The Snutsが語るこれまでの歩み、ミレニアル世代のギターバンドとして抱くリアルな感情

最新作『Millennials』のハッピーなヴァイブス

―2ndアルバム『Burn The Empire』は、どこか不穏でアグレッシヴなサウンドになった印象です。そしてそれと呼応するように、歌詞では政治的な不満や怒りが歌われるようになりました。このタイミングで政治的なテーマを取り上げようと思ったのはなぜでしょうか?

ジャック:あのアルバムはとても早く出来上がったんだ。1stが出来上がってからすぐに取り掛かってね。あまり考える時間もなかったから、プロセスの中で生まれた曲のテーマは「いま」を強くとらえていた。当時自分たちの中にあった考えや感情だね。純粋に、その時の自分たちの気持ちから曲を書いていたんだ。最初から最後まで4週間くらいだったかな。

―それはかなり早いですね。

ジャック:曲を書いてレコーディングして……というのを同時進行でやっていたんだ。勢いで書いた感じだったね。あのアルバムではコーヒー(クラレンス・コーヒーJr.)とナット(ナサニエル・レドウィッジ)、2人のプロデューサーに携わってもらったんだけど、彼らのスタイルは僕たちとまったく違った。何せ彼らはバンドと仕事をしたことがなかったからね。ポップやヒップホップ、UKアーバンミュージック畑から来ているんだ。それがクールだったね。1stよりもずっとコラボ的なプロセスだった。ストレートに怒りやフラストレーションを表現しながらも、できたものにはとてもハッピーだったよ。あのアルバムもとても誇りに思っているんだ。




―そのコラボ的プロセスの成果か、「Zuckerpunch」ではヒップホップを想起させるビート、「Cosmic Electronica」では初期ケミカル・ブラザーズのようなブレイクビーツが導入されていましたよね。

ジャック:そうそう、あの頃はケミカル・ブラザーズをよく聴いていたんだ。だから理に適っているね。

―ケミカル・ブラザーズは当時の音楽的インスピレーションのひとつでした?

ジャック:そうだと思うね。アルバムを作るときは自分たちのやっていることをどこかの時点で証明する必要があると思うんだ。デビューアルバムのときは特にね。2作目はどうするのか?という問題で結構雑音が多くて、どんな感じになるのか、どんなサウンドになるのか、予測している人たちもいた。あのアルバムにはそういう人たちへの反抗的な要素があったのは確かだね。「僕たちは今でも自分のことは自分で決めている。まだまだ驚かせてみせる」っていう感じだった。間違いなく実現できたと思うよ(照笑)。


Photo by Gary Williamson

―ええ、その通りだと思います。前作のときは周囲のノイズが多かったということですが、ニューアルバムの『Millennials』はこれまでの所属レーベルであるパーロフォンから離れ、自分たちで設立したHappy Artist Recordsからのリリースです。ディストリビューションはThe Orchardですね。より自由に活動できる、フレキシブルで現代的な契約形態に移行したと思いますが、差し支えなければ今回このような決断をした理由を教えてください。

ジャック:2作目の頃には、レコード会社のビジョンと僕たちのビジョンがかなり大きく離れていることが判ってきたんだ。若手バンドとしてレコード契約を結んだ頃、音楽業界は今と全然違っていた。音楽そのものが前面に出て最重要視されていたし、僕たちとレコード会社とのディスカッションも音楽についてのことがメインだった。それが時が経つにつれて、特に2作目の頃は、あっちのフォーカスが(メンバーの)パーソナリティにシフトしてきて、SNS主導型になってしまったんだ。音楽について話をすることもあまりなくなって、個人のキャラクターについての批評みたいな感じで。

―ああ、なるほど。いまっぽい話ではありますけど。

ジャック:他のアーティスト達もそんな感じになっているのを見てきて、これは自分たちの精神衛生上良くないと思うようになった。幸せやウェルビーイングのためにも、自分たちがバンドとして学んだものを自分たちでやる方向に賭けてみようじゃないか、という話になったんだ。とても気が楽になって、楽しいプロセスだったよ。



―実際、『Millennials』は解放感や抜けの良さを感じさせるアルバムです。これまで以上にキャッチーでアンセミックな楽曲が詰まっているとも感じました。自分たちとしてはどのようなサウンドを目指したのでしょうか?

ジャック:実は、初めは特に何も計画していなかったんだ。とにかく一緒に曲を作ろうという感じで、新しいプロジェクトやアルバムを作り始めようなんてつもりはまったくなかった。とにかく一緒にプレイして、また自由に楽しみたいと思っていただけでね。そんな考えから「Gloria」が割と早く生まれたんだ。あの曲がアルバムのサウンドの方向性をある程度決めたんだと思う。できた曲を聴いてみたら、すごく楽しい感じで。その感触をそれから作る曲にもどう活かすかということを考えるようになったんだ。すごく早い段階でアルバムの雰囲気を決めた、とても重要な曲だと思う。ほんと、あの曲ができたときは早く出したくてたまらなかった。出すからには、これに続く他の曲もちゃんと辻褄が合ったものにしないとな、と思ったよ。

―「Gloria」のサウンドやヴァイブが、アルバム全体に影響を与えたんですね。

ジャック:2作目は当時の自分たちの気持ちを表す作品になったという話をしたけど、このアルバムもそういう意味では同じだったと思う。ハッピーで満たされていて、ワクワクしていて、アップビートで、ポジティヴで。そんなヴァイブがアルバム全体に流れているんだ。



―では、本作にインスピレーションを与えてくれた他のアーティストの作品はありますか?

ジャック:うーん……あの時は色んな音楽を聴いていたからね。でも自分たちのことにものすごく集中していたんだ。過去の作品に対する批判についても振り返っていてね。『Burning Empire』はとても気に入っているけど、もっとうまくやれたことはあっただろうかとか、どうすればもっといいバンドになれるのかとか、曲を聴いてくれる人たちにもっと共感してもらえるようにするには、ちゃんと分析することが大切だと思ったんだ。

―前作の反省を新作に活かそうとしたと。

ジャック:『Burning Empire』は結構変わった感じのアルバムだったし、歌詞的にも掘り下げて聴かないときちんと理解してもらえないと思ったから、今回はすごくポジティヴでダイレクトなものにしたかった。歌詞も入ってきやすくて、サウンドも普遍的な感じにして。そんな感じだったな。だから誰かの影響を受けたというより、自分たちの過去の作品の影響があるかもしれない。

―今回の歌詞は、ロマンティックなラブソングが多いですよね。

ジャック:アルバム全体を『Millennials』と名づけたのは、自分たちが書いている曲が、若い人物の人生の色んなハイライトやステージを表していることに早い段階で気づいたからなんだ。その時自分は人生のどんな場所にいるのか、そういうのがわかるものにしたかった。だから、もっと若い時だったら書かなかったかもしれないことも書いてる。人生の様々なステージでのロマンスや、それでどんな気持ちになるかとか、本当に恋に落ちているのか、単に恋という概念を追いかけているだけなのかとか。「Wunderkind」はロマンスという概念を追いかけているけど、「Gloria」はそれが確かなものになっていて、「Millionaires」はその良さを認めている。自分たちの人生を反映させている部分が大きいね。自分たちの人生の中で起こっていることに光を当てているんだ。

―1曲目の「Gloria」は恋に落ちる瞬間が歌われていて、次の「Millionaires」では金銭的に貧しくても未来への希望に満ちた2人の姿が歌われています。そしてアルバム後半の「Deep Diving」では、ある種の葛藤が歌われているように感じました。アルバム全体でひとつの物語が歌われているのかもしれないと思いましたが、実際のところはどうなのでしょうか?

ジャック:それは確かだね。曲がアルバムの中で時系列に並んでいる訳じゃないし、人生の中でまだ起こっていないことも取り上げているけど、みんな大抵の人に起こりそうな、共感してもらえそうな事柄なんだ。だからこそ「Deep Diving」のような曲を入れることも大事だった。いつかは誰もが受け入れないといけないような困難な状態を取り上げているからね。その状態をどうやって工夫して乗り越えていくかとか。あの曲も、このアルバムで取り上げている様々な感情のひとつなんだ。

―あの曲は、ちょっとミッドライフクライシスに通じるものがあるように思います。

ジャック:そうかも!(笑)

―あなたたちよりちょっと上の世代にも刺さるかもしれませんね。

ジャック:うん(笑)。



―アルバムのラストを飾る「Circles」は、本作の中でも一際壮大で感動的です。どのように生まれた曲なのでしょうか?

ジャック:あの曲にはすごく力を入れたよ。特にコーラス部分は……元々1stができた直後くらいに思いついたものだったんだ。ハードドライブに保存したままになっていて、しばらく忘れていて。でも今回掘り返してみて、「おっ、このコーラスはとてもいいな。でも何を意味しているんだろう?」と思ってね。それで、そのコーラスを中心にストーリーを組み立ててみたんだ。何を目指していたかというと、みんなそれぞれの人生があるけど、最終的には破滅に向かっていて……ほら、地球温暖化とか、核戦争が今にも始まってしまいそうとか。世界が滅亡した後の気持ちを想像してみたんだ。



―なるほど。そういう意味では、現代の社会的不安も反映されているんですね。

ジャック:もし世界が終わることになっているとしても、僕たちが一緒にいることが大事なんだ、カップルとして一緒に得たものが大事なんだ、みたいな気持ちをあの曲では形にしたいと思った。音的にはアルバムを締めくくる蓋になるようなものを作りたくて。最後にみんな手を高々と上げて聴くような。そういうエネルギーを目指して、具体的にどんな曲にするかを考えていった。最初はそんなにクレイジーなほどに色んな音が鳴っていなくても、終わりにはフルバンドで、ストリングスセクションもあって、強い幸福感を覚えるような感じになっているのが気に入っているよ。希望を感じられる形で終わって、僕も両手を上げたくなる。ポジティヴな雰囲気で終わりたかったんだ。

Translated by Sachiko Yasue

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