ライオット・ガールの象徴、スリーター・キニーが語る「喪失と鉄の絆」が生んだ新たな傑作

新章の幕開け「立ち止まるつもりはない」

『Little Rope』の制作における背景は、これまで以上にタッカーのボーカルにスポットライトを当てることになった。「私は個人的に歓迎しているし、誰よりも私がそれを必要としていたの」とブラウンスタインは話す。

しかしタッカーにとって、アルバムのテンションに合致するだけのボーカルパフォーマンスを引き出そうとするプロセスは苦痛さえも伴った。「Untidy Creatures」や、2ndシングルの「Say It Like You Mean It」のような感情がダイレクトに伝わってくる楽曲を歌うには、並々ならない覚悟を必要とした。



彼女は「Say It Like You Mean It」を完成させるまでの苦労を口にするが、ブラウンスタインとプロデューサーのジョン・コングルトン(昔からスリーター・キニーの大ファンだと公言している)は、タッカーの背中を押し続けた。

「僕にとってのバンドの最大の魅力のひとつは、心の奥深くにある感情を呼び起こすようなコリンのボーカルだった」とコングルトンは話す。「耳馴染みの良さなんて気にせずに、全身全霊で歌ってほしい。そう伝えたんだ」。

その日タッカーは真夜中に目覚め、「Say It Like You Mean It」の別テイクをスマホに吹き込んだ。「この曲が持つ逼迫感、喪失への共感を表現するに足るメロディが浮かんだの」と彼女は話す。

「このアルバムでの彼女のボーカルは、バンド史上屈指の出来だと思う」とブラウンスタインは話す。「いちリスナーとしてもバンドメンバーとしても、このアルバムでの見事にコントロールされたボーカルには心を揺さぶられる」(彼女は笑ってこう続けた。「要するに、私自身がコリンの大ファンだってこと」)。



現在49歳のブラウンスタインと50歳のタッカーは、クリエイティブであり続けることが大切だと考えている。「アルバムを作るたびに、自分たちを再発明する必要はないと思ってる」とブラウンスタインは話す。「私たちはまったく新しい、ラディカルなものを作ろうとしているわけじゃない。フリージャズやカントリーに挑戦しようとしているわけでもない。このバンドでやるべきことを理解した上で、どこまで柔軟になれるかを見極めようとしているの」

その意味を説明する目的で、2人は最近聴いているアーティストたちの名前を挙げてくれた。ロザリア、ペイルハウンド、ブロンドシェル、オリヴィア・ロドリゴ等。その一方で、ルシンダ・ウィリアムスやニック・ケイヴ等、昔から尊敬しているアーティストたちの作品を聴くことも多い。「ルシンダ・ウィリアムスもオリヴィア・ロドリゴも、どっちも必要なの」。

「今の若い世代って、年齢をまるで気にかけていないと思う。それって素晴らしいことよね」とタッカーは話す。「私たちにとってもそう。私たちは立ち止まるつもりはないから」。

「私にとって、このアルバムはスリーター・キニーの新章の幕開けなの」とブラウンスタインは付け加える。「コリンと一緒に音楽を作ることの喜びが凝縮されたようなレコードだから。私は慎重に、でもとことん楽しむつもり。それがいつ終わりを迎えるのか、誰にもわからないんだから」。

From Rolling Stone US.




スリーター・キニー
『Little Rope』
配信:https://found.ee/2lwBcX

Translated by Masaaki Yoshida

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