるなという感覚を持っている。っていうテンションだったんですよ。

─それはすっごい、伝わります。このアルバムを聴いて。

っていうときに「色即是空」という言葉を知ったんで。言葉としては知ってたけど、意味までは調べてなかったんですけど。意味を調べたときに自分のなかでしっくりきて。入口はそうだったし、新曲を作ってる最中もその方向性でいけてたんですよ。なぜなら、シングルのことなんてすっかり忘れてたから(笑)。そこに「アルバムにシングルはどう入れるの?」って言われたときに「そうか!」ってなって。それで、このテーマ性は包括できないなって。そういう悔しさなんですよ。

─他の曲の存在でシングルに役割を持たせているとも思ったけどね「月見うどん」とか「湧きあがる湧きあがる、それはもう」とかもそうだけど。

そうですね。

─でも、当初はアンビエントを思い描いていたサウンドプロダクションの性格もシングルを入れなきゃいけなくなったときに変わっていったという。

そうです、そうです。

─そのうえで次のアルバムのことも考えてるし。

そうっすね。次は根本的な録り方からちょっと変えようと思っていて。スタジオか家を丸々1カ月くらい借りて、そこに籠もってポスプロして。いつだってレコーディングに取りかかれるような状況を作って、みたいな。なんかね、「何をもってTempalayなんだろう?」みたいなことを思っていて。

─TempalayをTempalayたらしめるのは何か、といいうね。

そうそう。今回、当初はライブで再現することを考えてTempalayとしてはかなり引き算していたんですけど。でも、やっぱりむず痒くなっちゃって。それで、徐々に足されていって。音数が少ないのが主流になっているなかで、「今さらそっちにいっちゃう?」みたいな自分から自分へのツッコミもありつつ。そういうありもしない目線に対して右往左往していた時間はけっこうあったかもしれない。

─その言葉を踏まえて言うと、「今世紀最大の夢」(真夜中ドラマ『地球の歩き方』オープニングテーマ)みたいな曲ができたことは素晴らしいことだと思うし、TempalayをTempalayたらしめるオルタナティブな様相の中にいるからこそ、このシンプルさが際立つと思うし。

うん。結局、「今世紀最大の夢」くらいシンプルにしてやっと世間の人は「いい」って言うんだってわかったというか(笑)。



─でも、異型のバンドがこれを鳴らしてるのが感動的なんだと思うけどね。

それはあるっすよね。

─あとは、どんなにオルタナティブな曲でも、やっぱりメロディの求心力がすごいですよ。

ありがたいですよ。めっちゃいいですよね?(笑)。でも、ムズいっすよね。俺自身、「何を求めてるの?」って言われたら、べつにないんですよ。どれくらい売れてたら自分が満足するかって言われると──友だちにもこの前、言われたんですけど──要は執着がないんですよ、俺は結局。

─本当は金にもそこまで執着してないし。

そうそう。売れるってことにも。でも、そのプロセスがなんか好きなんですよ。

─この音楽表現を楽しんでもらうための伏線を張ったりね。

そうそう。「これをこうしたらどう見られるんだろう?」って想像するのは楽しいんですけど。ただ、結局、「どれだけ売れたいの?」って訊かれたら、僕はそんなに積極的じゃないんで。そう考えると中途半端なんだよね。

─音楽で、そのアートフォームで人を驚かせたり、笑わせたり、泣かせたりすることのほうに興味がある。

うん。

─それをなるべく多くの人に楽しんでほしいと思うから売れたいと思う。でも、それは実感としてあとから付いてくるものっていうね。

そうっすね。そういうことがやっと自分で理解できるようになったかもしれないです。だから悔しいし、楽しいしい、ツアーもお客さんに定石じゃないものを見せたい。っていう戦い方を見せつつ、外もみつつ。今までフワッとしていたことが、なんとなく自分で固まりつつあるのかなって、話しながら思いました(笑)。遅いっすよね。10年やってますから。


Photo by Mitsuru Nishimura

─いや、綾斗くんはこれがリアルでいいんじゃない?

うん。

─ここからもっと、さらにどんどん色っぽくなると思う、音楽も、人間としても。

すごいいいこと言ってくれますね(笑)。個が見えやすいものが如実に受け入れられてるような気がするんですよね。それこそBAD HOPがABEMAでやってた番組あるじゃないですか。

─「1000万1週間生活」ね。めちゃくちゃ面白かったよね。

面白かったし、あの人たちのこと好きになったんですよ。ぶっちゃけ、音楽自体は聴いてなかったんですけど、あの番組で彼らの個が見えたうえで聴いた曲がよかったというか。

─ラッパーは特にその流れにもっていきやすいよね。

そうなんですよね。トラックは別の人が作るってなったときに、リリックは自分を出す以外ないじゃないですか。だから、ここからTempalayももっと個が出るように削ぎ落としていく作業になるんじゃないかなと思いますけどね。

─スリーピースバンドとしてのTempalayの生々しい個が見えるアルバムとも言えるのかなと思いますけどね。「愛憎しい」の〈あのときせいいっぱい生きていたもの同士 永遠に〉というフレーズはあきらかにメンバーに向かってると思うし、だからこそ「これ、ラストアルバムにするつもりなのかな?」とも思ったんだけど。

これは、宮崎駿が、高畑勲に向けた弔事から取ったんですよ。



─ああ……!!

「パクさん。僕らは精一杯あのとき生きたんだ」って。

─ああ、それで「愛憎しい」か。宮崎氏の高畑氏への愛憎が、『君たちはどう生きるか』を作らせたわけで。

そうそう。で、この曲はアルバム制作の最後に作ったので。なんだかんだで、このアルバムは3人で作ったという感覚があったので。いろいろ思うことはありますね。鳥山(明)さんが亡くなったのが「ドライブ・マイ・イデア」をリリースする1週間前だったり。



─そうだよね。鳥山さんの訃報に接して思うこともめちゃくちゃあっただろうし。

うん、そうですね。結局、あの人は自分の顔じゃなくて作品をもって自分を提示したじゃないですか。だから、こんなに世界中の人が悲しんでいて。結局、最後はそこに尽きるなって。音楽家というくらいだから。

【関連記事】藤本夏樹が語る、Tempalayを通して見る「音楽」のあり方、果敢な実験精神

【関連記事】AAAMYYYが語る『(((ika)))』のサウンドメイキング、「大人になったアルバム」の意味


Photo by Mitsuru Nishimura


『(((ika)))』
Tempalay
ワーナーミュージック・ジャパン / unBORDE
発売中
配信リンク:
https://tempalay.lnk.to/ika_Album

Tempalay Tour2024 “((ika))"
5/17(金)東京・Zepp Haneda
5/24(金)北海道・Zepp Sapporo
5/26(日)宮城・仙台PIT
5/29(水)愛知・名古屋Zepp nagoya
5/31(金)福岡・Zepp Fukuoka
6/1(土)広島・ブルーライブ
6/9(日)新潟・LOTS

惑星X
10/3(木)東京・日本武道館

https://tempalay.jp/

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