あきらめたくないと思った理由─じゃあ、なんでこのアルバムをそこまであきらめたくないと思ったんですか?う〜ん、なんだろうな。ムズいっすね。普通に年齢とかですかね?
─年齢以外の理由もたくさんありそうだけどね。まぁ……武道館が(アルバム制作の)先に決まってたというのもあるかもしれないですね。というかね、ぶっちゃけると、今、瀬戸際な気がするんですよ。Tempalayがどういう方向に行くのかが。むしろこのアルバムで決まるんじゃないかと思ってたんですよ。(バンドとしての)戦い方というか。
─道筋とか。道筋っすね。ある種、メジャーでリリースすることの仕組みとか、世の中の流れとかをなんとなくわかったうえで作ったアルバムなので。自ずと「これでどうや!」というアルバムを作りたいと思ったというのはあったかもしれないです。
─だからこそ、全19曲というボリュームになったというのもある?これはもう、シングル曲が多いからで。俺はシングルが入ってるアルバムが嫌いなんですよ。でも、大人の事情もあるからシングルを入れなきゃいけない。そうしたらやっぱりシングル曲の倍以上は新曲を入れたかった。
─そういう意地もあった。ありましたね。最初は、前半は新曲で、後半はシングルみたいな、A面、B面くらいの構成にしようと思ったんですけど、マネージャーから「それはあんまりじゃない?」と言われて。っていうくらいムズかったっすね。だって、シングルってすでに個体として世に出ていて、固有のキャラクターもあって、アルバムに入れるために意味を後付けするわけじゃないですか。
─最初にアルバムを作り上げてからシングルを切る場合もあると思うけど、多くの場合は綾斗の言う通りだと思います。だからムズいんですよ。こっちはアルバム全体の構成を想像して新曲を作るので。そこに既発シングルを入れるとバランスが合わなくなってくる。だから本当にいろいろギリギリだったし、納期もパツンパツンで。1カ月で9曲くらい録ってるので。曲順も、タイトルも、ジャケットも全部ギリギリ。だから本当に「ああ、もっとこうできたな」というアルバムです。でも、音に対して最後まで向き合ったとも言える。3年前よりもいろんなことが現実味を帯びてるなと思いますけどね。
─でも、Tempalayの状況が悪いなんて全然思わないけどね。ああ、悪くはないと思いますよ。でも、メジャー的にはべつによくないんですよ。会社ってやっぱり数字をとってなんぼなんで。前はメジャーと契約したことを武器みたいに思ってたんですよ。でも、実際はそうじゃなくて、やっぱりお互いに利用するものなんですよね。
─基本的にそういう相互関係ですよね。そう。めちゃくちゃ基本的なことなんですけど、音楽家って意外とこれをわかってないんですよ。音楽家だから。
─うん。そこに現実的に気づいていって。じゃあもっとこうしてもらうためにはこういう動きをしなきゃいけない、みたいな。そういうテンションが自分の中で生まれてきたというか。って感じっすね。つまり、いつだってバンドも終わるかもしれないから、こっちもちゃんとリスナー、お客さんに対して真髄を示さなきゃいけないなと。お客さんからしたらメジャーでリリースしようがどうでもいいはずなんですよ。
─もちろんそうだと思う。そう。絶妙なバランスでこのアルバムを作ってましたね。
─でも、それが動力にもなったという。まぁ、そうっすね。
─だから、ずっと言おうか迷ってたんだけど、これがラストアルバムでもおかしくないような熱量に満ちていると思うんですよね。それは、本当にそうで。当初はこれを出して解散しようと思ってたんで。
─やっぱりそういう気持ちもどこかであった。そうですね。アルバムを作りだす前は武道館で解散しようと思ってたんですよ。
─無責任な言い方としては、終わり方としてはきれいかもしれないしね。はい。終わりは常に探してはいるんですけど。このアルバムを作る前はTempalayとしては続ける理由はもうないなという感じだったんですけど。逆に制作が始まって、回転しだしたときに少なからずTempalayというバンドに希望を抱いたというか。
─そう、それもわかるんですよ。やっぱり誰にも似てない音を、音像を、歌を生み出してるという手応えがあったんじゃないかなって。いや、悔しさのほうが大きいですよ。というより、もっといいものが作れるなという感じですね。作ってるときは数字を意識してなかったし、作ってる状態に希望を感じてた。だから、あとから数字に落ち込むんだけど。でも、音楽家になったなって思います。でも、お茶の間の、世間のミュージシャンにはなってないなって。そこで初めて愕然とするわけですよ。完成すると、予約枚数とか数字がワッと押し寄せてくるじゃないですか。
─綾斗くんが言ってる数字ってどれくらいの規模を指してるの?いや、次に希望が持てる数字っすね。結局、それは周りの期待値で僕らは音楽で遊んでるんで。
─でも、予約枚数云々の最初の現実的な数字はあるかもしれないけど、実際にアルバムを聴いてもらう前にそのジャッジを下すのは早計でしょう。早いんですよ、僕は、判断が(笑)。なんとなく思い描いていた、アルバムをリリースするまでのストーリーがあったんですけど、いろいろタイミングが合わずに自分がやりたいように進めなかったという悔しさもあって。そういうのも全部含めて悔しいし、愕然としていて。でも、だからこそTempalayをやめる気が逆になくなった。やめられなくなった。
─その言葉を聞けて率直にうれしいけどね。満身創痍で思い描いた通りのストーリーでリリースできて、手応えもめちゃくちゃあったらやめてたかもしれないですね。数字関係なく。音も全部満足した状態で、数字が付いてこなかったら、「ああ、もうしょうがない」って。
─でも、まだ全然やるべきこと、やりたいことあるわっていう。そうそう。だからこのアルバムは気に入らないでいいんですよ。
─めちゃくちゃ楽しませてもらったリスナーとしては愛してほしいですけどね、このアルバムを。なんか、愛せる日はくると思うんですよ。
─『ゴーストアルバム』のときもそう言ってたよね。あのアルバムは、僕、作ってたときは愛してたんで。そこからリリースするくらいのタイミングのインタビューで「今、僕は『ゴーストアルバム』全然聴けないっす」って言ってたはずで。でも、僕は今、この『(((ika)))』というアルバムを全然聴けますよ。聴けるけど、つまんねぇなとは思う。
─めっちゃ面白いアルバムだよ。だから、もっとできるっす(笑)。ぶっちゃけ、今年中にはもう1枚アルバムを出すっすね。
─おおっ!同時に、「小原綾斗とフランチャイズオーナー」の制作にもすぐに取りかかりたい。それくらい僕は滾りすぎてますね。滾りすぎて周りが追いついてない状況ですね。「もっとついてこいよ!」って思う。
─その前に、このアルバムのどの曲かが飛び抜けて広がっていく可能性だって俺はあると思うけどね。うん、それはわからないと思います。可能性はあるとは思うんですけど、ただアルバムというアートフォームとして納得してないから。だから、すぐに次に取りかかりたいってなってる。まぁ、そもそも僕らが3年もアルバムを出さなかったのが悪いんですけどね(苦笑)。既発シングルはライブとかでも飽き飽きしちゃってるんで。でも、これから僕らを知る人のほうが多いと思うし、その人たちにとっては新しいものだから。楽しんでほしいですけどね。
Photo by Mitsuru Nishimura