横山健とJun-Grayが語る、「Ken Yokoyamaはめっちゃバンド」の真意

アルバムの制作プロセスと収録曲について

ー今の話を聞いてて気になったんですけど、今作の曲づくりをしている段階で、候補段階とはいえすでにシングルの表題曲もカップリング曲も存在してたわけですよね? それらをどうやって各作品に振り分けていったんですか。

KEN 俺には「手書きエクセル」ってものがあってね(笑)。

ーなんですか、それは(笑)。

KEN 手書きで振り分け表を作ってそれを貼ってたの。で、曲づくりが終わるたびにそれを書き変えてまた貼り直して、曲が全部揃ってない時期から「この曲とこの曲を入れ替えよう」ってやってたの。アルバムは一応、10から12曲ぐらいを目標にしてさ、まだできてない曲はブランクにしておいたりして。横山ってすごいストイックな男なんだよね……!

ー……はい(笑)。たくさん曲をつくっていると徐々にクオリティが落ちてしまいがちだと思うんですけど、そうやって振り分けることによって楽曲の方向性が絞られていって、結果として曲の純度が高くなったんですね。

KEN そうなのよ。手書きエクセルのおかげです!

ーそれ、手書きの表っていうんですよ。

KEN うははは!

ー今回、これまでの作品と大きな違いがひとつあって、『Indian Burn』は初めてカバー曲が収録されていないアルバムになります。なんで「Tomorrow」(『My One Wish』収録)をシングルに振り分けたんですか?

KEN これはまた話が変わってくるんだけど、本当はあれ1曲でシングルとして出したいぐらいの気持ちだったのね。だけどあの曲をリードトラックにしちゃうと、こういった取材とかで(同曲でコラボした木村)カエラの稼働が増えちゃうなと。そこから「これって今、あの人がやりたいことなのかな……?」って俺がちょっと気を使い始めたの。一緒に曲をやることは決めてたけど、そこまでドカーンとやるところまで合意はしてなかったから。でも、カエラもいい人だから「嫌なことは嫌って言います」って言いながらも、多分いざとなったらやってくれたと思うんだよね。だからそれはまずいと思ってシングルの中の一曲にしたの。あと、1枚目のシングルは2曲入りで、自社通販を使って販売した、プロダクションとしては小さなものだった。3枚目のシングルはアルバムの先行シングル。だけど、2枚目はほかのシングルに比べてトピックがなかったのね。



ーたしかに。

KEN だから、そこでカエラの力を借りたかったっていうところもある。もっと言うとさ、俺はあのバージョンの「Tomorrow」がすごく好きなの。カエラとの現場もすごく楽しくてさ、きっとあの人も楽しんでくれてたと思うの。だから、本当は5人でひとつのバンドとしてミニアルバムをつくってもいいんじゃないか、ぐらい思ってたんだよ。最初はそれぐらい俺の気持ちは盛り上がってたんだけどさ、さっき話したみたいに日が経つにつれて現実が見えてきてさ。本人にそれを言ったら「ネガティブすぎて笑う」って感じだったんだけど、実際そうなっていっちゃって。で、元々はアルバムのクロージングナンバーとしてもいいなとか思ってたんだけど、最終的にはあのシングルのために力を貸してもらうことにしたんだよね。でも、結果としてあれが入ったことですごく華やかな3曲入りのシングルになったと思う。

ーそうやって収録曲を入れ替えていく中で、アルバムの色はどういうものにしたいと思っていたんですか。

KEN うーんとね……最終的には明るさの中に少しエモさがあるところを目指したかな。曲の仕上がりを見ていく中でエモさは拭えないと思ってて。たとえば、俺が持つすごくバカな部分とか突拍子もない部分ってあるでしょう? 「なんでここでそれを言う?」みたいな。

ーはいはい(笑)。

KEN そういった部分もちゃんと入れ込みたいなと。だから、明るくて、音楽的に豊かなものにしたかったかな。

ーJunさんは今回の12曲についてどう感じてますか?

KEN (Jun-Grayのモノマネをしながら)俺はKENがつくったベースラインをなぞるだけだから。

Jun-Gray (KENを無視して)KEN BANDに限らず、今までいろんなバンドをやってきたけど、新しいアルバムをつくるときって前回のアルバムを超えられるかどうかがバンドにとって大きなテーマになるじゃない? KEN BANDで言うと、『4Wheels 9Lives』を出したときにすごく満足感があったのね。コロナ禍でこれだけのものをつくれたって。で、あれを出した直後に次のアルバムに向かって新曲をつくり始めたんだけど、「やれるのかなあ……?」っていう思いが自分的にはなんとなくあったのね。でも、シングルシリーズがあったりいろいろ大変だったけど、今回も「前回を超えたね」って思えるものをつくることができたと思うし、楽曲のバリエーションに関しても、『4Wheels 9Lives』もけっこういろんな楽曲をやったんだけど、今回もいろいろとチャレンジした部分があってすごく満足感があるかな。

ー敢えて聞きますけど、今回Junさんが一番気に入ってる曲ってなんですか。

Jun-Gray 気に入ってる曲!? そもそも気に入ってないのがないから難しいんだけど……一番かどうかはわかんないけど、「A Little Bit Of Your Love」は、かなり好き。Ken Yokoyamaが好きな人って、2ビートで速い曲好きな人多いでしょ? でも、今回のアルバムで言うと俺はこの曲がかなり好き。もちろん、ちょっ速の「Parasites」とか「Heart Beat Song」もうちらっぽくていいとは思うんだけど。一番がいっぱい詰まってるアルバムだな。

ー「A Little Bit Of Your Love」は間奏がとてもカッコよくて大好きです。

KEN いいでしょ?

Jun-Gray これ、一番最後にできた曲。

ーへー!

KEN この曲はね、キーがころころ変わるのね。それをさらっと聴かせるためにものすごく苦労した曲でさ。でも、最終的には横山の中のビートルズが「イエス」って言っちゃったんだよね。

ーあっはっは!

KEN や、でも本当にそういうときに中~後期のビートルズを聴くと、無茶苦茶な展開をする中でしっかり聴かせるためのヒントがいっぱい見つかったりしてしてさ。

Jun-Gray 音楽的なことで言うと「Parasites」もすごいよ。この曲は一番と二番があってとか、サビがまた来てとか、そういうのじゃないからね。ずっと展開していっちゃう。

KEN そう、同じところに二度と戻らない。

Jun-Gray 面白い曲なんだよね。



ーあと、インスト曲「Indian Burn」ですが、合間合間で「ちっぱい!」って言ってます?

KEN あはは! ちゃんと当てたのは大志が初めてだよ。みんな、「何て言ってるんですか?」とか案外わかってなかった。俺たちははっきり「ちっぱい」って言ってるね。

ーなんで「ちっぱい」になったんですか。

KEN もともと、「ここに掛け声を入れたい」っていう構想が俺の中にあって。この曲ってサーフロックのインストっぽい感じじゃない? ベンチャーズとスカとオールディーズをミックスしたような。だから最初はサーフ用語を探したの。たとえば、「ワイプアウト!」とか「パイプライン!」とか。でも、音楽的には使い古されてる言葉だし、それをタイトルにしたら誰かのカバーだと思われるじゃない? それで「じゃあ、語感のいいものを探そう」ってことで「ちっぱい」がいいなって(笑)。破裂音がよくてさ。本当は「ゴーサーフ」とかMinamiちゃんと決めたものもあったんだけど。

Jun-Gray でも、「ちっぱい」が出てきてからは「ちっぱい、いいね」ってなって、そのあとに違う言葉が出てきても「いや~、下ネタがいいなあ」みたいな話になって(笑)、結局「ちっぱい」に戻っていくって感じだった。

ー「ちっぱい、いいね」ってだいぶ語弊がありますけどね。

KEN で、曲のタイトルもずっと「ちっぱい」だったの。マスタリングが終わっても「ちっぱい」。だからメンバー全員がそのまま「ちっぱい」になると思ってたんだけど、「ちっぱいってことはねえよなあ」って(笑)。

ーやっと(笑)。

KEN そう(笑)、そこでやっとみんな問題に向き合い始めたわけ。

Jun-Gray Minamiちゃんなんて「Chip Pieってありますからね」とか言い出して(笑)。

KEN ジャガイモとかの残り物で作るパイをChip Pieっていうことを発見して、「じゃあ、それでいいじゃん。ライブでは『ちっぱい!』って言うことにしてさ」って。貧乳賛歌のつもりで。でも、結局「なんで『ちっぱい』なわけ?」ってなった(笑)。

ー危なかったですね(笑)。

KEN で、その頃、ちょうどアルバムタイトルに「Indian Burn」っていういい言葉が見つかって、「じゃあ、この曲を『Indian Burn』っていうタイトルにしよう」ってことになったんだよね。後付けだけどさ、なんとなく「Indian Burn」って言葉にウェスタンギターみたいなイメージが俺の中にあって。デュアン・エディさんとかグレッチの昔のプレイヤーたちが持つ世界観みたいな。それとサーフロックってそんなに遠くはないのね。それで、インディアンから連想するマカロニウェスタン的な感じをこの曲に強引に結びつけたというか。

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