藤本夏樹が語る、Tempalayを通して見る「音楽」のあり方、果敢な実験精神

藤本夏樹(Photo by Mitsuru Nishimura)

Tempalayが夢と現実、美しさと醜さ、生と死といった相反するようで実際には表裏一体の要素を独自のサウンドスケープに落とし込める理由は、パーソナリティと音楽観の異なる3人のメンバーが混ざり合っているからこそである。そして、3人の中でももっとも純粋に音楽と向き合っているのが、ドラマーの藤本夏樹だと言ってもいいかもしれない。

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前作『ゴーストアルバム』以降の3年間の間には『pure?』と『RANDOM』という2作をソロ名義で発表し、Tempalayのルーツでもあるアメリカのサイケな宅録音楽家への敬愛を改めて示すとともに、陶酔感のあるクラブミュージックへの傾倒も感じさせたが、リズムトラックのみならずシンセにも大きく関与した『((ika))』では完全にサウンドメイクの軸を担い、混沌と調和が相まみえる作風に多大な貢献を果たしている。「Tempalayは実験の場」と語る藤本の音楽観に改めて迫った。

―Tempalayは今年10周年で、アルバムにはタイアップ曲がたくさん入っていたり、武道館公演が決まったり、確実にバンドの規模感は大きくなっています。その一方では個人のソロ活動があったり、私生活にもそれぞれ変化がある中で、Tempalayというバンドに対する向き合い方の変化をどのように感じていますか?

藤本:他の2人(小原綾斗/Vo, Gt、AAAMYYY/Syn, Cho)はわからないですけど、俺はずっと変わってない気がします。「実験する場所」みたいなイメージで、売れる売れないはわりとどうでもいいというか、それぐらい自由にやらせてもらってますね。武道館公演も「よし、ひとつ上のランクに行ったから次はもっとこうしよう」みたいなのも自分的には全くなくて。ただ聴いてる音楽が日々変わっていったりしてることを、曲を通して表に出していきたい。そこは本当に変わってないですね。

―結成当初から変わってない?

藤本:そうだと思います。いろいろ試してみて、上手くいった例があったり、ダメだった例があったりしながら、自分の中の引き出しを増やしていくみたいな、それ自体が楽しくて音楽を作ってるので。「もっと会場を大きくしていきたい」とか「日本でこれ以上売れたい」みたいな気持ちはほぼゼロに近いかも。どちからというと、もう十分に規模は広がったから、もうちょっと深くしていきたいというか、もうちょっと洗練させていきたい、みたいなことの方がより強くなってますね。変に広がる音楽をやるよりは、「自分たちはこれです」みたいなものを追求したい気持ちがより強くなったかもしれないです。

―今回のアルバムもタイアップ曲はたくさん入ってるけど当然セルアウトしているわけではなくて、「自分たちはこれです」というバンドとしての濃度は明らかに濃くなっていると思います。

藤本:そうですね。今回AAAMYYYが俺のソロのライブを見てくれたときに、「シンセの音色やフレーズを一緒に作りたい」みたいなこと言ってくれて。もともとAAAMYYYが加入する前は俺が結構シンセも作ってたんですけど、AAAMYYYがシンセとして加入してからはAAAMYYYがやりたいようにやる方が健全だなと思ってたんです。でも今回AAAMYYY側からそうやって言ってくれたことで、ほぼ全曲一緒にシンセを考えて、アレンジ面も深くやれた感じがします。そういう意味では、俺がしたいことをこれまでよりも濃くやってしまったかもしれないですね(笑)。

―アルバムにはいろんな方向性の曲が入っているわけですけど、全体の方向性やテーマ性の共有はどの程度ありましたか?

藤本:そういうのは全くないです。綾斗からデモが送られてくるのがレコーディングの直前になることが多いので、最近は当日レコーディングスタジオに行って、「今日ってどんな曲録りますか?」って、その場でデモを聴いてやってるくらいなので、アルバム全体のテーマとかは何も聞いてないです。1曲1曲を別のものとして捉えてその場で作っていく、みたいな感じですね。

―楽曲の大元を綾斗くんが作るのは昔から変わってないと思うけど、その先がより分業的になっている?

藤本:そうですね。綾斗が持ってくるのはかなりデモっていうか、どう解釈してもいいみたいな状態で持ってきてくれるので、メロディだけはちゃんと生かしつつ、あとは何をやってもいいんだなっていう解釈でやってます。大体ベースとドラムを一緒に録るので、「どういう感じのノリにしようか?」みたいなことから話して、音作りをして、「じゃあ、どんなイントロにする?」から始まる感じです。

―そんなに自由度高いんだ。

藤本:コロナに入ってすぐのときに作った『ゴーストアルバム』は、みんなでロジックのプロジェクトを渡し合って作ったりとかして、あれはあれでよかったと思うんですけど、今はもう完全にセッションみたいなノリになってるというか、デモを渡されて、その場でゼロから全部作っていく感じです。前はレコーディング前に1回リハに入って、実際に演奏して試して、みたいな時間があったけど、今はそれもせずに、レコーディングスタジオで「ゼロから作っちゃおうぜ」みたいなことになってる感じですね。



―それぞれの役割がはっきりしたからこそそれができるようになった?

藤本:1stアルバムのときとかは「1日で10曲録ろう」みたいなノリだったから、絶対無理だったんですけど、今は1日で録るのが1曲とか2曲なんですよね。シングルごとに録ることが何回か続いて、「ドライブ・マイ・イデア」とか「Q」とか「Superman」とか「今世紀最大の夢」とか、「その1曲だけ録る」みたいなのが続いたので、その作業が定着して、そのままアルバムも作った感じです。とはいえ一曲録るのにドラムとベースだけでも12時間とかかかるから、マジで大変でした(笑)。



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