エル・デスペラードが語る、自由なパンク精神とプロレス観の源流

巨乳まんだら王国。とTHE冠

―少し話は脱線してしまいますが、デスペさんの去年から今年にかけての活躍。葛西さんとの試合も含めて、とんでもない名勝負ばっかりで。新日本プロレスの在り方、あるいはファンの見方や楽しみ方を拡張したと思うんです。

そう言っていただけると嬉しいですね。やりたかったことがそれだったんですよね。例えば「デスマッチなんか」とか「裸で戦うのに道具を使う前提なのはどうなのか」という声がありますけど、昔、新日本プロレスがやったデスマッチといえば、釘板ボードデスマッチって場外に敷き詰めたやつがあるんですけど、猪木さんと上田馬之助さんが行った。

―結局両者落ちなかった試合ですか?

そうです。あれは、場外に転落したらブッ刺さっちゃうから逃げ道を無くしたという意味での完全決着ルールなんですが、お客さんはそこに落ちるのを観たかったわけですよ。そういうことを考えると、生まれたら死ぬじゃないですけど、フリがあったらオチがあるということで、使おうと思ったら当てるし、当てられるしというのが僕の中ではあるから。言っておいて、使っておいて、嘘でした、はないんです。

―なるほど。

だからプロレスで「デスマッチなんて」「最初から道具がある前提で殴り合うのはどうなんだ」と言っている人と、もっと広く言えば、「プロレスなんてやらせじゃん」「八百長じゃん」「台本があるんでしょ」と何の悪気もなく言う人や、悪気ある人もいる中で、昔、顎を骨折して入院したときに、これから手術するというタイミングで若い看護婦の方が「アレって決まってるんですか?」って聞かれたことがあるんですけど、心中では「決まっていたらここにいるかい!」って思いながらも、やっぱりそう思われているわけじゃないですか。だったら1回観てくれ、頼むからって。俺はYESともNOとも言わないけど、観て面白いかどうかだけで判断してくれと思うんです。もちろん、血がダメな人に無理に見せようとはしませんが、「プロレスなんて」「デスマッチなんて」と言う人には、1回観てと言うのがやりたくて、葛西さんにリスペクトがものすごくあった上でやらせてもらっているし、佐々木大輔さんとやったときも佐々木さんと試合がしたかったんです。

―僕はデスマッチが好きというわけではないけど、葛西さんとの代々木のシングルは、超越していたし、これは見届けないといけないものだと思って、PPV買いました。

アレは、僕の中でいろんなタイミングとかいろんな縁とかいろんなものが集約されてあのタイミングだったので、あれ以上のものを意図的にできるかと言われたら出来ないです。ちょっと神がかっていましたね。

―プロレス史に残る名勝負でした。

そう言っていただけると、嬉しいです。



―また音楽の話に戻りますけど、新日本プロレスに入門した当時は何を聴かれていたんですか?

巨乳まんだら王国。を聴いてました。

―巨乳まんだら王国。!? 初めて聞くアーティストです。調べてみるとメンバーのミクスチャー感がすごいですね。

ミクスチャーしかない(笑)。何でもありなんです。曲自体はめちゃくちゃカッコいいです! ボーカルもめちゃくちゃ上手いんですけど、基本下ネタしか歌ってないという。



―どこで出会ったんですか?

マキシマム ザ ホルモンのCDを買って、それもジャケ買いだったんですけど。『ロッキンポ殺し』のジャケットの、漫☆画太郎先生のばばあがギターを弾いてる絵に惹かれて。最初は何を言っているか分からなくて、英語にも聞こえるし日本語にも聞こえるしと思って歌詞カードを見たら、全部日本語だったときの衝撃が凄くて、そこからホルモンはずっと聴いていたんですけど、その近辺の時代のバンドを探してた時に出てきたのがと巨まん(巨乳まんだら王国。の通称)と冠さんだったんですよ。

―冠さん!?

THE冠というメタルのバンドですね。それで、道場にいたときに、道場に届くように巨まんのグッズを買ったんですよ。そしたらボーカルの教祖から電話がかかってきて、「新日本の方なんですか? こんなものを送っても大丈夫なんですか?」と。大丈夫ですと言ったら、「今度ライブが池袋であるのでぜひ来てください」と言っていただいて、行ったのが池袋ADMでした。それが人生初ライブハウスだったんですけど、打首獄門同好会と巨まんのツーマンで、オープニングアクトが流血ブリザードでした。

―すごい時代。

人生初ライブで魚が飛んできましたから。作りかけのペヤングみたいなものも飛び交っていて、ライブハウスってこうなの?とカルチャーショックがありましたね(笑)。俺の知ってる音楽と違う!って。

―先ほどホルモンのお話が出ましたけど、ヒロムさんと話したりも?

当時はしていましたね。ヒロムは八王子出身ですごくジェラシーを燃やしたのを覚えています。

―なるほど。ちなみにヒップホップはどのようなアーティストを?

大学時代とかにスヌープ・ドッグとか、USのラッパーを聴いたり。あとは、ラッパ我リヤとか韻踏合組合とか餓鬼レンジャーとか、大学を卒業してから聴いてましたね。

―現在進行形で聴かれているアーティストも教えてください。

最近はThe Birthdayです。声優さんのポッドキャストを聴くためにSpotifyを入れたんですが、蓋を開けてみるとThe Birthdayとcocobatばかり聴いてるみたいですね。どのプレイリストで流れているか分からないけど、The Birthdayを流していると、BRAHMANもよく流れてきます。

―ちなみにBRAHMANはいつ頃から?

気づいたら聴いてましたね。多分、ホルモンから始まって、ライブハウスに行くようになったのは巨まんと冠さんの影響で、その時期にBRAHMANも自然と。カッコいいですし、TOSHI-LOWさんのMCに魂を持っていかれた感じがあるので、だいぶ後の方かもしれないです、好きになったのは。TOSHI-LOWさんが喋るようになったのって後期の方ですよね。

―確かに。いま、TOSHI-LOWさんのMCのお話が出ましたけど、プロレスラーとしてのマイクパフォーマンスでインスパイアを受けた部分などはありますか?

インスパイアを受けたというより、僕と同じことをやっているかもしれないこの人は、と思ったのが大きいです。マイクパフォーマンスでちゃんと事前に考えてきたことを言える人ってすごいなって思うんですよ。僕が全くそれが出来ない。

―デスペさんのマイクは本質しか言っていないですよね。

TOSHI-LOWさんがそうじゃないですか。MCはそれまで思ってたことが普段だったら言わないスイッチなんですけど、試合後の振り切れた状態だったら、もう止めどなく出てきてしまう。自分が今まで入れてきた映画や小説、漫画、テレビでもなんでもいいんですけど、そこで培った表現というものが頭の中にあって。自分の感情をアウトプットするときに、まだうまく自分の中で言葉になってない気持ちをその培った表現が言葉にして出てきてくれてると思うんです。そう思うとやっぱり、僕がサブカルと呼ばれるアニメや漫画、ゲーム、小説、音楽、そこから出てくる言葉は大きいですよ。


Photo by Mitsuru Nishimura

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