キャロライン・ポラチェックが語る未来的表現の秘密、PC Musicの影響とディーヴァ論

ワイズ・ブラッドは「特別な存在」

─『Desire, I Want to Turn Into You』のジャケットは、2023年現時点でのベストアートワークだと思います。ここで何を表現したかったのでしょうか?

キャロライン:このアルバムカバーは過剰なものにしたかったの。私たちがこの世界から飛び出してオープンであることを明らかにしたかったし、『Desire, I Want to Turn Into You』に込めた過剰さでリスナーを圧倒させたいと思った。それと同時に、肖像画のように完璧に描かれた世界はもはや存在せず、ダイナミックで予測不可能なものであることを伝えたかった。重要なのは、私たちが現実の外に飛び出したということ。

フォトグラファーのエイダン・ザミリ(Aidan Zamiri)と撮影ロケーションを探す中で、地下鉄を見たときに「これだ」って思った。リスナーとしての私にとって、電車の中で音楽を聴くことはとてもエモーショナルな体験だから。知らない人たちに囲まれた状況から、この世界で自分の存在がいかに儚く小さいものであるかを強く感じる。さらには、自分のエモーショナルな世界に押し込められているような……かと思えば、都市の一部になっているような感覚。このアルバムを聴いた時に、そういったことを感じてほしいと思った。

─「欲望」が最新アルバムの大きなテーマになっていますよね。あなたはこの時代に欲望というものをどう捉え、どのように向き合っているのでしょうか。

キャロライン:人類の欲望の歴史は、どれだけの選択肢を持っているかで定義されてきたと思う。私たちは今、何を食べるか、どこに行くか、誰と過ごすか、家族とどのように関係を築いていくか……かつてはあらかじめ選択肢が用意されていたことが、今では数えきれないほどの選択肢を持っている。そして、欲望の根源は欠乏であって、欲望は、私たちのアイデンティティの側面も担っている。そういった要素が私たちを作り上げて、私たちは欲望のままに世界を動かしていると感じる。それが健康的な動機だとは思わないけど、原動力となって世界を動かしているのはたしかだと思う。


『Desire, I Want to Turn Into You』アートワーク

─ここからはライブやフェスにまつわる質問をさせてください。今も深く印象に残ってるライブはありますか。

キャロライン:数週間前にデンマークでのロスキレ・フェスティバル(Roskilde Festival)でパフォーマンスをしたの。「スカンジナビアのグラストンベリー・フェスティバル」だと言われていることは知っていたんだけど、本当にエモーショナルなショーになった。観客はテントの後ろまで溢れかえっていて、サウンドも素晴らしかった。とても良いフェスだったわ。もちろんグラストンベリーも最高だった。去年、今年のどちらもね。フジロックも楽しみにしている。



─先ほど話したチェアリフト初来日公演のとき、集まったお客さんは100人程度だったかと思います。現在のあなたはデュア・リパのサポートを務めたこともあり、万単位のオーディエンスを前にしてのステージも経験してきたかと思いますが、そこから学んだことは?

キャロライン:パフォーマーとして、自分の身体について、オーディエンスへの伝え方について学んだと思う。ライブ・ボーカリストとして成長できたと思うし、何よりショーを総合的な面で見ることができるようになった。ただステージを歩いて自分のパフォーマンスだけに集中するのではなく、照明のプログラミングやセットデザイン、バンドメンバーのパートのアレンジや振付を考えることまでが私の役割だということ。これらのことは、ここ10年の経験を通して学んできたことでもあると思う。

─今年のフジロックに出演するワイズ・ブラッド、スーダン・アーカイヴスと過去にステージ上で共演していますよね。2人との交流について聞かせてください。

キャロライン:ワイズ・ブラッドのナタリーは古くからの友達で、素晴らしいアーティスト。彼女は同世代で、お互いに切磋琢磨しながらキャリアを築きあげ、経験や業界について話ができることをありがたく思っている。私にとって特別な存在よ。実は、フジロックのあとに2人で箱根に行くの!

スーダン・アーカイヴスは、まさにスターね。彼女のショーを初めて観た時に「彼女はスターになる」って思った。カリスマ性と才能、オリジナリティのすべてを持っている。これから数年の間に、彼女がどんな変貌を遂げるのか楽しみ。

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─もし、あなた自身でフェスを主催するとしたら、どんなものにしたいですか?

キャロライン:それは1週間くらい悩む時間が必要な質問ね(笑)。今思い浮かんだのは、あるアーティストのセットの最後のタイミングで次のアーティストが登場する。要するに1曲ずつオーバーラップするの。サイコなコラボレーションっていう感じかな!

─どのアーティストを呼びたいですか。

キャロライン:それについては……1週間悩む時間をちょうだい!


Photo by Masato Yokoyama

Translated by Yuriko Banno, Natsumi Ueda

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