CHAIが語る、自分たちのポップを世界に届ける意味

 
ついに完成させた理想のポップ

―Ryuさんについて読者に紹介するなら、どんな方ですか?

マナ:怖くて面白い。直球タイプだからね。だから話しやすい。下手なものは下手って言うし、いかんものはいかんって言うし。私たちと同じような感じ。私とカナも作るときそうだから。でもあの人の言葉には全部根拠がある。たとえば1個の音に対して、「これはこういうルーツがあって、ここから引っ張ってきてるから」って説明できちゃう。

カナ:私たちにないものを全部持ってるかも。

ユナ:音楽にめっちゃ詳しい。音楽愛が強いからこそ、ちゃんと向き合ってくれる。リスペクトも含めて、ダメなものはダメだって言ってくれる。

マナ:一緒に作りたいと思った一番の理由は、世界で売れたいと思ったときに、どういう音にしたら広がるのかが感覚的にわからなかった。『PUNK』(2019年)を作ってアメリカへライブしにいったとき、Ryuさんに初めて出会ったのかな。そのときにたくさん話をしたの。この音だと、もしかしたらどこか一部のメディアからは好かれるかもしれんけど、世界には広がらんかもしれん、っていう結構リアルな話をされて。

―シビアだけど的確ですね。

マナ:めちゃくちゃ悔しくなって。

カナ:めっちゃショック受けたもん。

マナ:めっちゃ泣いて。で、そのあとから作り方を変えたの。絶対に世界で売れたい。自分たちの中に日本とかアメリカとかのボーダーラインなんてなくて、「世界」がベースだから。

―もともとそう思ってやっていたけれど……。

マナ:そう。「この音源では」ってリアルに言ってもらったもんで、まじか、ってなって、そこから一緒に作り始めた。たとえば「こうしたらここの人たちに響くよ」「これがこうなったらこっちの人たちに響く」みたいなのところまで言ってくれる。だもんで、選択がしやすい。だからといってファンがめっちゃ増えるかはわかんない。売れるかどうかは別として、自分たちがどっちを選びたいかという話。

―そこもまたシビアな話ですね。

カナ:自分たちは日本に住んでるから日本の音をよく聴くし、日本人の感覚で洋楽を聴くからやっぱり感覚が違って。Ryuさんはアメリカで育った人の感覚で音源を聴くから、アメリカでどういう音が響くのかを知ってる人で、すごく参考になる。それが自分たちの好きなものだったから納得できた。



―『PUNK』のあとにその出来事があって、『WINK』でも音像の作り方はかなり変化していたと思うけど、より今回のアルバムで自分たちが理想とする世界標準に合わせた音を作れたという手応えはあるんじゃないですか。

マナ:ある。理想通りできた。

カナ:Ryuさんも含めて今回はみんなでポップを目指したから。ポップとニューウェーブとかが組み合わさってる音楽、というのが一番念頭にあったかな。

―なぜそこまで「ポップ」を目指したかったのでしょう。グラミーを獲りたいから、だけじゃないですよね。

カナ:もともと好きだからだろうね。

マナ:トーキング・ヘッズ、トム・トム・クラブ、ESG、CSS、DEVOとか、みんなロックだしニューウェーブだしすごくヘンテコなことをやってるんだけど、やっぱりすごくポップでさ。でもああいう存在って今あまりいない。オルタナティブロックの方とかではいるかもしれないけど、ニューウェーブっぽい方では誰もいないから。やっぱり自分たちのルーツの中で、今誰もいないラインを狙いたかった。どこが空いてるかなって。

―アルバムの中で一番手応えがあるものや、ターニングポイントとなった曲はありますか?

マナ:「GAME」と「PARA PARA」。自分が今まで作りたかったニューウェーブポップができた。この2曲ができたとき、新しいCHAIポップできたと思った。メロディとアレンジのバランス感、マッチングがやばい。

―やっぱりメロディとアレンジの組み合わせが今作における肝だったんですね。

マナ:うん、めっちゃ肝。「GAME」は最後にできたんだけど、今までトーキング・ヘッズとトム・トム・クラブにあまりにも影響されてるから、そこのルーツをたどって何か作りたいと思って。ニューウェーブってマニアックなジャンルで、どれだけの人がこれをポップだと思うかはわからないけど、自分が思うニューウェーブポップみたいなのを作りたくて。これはカナとメロディを作って、「できた!」と思った。「やっとニューウェーブポップができた! これだ!」って確信した。

カナ:もともとマニアックな音楽が好きだからさ、それをいかにポップに表現するかを今までもやってきたけど、やっぱり自分の中では未完成だったんだよね。60%くらいというか。どうすれば100%にできるのか、方法がわからなかった。それをRyuさんとか他のプロデューサーとタッグを組んで作り上げることで、100%までいけたと思うんだよ。それが「GAME」と「PARA PARA」で。自分のルーツにあるマニアックなものをいかにポップに表現するかを考えてできた曲がその2曲。

ユナ:「PARA PARA」はワングルーヴで、懐かしさをCHAI風に、現代風に落とし込めてるなと思って。今ライブ用に準備してるんだけど、すごく楽しい。ドラマー目線の話なんだけど、シンプルこそ難しいっていう。シンプルをどれだけかっこよくできるか、その楽しみを覚えながらやってる。



―曲を丁寧に作り込んだ上にどういった歌詞を乗せるのかも、今まで以上にシビアだったんじゃないかと思うんですけど、ユウキちゃん、どうですか。

ユウキ:悩みに悩んで。

―そうですよね。各曲のテーマは、最初から決まっているのか、音を作る中で決まっていくのか、それとも曲ができてからユウキちゃんが考えるのかでいうと、どうですか。

ユウキ:ものによるけど、メロディとか音自体から感じるイメージで決めたものの方が多いかな。「We The Female!」は、叫んだりするから強い言葉を入れたいな、自分を応援できるような歌詞にしたいな、とか。曲からのインスピレーションで似合う言葉を探すかな。「MATCHA」でいうと、もともと日本っぽいキーワードを入れたいと思っていて、曲のイメージと入れたい言葉が合わないといけないからどの曲にハマるかなと思ってたところ、「MATCHA」はちょっと怖さもあるような曲だから、「MATCHA」という言葉と和のホラーみたいな感じが合わせたら面白いかなって。和の怖さって、なんかジメジメした感じがあって、湿気がある感じ。

―「MATCHA」「PARA PARA」「KARAOKE」とか、世界の人が思う日本らしい言葉で、なおかつ語感が面白いものを使いたかった、という感覚?

ユウキ:そうそう。「MATCHA」だと、日本の持つ独特な香りに、「セルフラブ」「自分を深く見る」「でも深いところにある自分のトラウマとかを見るのは怖いよね」みたいなことを混ぜて作ったり。

―なるほど。それをはっきり書きすぎずに、“MATCHA CHA”“METCHA CHA”“チュウィチュウィ”とか、音の面白さも混ぜてユーモラスに伝えるのがCHAIらしいですよね。

ユウキ:そうそう。海外の人は、日本語を意味より言葉の面白さとして捉えられるんじゃないかなって思うから。“MATCH”とか“METCHA”とか繰り返して言うことで、「よくわかんないけど面白い」みたいな、しかも向こうの人も言えるんじゃないかな、って感じでやってみた。

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