キャロライン・ポラチェックが語る未来的表現の秘密、PC Musicの影響とディーヴァ論

PC Musicの影響とディーヴァ論

─PC Music出身のプロデューサー、ダニー・L・ハールと出会ったことが、あなたのソロキャリアのあり方を決定づけたのかなと。それについてはいかがでしょう?

キャロライン:彼と出会っていなかったら、私はここにいないと思う。彼と出会えたのは本当にラッキーだった。2016年に彼から「一緒に音楽を制作しよう」と連絡が来て、ニューヨークで「Ashes of Love」を作ったの。もちろん、その曲も良かったんだけど、私たちは新しい何かを生み出せるって瞬時に確信した。自分と同じ感覚を持っていると思えた人物は、彼が初めてだった。聴いている音楽もかなり似ていたの。偏りがなくて、プレイリスト形式で音楽を聴いているようなところ、とても理論的で、もしくはユーモラスな聴き方をしているところもね。だから音楽について初めて彼と話した時は、まるで兄弟と話しているような感覚だった。

「New Normal」という曲では、初めてダニーと会った時のことを書いている。今では、私たちは制作のパートナーになったわ。アルバムの制作過程で音楽を共有したり、軸を作り上げていく作業やサウンドの音域、マテリアルについて意見を言い合うことがとても大事な要素になっている。彼と一緒に制作ができていることを光栄に思う。




─PC Musicが設立からの10年間に育んできたカルチャーもまた、あなたに大きな影響を与えていると思います。かのレーベルの功績についてはどのように捉えていますか?

キャロライン:私の解釈では、PC Musicは「レーベル」というより「コレクティブ」だと思っている。なぜなら、PC Musicと聞いた時にソフィーやチャーリー・XCXといったアーティストが思い浮かぶから。世界中のポップカルチャーを根本的に変えてしまうような影響力を持っていて、その絶大さゆえに気づきさえしていない人もいるかもしれない。2013〜2016年あたりに、彼らはアーティストとしての誠実さとコマーシャル的な側面での立ち位置について議論を投げかけた。その皮肉ぶりを非難する人もいたけど、彼らはその中に美学と洗練されたユーモアを見出していたように思う。PC Musicは、エレクトリックミュージックにはびこっていたイメージ……パーカーを深く被って、シリアスでユーモアがなくて、男性的で、想像力のない自己完結する音楽はもう不要なんじゃないかって気づかせてくれた。そのイメージを一新したのは彼らだと思う。



─あなたがダニー・L・ハールと作り上げた「Bunny Is a Rider」を聴いたとき、未来のポップスだと思いました。この曲であなたは何を歌い、どのような音楽を作ろうとしたのでしょうか?

キャロライン:とても身体的で、とてもシンプルで、音声的にとてもピュアなもの。ストーリー性のことは抜きにして、純粋に楽しめる、おもちゃみたいなイメージ。一方で、セクシーさ、ドラムのドライなサウンドや生のベース音、リバーブのかかっていないボイスといったオーガニックな音域を持っている。とても彫刻的かつ身体的でありながら、抽象的でもある曲だと思う。

─この曲はオブ・モントリオールの楽曲「Bunny Ain't No Kind Of Rider」を参照しているのではないかと、Geniusなどいくつかのサイトに書かれていました。そうなんですか?

キャロライン:ノー! 

─デマですか!

キャロライン:同じ言葉が含まれているだけで意図はしていない、単なる偶然ね(苦笑)。


Photo by Masato Yokoyama


Photo by Masato Yokoyama

─あなたについて昔も今も驚かされるのは、シンガーとしての声域と表現力です。そのオペラにも通じる歌声をどのように発見し、磨いてきたのでしょうか。

キャロライン:クラシックのバックグラウンドはあるけど、誰かに教えられたとおりに歌うのなら、もはや私の声とは言えない。この15年、私は楽しみながら進化を続けていると思っていて、それはアルバムごとに感じてもらえると思う。例えば『Desire, I Want to Turnto Into You』では語りかけるようなパートが多いけど、同時にボーカルを自由でワイルドにしたかった。厳密な語りのリズムから一気に解放されて、自由な叫びへと瞬時に移り変わる様子を表現したかったの。それは、まさに「Welcome to My Island」や「Pretty In Possible」の冒頭のシークエンスで表現できていると思う。



─最新アルバムの制作中、ディーヴァについて思いを巡らせていたそうですね。

キャロライン:ええ、ポップソングにおけるディーヴァを、私のオリジナルとしてどうやって作り上げようか考えていた。このことについて考えはじめたのは、イタリアでのパーティーでたまたま耳にしたマティア・バザールの「Ti Sento(I Hear You)」がきっかけ。この曲をローマでのハウスパーティーのキッチンで聴いて、一瞬で心を奪われた。飛び抜けた表現者を目の当たりにして、私もそれを目指すべきだと思ったの。

ディーヴァにはオペラとの関連性があって、ディーヴァのような音楽を作りたいのなら、壮大になることを恐れてはいけない。ディーヴァは創造と破壊を併せもつ、パラドックスを抱えた存在だと思う。美しくて心地よいものを与えてくれるけれど、彼女の気分を損ねたらおしまい、ショーをキャンセルしてしまうこともできる。だから周りにはいつも緊張感がある。それはなぜかというと、圧倒的なクリエイティブのパワーが存在するからで、私はその緊張感にワクワクするの。「Ti Sento(I Hear You)」は、このパラドックスを追求しようと試みている曲だと思う。

─自分自身のことはディーヴァだと思いますか?

キャロライン:そうね、ディーヴァのような憧れの存在になりたい。

─あなたが考える究極のディーヴァは?

キャロライン:やっぱりビヨンセ。彼女は気分を損ねてショーをキャンセルしたりはしないだろうけど(笑)。

Translated by Yuriko Banno, Natsumi Ueda

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