藤本夏樹が語る、Tempalayを通して見る「音楽」のあり方、果敢な実験精神

「弱く叩く」ことでできること

―ドラムのレコーディングに関しては、今回どんな実験を試しましたか?

藤本:まだアレンジが固まってない段階でドラムを録るので、とにかく削っておこう、たくさん叩かないでおこう、みたいなのはありました。できるだけ隙間を作っておいて、ギターとかシンセとかコーラスで曲の緩急をつけられるような作りにしたいなって。だからすごく今っぽい作り方というか、ドラムはわりとシンプルだけど近くにいて、みたいなのをイメージしてたんですけど、ミックスのときに綾斗が「この曲はこういう方向性の音像だったんだよね」みたいなことをそこで言い出すこともあって(笑)。自分のソロのときは「こういうミックスにしたいからこういう音作りで、こういうフレーズで」みたいなのがあるんですけど、Tempalayの場合はそこからもう一度方向性を調整することも多々ありました。ただ最近のTempalayは音がどんどん増えて、飽和しちゃうことがよくあったので、なるべく音を間引くことは意識してましたね。

―録り方自体も変わった録り方をしてるんですか?

藤本:生ドラムではあるんですけど、サンプリングのような感じにしたかったので、全曲めちゃめちゃちっちゃく叩いてるんですよ。本当になでるくらいの感じ。ミックスエンジニアの奥田(泰次)さんが録りの時点で軽くサチュレーションっぽい歪みをかけてくれて、シンバルとか強く叩いちゃうとちょっと耳に痛いみたいな状態で演奏することで、かなり力の入ってないプレイになって、そうすると音像的には近くに持ってきやすい。「今世紀最大の夢」あたりからそういう感じで録り出しましたね。なので最初の方に録った「憑依さん」とかはもうちょっとライブっぽい感じなんですけど、新しく録った曲に関してはエモーショナルさはあえて削って、もうちょっとビートが近い感じにしたいなっていうのがありました。





ー最初から素材として録ってる意識だったと。

藤本:演奏自体はちゃんとしてるけど、素材を切り貼りしたかのようなニュアンスを出したかった感じですね。新しく録った曲で強く演奏したのは「愛憎しい」くらいで、あれは70年代のハードロックとか、ザ・フーとか、そういうノリをイメージしてたので、普通にTHEロックドラマーなスタイルですけど、その他は基本的に全部弱く叩いてます。シンバルを叩いた回数も10に満たないんじゃないかぐらい、広がるような音はほとんど使ってないんじゃないかな。それこそAAAMYYYが「シンセを手伝って」って言ってくれたのが「今世紀最大の夢」を作る前ぐらいで、だったらシンセがちゃんと見えるようにしたいなと思って。シンバル類の広がりがシンセの美味しい部分を吸っちゃったりするので、ドラムで広がりを作るようなフレーズはできるだけしたくなくて、綾斗が「ここは広げてほしい」って言ったとき以外はほとんどやってないですね。



―「NEHAN」はダンスミュージック的なアプローチなので、今回の録り方に合ってますよね。

藤本:「NEHAN」は最初から「バンドサウンドだけど、クラブミュージックっぽいことがしたい」みたいなのがあったので、普段はTempalayであんまりやらないですけど、クラブ系のキックの音を足して、会場が揺れる系の低音が出せたらいいな、みたいな感じで重ねたりはしました。あと今回パーカッションの方が参加してくれて、素材をいっぱいもらったので、それを俺が調理して当てはめたりできたのも面白かったです。



―「湧きあがる湧きあがる、それはもう」はプレイ自体はパンキッシュなんだけど、音色はかなり加工されているのが面白い。

藤本:曲を聴いただけだとそうは思わないと思うんですけど、これもめっちゃ弱く叩いてるんですよ。あのテンポで弱く叩くとノリが出ないので、結構難しかったですね。



―今回試した録り方は誰かのやり方を参考にしたりしたんですか?

藤本:それこそずっと好きで聴いてたマック・デマルコであり、テーム・インパラとかもそうだと思うんですけど、あの辺の人たちのレコーディング風景を見ると、めちゃめちゃ適当に弱く叩いてて。マック・デマルコとかスティック落としてるぐらいの感じで叩いてるんですよ(笑)。そのあたりはエンジニアの奥田さんもすごく詳しいですからね。ドラムはやっぱりセットなので、スネアに立ててるマイクでシンバルの音も拾っちゃうし、それぞれ干渉してるんですけど、それをできるだけ分離させることで、「スネアだけ近くしたい」みたいなことが可能になってくる。そのためにはどうしたらいいかっていうのは、奥田さんと一緒にすごく考えました。

―そのための方法のひとつが、弱く叩くということ。

藤本:波形で見るとすごくわかりやすくて、弱く叩くことで隙間の時間ができるんですよ。強く叩いちゃうと他も共振もしちゃうから、スネアだけ叩いてもシンバルが共振したりしちゃう。そういうのをできるだけ抑えられるような録り方を工夫しました。

―ベースに関してはBREIMENの高木祥太くんに加えて、最近ライブでもサポートをしているODD Foot Worksの榎元駿くんが参加しているそうですが、これまでとの違いをどう感じていますか?

藤本:『ゴーストアルバム』のときは結構祥太くんがアレンジもやってくれてたんですよね。今回その祥太くんが「アルバムのレコーディングに参加できないかも」みたいになって、ベースのアレンジも「俺がやらないとな」みたいな気持ちになったのは確かです。なので、ベードラの段階ではこれまで以上に自分の納得いくものに近づけられたかなって。祥太くんもえのきくんも曲を作ってる人なので、ミックスを見据えた音作りやフレージングを考えられる人で、そこはすごくやりやすかったし勉強にもなりました。

―シンセに関しては、AAAMYYYだけで作るときとどんな違いがありましたか?

藤本:今回ライブでの再現性を考えて、機材を結構絞ったんですよ。なので、ほとんどProphet6で作ったんじゃないかな。「Superman」は小西(遼)くんがムーグを持ってきてくれたり、アナログシンセで出ない部分はPCに入ってるシンセを使ったりはしたんですけど。



―AAAMYYYとはどんなやりとりがありましたか?

藤本:基本的にずっと一緒に作業をしてました。俺機材を触るのが好きなので、いろいろ音作りをして、それにAAAMYYYYが意見をくれて、そこからまた調整して、みたいな感じ。それに対して、綾斗から「もうちょっとこういう方がいい」みたいな反応があったときは、デモに入ってるロジックの音を生かして、アナログの太さを補強したり、生っぽさをうっすら重ねたり、質感調整のためにエフェクト系を通したり、うっすらテープっぽいリバーブをかけてざらつきを出したり、そうやって調整していった感じです。

―そこはソロでの制作による経験値が反映されている部分かもしれないですね。

藤本:確かに、そうですね。本当に毎日機材触ってるんで(笑)。ソロの新しい曲も作りたいと思うんですけど、過去曲のアレンジとかしてると「この音色はこうしたらもっといいな」みたいなことばっかりやっちゃって……音作りは一生やれます(笑)。でもやっぱり今回はライブでいい音を出したいなっていうのがあったので、ライブでも使う機材で作れたことにはわりと満足してますね。パソコンで作った再現不可能な音楽もそれはそれでいいかもしれないけど、バンドがそれをやるのはあんまりいいイメージがなくて、俺は演奏してる姿が見えるような音楽が好きなんですよね。「この音色からこの音色に急に行くのは繋がりおかしくない?」みたいなのはできるだけ避けたいので、一曲の中で使う音色はある程度絞って、統一感を出したいと思いました。

―ただ今回の楽曲は大胆なポストプロダクションも特徴になってますよね。

藤本:そこは俺よりも綾斗の趣向が強い気がします。「遖(あっぱれ)!!」の間奏とかにしても、俺は何もしなくても聴けるとは思うんです。でも綾斗がミックスのときに奥田さんに「マジでぶっ壊したいです」みたいなことを言って、奥田さんの宿題になり(笑)、奥田さんが何パターンか提案して、その中から選ぶ、みたいな。だから綾斗の方がカオス感というか、ごちゃごちゃした感じが好きで、俺はもうちょっと整理された音像の方が好きなので、その両方がミックスされた結果かなと思いますね。




Photo by Mitsuru Nishimura

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