CHAIはなぜ解散を選んだ? ラストライブから考える「NEOかわいいをフォーエバー」の真意

Photo by Yoshio Nakaiso

今年1月に活動終了を発表したCHAIのラストライブとなった、全国ツアー「CHAI JAPAN TOUR 2024『We The CHAI Tour!』」のファイナル公演が3月12日に六本木EX THEATER ROPPONGIにて開催された(当日の模様とドキュメンタリー映像を収録した映像商品『We The CHAI Tour! FINAL ~NEO KAWAII IS FOREVER♡~』が7月3日にリリースされる)。デビュー当初から4人を取材してきた音楽ライター/編集者・矢島由佳子は、最後の勇姿をどのように受け止めたのか。

【写真ギャラリー】CHAIライブ写真(全25点)

3月12日をもって、“ニュー・エキサイト・オンナバンド”CHAIが解散した。

解散について、CHAIは次のように発表した――「このたびCHAIは次のツアーを最後に「NEOかわいいをフォーエバー」(=かいさん)することにしました。CHAIがずっと発信してきた「セルフラブ」、なりたい自分になることをこれからも自分たちがかなえていくために、メンバーそれぞれの道を進むことにしました」。

そのニュースは世界中のメディアで報じられた。社会的なメッセージもユーモラスに伝えてきたCHAIが解散さえも自分たちらしい言葉で表現したことに私は感心したが、中には「NEOかわいいをフォーエバー、って何?」と思った人もいることだろう。

CHAIに限らず、バンドが解散する理由の真実とは本人たちにしかわからないものだ。夫婦やカップルが別れた際に「なんで別れたの?」と聞いても、大抵の場合、人に伝え得る出来事の奥には本人たちにしかわからない複雑な心情が絡まっているのと似ている。


Photo by Yoshio Nakaiso


Photo by Yoshio Nakaiso


CHAIとは、2012年、マナ(Vo, Key)が双子の姉妹であるカナ(Vo, Gt)に「やっぱりバンドがやりたい」と話したところから、高校の軽音楽部で同級生だったユナ(Dr)と、マナの友人だったユウキ(Ba/当時はベース未経験だった)を誘って結成されたバンド。2015年に1st EP『ほったらかシリーズ』を完成させて、ラストライブ「CHAI JAPAN TOUR 2024『We The CHAI Tour!』」のダブルアンコールでも披露した「ぎゃらんぶー」は、いきなりSpotifyのUKチャートTOP50にランクイン。2017年にはSXSWに出演、初の全米ツアーを敢行するなど、活動当初から世界に向けて音楽を届けてきた。

私はこれまで数えきれないほどCHAIのインタビュー記事やコラムなどを執筆・編集してきたが、2016年の初取材から、4人は「グラミー賞を取りたい」とはっきり語っていたことを覚えている。その夢は多くのバンドが口にするものであるが、実際に叶えていくために具体的な歩みを進めていける人はなかなかいない。CHAIは作品やライブを重ねるごとに、悔しい思いも経験しながら、自分たちの音楽をアップデートさせて、世界で戦うために必要なスキルと実績を着実に積み重ねていった。「1年の半分くらいは海外にいる」というようなペースで世界ツアーを何度もまわり、アメリカの音楽メディアPitchforkでは早い時期から高い評価を受けて、「The New York Times」「The Guardian」など主要メディアにて取り上げられるだけでなく「NPR Music Tiny Desk Concert」にも出演(「Tiny Desk Concert」は最近NHKにて日本版がスタートしたことでも話題だが、本場版に出演した日本のアーティストはコーネリアスに次いでCHAIが2組目だった)、さらにはPitchfork Music Festival、Primavera Sound Festivalなど世界各国の大型フェスに参加、ゴリラズやデュラン・デュランなど世界的アーティストたちとのコラボを果たすなど、ここに書ききれないくらいの唯一無二な方法で日本から世界へと続く道を切り拓いていった。



「コンプレックスはアートなり!」。その言葉も、CHAIは初期から掲げていた。マナとカナは小さい頃から、写真を撮られるたびに「目を開けなさい!」と親から言われていたそうで、「かわいい女の子=二重で大きい目」といった世の中に蔓延っている価値観から自らを解放させるために、音楽を通じて「コンプレックスはアートなり」という考え方を発信するようになった。CHAIがのこした怒りと肯定のマスターピース「N.E.O.」(ラストライブでは2回演奏し、CHAIとして最後に演奏したのも「N.E.O.」だった)でも、“目ちっちゃい 鼻低い くびれてない 足太い オーライ! Ye Yeah!”と痛快に叫ぶ。掲げたコンセプトの言葉通り、“目が小さい!”とステージ上から大きな声で叫び、自分のコンプレックスをアートに変えることで、CHAIは世界の人々と繋がっていったのだ。



Photo by Yoshio Nakaiso


Photo by Yoshio Nakaiso

解散の発表を聞いたとき、私は衝撃を受けた。定期的にインタビューをさせてもらっている中で、バンド内の関係性が変わっていることや各メンバーのモード変化などを感じることはあったが、ここで解散を選ぶことは想像していなかった。最後にCHAIとしてインタビューをしたのは、4thアルバム『CHAI』を完成させた昨年8月。『CHAI』は、Ryu Takahashi(3rdアルバム『WINK』からタッグを組んでいる、アメリカ在住のプロデューサー。坂本龍一、BIGYUKIなどの作品にも携わる)がサウンドプロデューサーとして全面的に参加し、バンドサウンドに縛られず、メンバー以外のプレイヤーも交えながら、今の時代を生きる世界中の人たちの耳に馴染みやすいグローバルトレンドの音像を徹底的に追求し、CHAIのポテンシャルを広げることに挑戦した作品だった。それを経て、セルフプロデュース色を再び濃くしたアルバムを作るとどういった音像やエネルギーが生まれてくるのかを見たかった、というのが私の正直な想い。『CHAI』で得た武器を自分のものにしてさらに振り回していけば、もっとすごいものができるんじゃないか、と妄想してしまっていた。『CHAI』はグラミー賞にエントリーまでしていたといい、その夢に一歩ずつ近づいているように見えていたからこそ、ここで歩みを止めることはとても寂しかった。

しかし、「CHAI JAPAN TOUR 2024『We The CHAI Tour!』」ファイナル公演を見て感じたのは、このタイミングが引き際としてベストであったのだということ。マナが「すごく明るい未来に行くためのCHAIとみんなの門出」と呼んだラストライブで、4人――特にマナ――からは複雑な表情も垣間見えたが、ここで「NEOかわいいをフォーエバー」=永遠のものにすることで、ここまで築き上げてきた「CHAI」と「NEOかわいい」の概念を守ろうとしたのだと汲み取った。


Photo by Yoshio Nakaiso

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE