ワイズ・ブラッドが語る、地獄のような時代にノスタルジックな音楽を追求する理由

ワイズ・ブラッドことナタリー・マーリング(Photo by Masato Yokoyama)

フジロック2日目のRED MARQUEEに登場し、神秘的なパフォーマンスで観客たちを魅了したワイズ・ブラッド(Weyes Blood)ことナタリー・マーリング。その数時間後には、古くからの友人であるキャロライン・ポラチェックとの夢の共演でも話題を集めた。

『Titanic Rising』(2019年)、『And In The Darkness, Hearts Aglow』(2022年)という直近2作のアルバムで大きく躍進。ノスタルジックな作風で知られるが、かといって単なるレトロ風味のシンガーソングライターではない。「ノーマルに聴こえるけどクレイジーなサウンド」が目標だと語る彼女のバックグラウンドは広大な銀河が広がっている。フェス出演前の彼女にインタビューを実施し、会場の苗場スキー場で撮影を行った。

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ーよろしくお願いします。

ナタリー:あら、スパークス!(筆者がPCに貼ったステッカーを目にして)

ー好きなんですか?

ナタリー:ええ。ずっと音楽を続けていて、面白い曲を作っているところが好き。

ーわかります! 「長く続ける」というのはご自身にとっても大切なポイントですか?

ナタリー:うん、「忍耐強くあるべき」っていう考え方は好き。たとえ早い段階でヒットしなくても、それでも活動を続けるっていうのは、つまり自分たちのために音楽をやっているっていうことだから。

ーあなたの歩みもまさしくそうですよね。その点でロールモデルと言えそうな存在は?

ナタリー:私は救済(redemption)という考え方が好きで、レナード・コーエンが亡くなる前、ツアーについて語ったことがとても印象に残っている。というのも、彼はずっと修道院にいたから、自身の存在の偉大さや、音楽の世界に戻って大きなショーをすることがどれだけ重要なことか自分で気づいていなかった。そんな彼の生き方は、とてもエモーショナルだと思う。


Photo by Masato Yokoyama

ーこの前にキャロライン・ポラチェックを取材してきて、あなたと古くからの友人で、フジロックが終わったら一緒に旅行する予定だと教えてもらいました。彼女とはいつ頃、どのように知り合ったのでしょうか?

ナタリー:彼女がチェアリフトにいた時に、音楽友達を通してニューヨークで知り合って。だから最初に知り合ったのは10年くらい前かな。それから、Ramona Lisa(キャロラインの2014年頃のソロ名義)として活動しているときに仲良くなった。で、彼女がロサンゼルスに引っ越してきたこともあって関係も近くなったの。

ー過去に何度か共演していますよね。キャロラインと共演するのはどんな気分ですか?

ナタリー:とても楽しかった! 彼女のライブに出た時に、たくさんの人が私を知っていて、歓声を上げてくれたことにびっくりした。彼女のショーはとても素晴らしいし、お互いのことを理解しているから、過度に緊張することもなかった。家族のメンバーと演奏したような感覚だったな。

ーキャロラインのアーティストとしての個性について尋ねられたら、どのように説明しますか。

ナタリー:彼女はミュージックスクールの優等生という感じで、プロダクションにおけるコアな部分を変えていく存在。どこか謎めいていて、サイバーファンタジー・ユニバースのような自分の世界観を持っていて、その表現方法もとてもオープンに感じる。強さと寛大さを持った人。ずっと素晴らしい音楽を作り続けていて、キャリアにおいて彼女が(最新アルバムで)新しいチャプターを迎えたことも刺激になっている。

ーあなたのキャリアにおける「新しいチャプター」はいつ頃でしょう?

ナタリー:『Titanic Rising』が私にとっての新しいチャプターになると思う。それまではアンダーグラウンドで活動してきて、できることにも限りがあった。『Titanic Rising』を通して、可能性のドアが少し開いたと思う。



ーそのアルバムに収録された「Andromeda」は名曲中の名曲ですよね。ここではどのような音楽を作ろうとしたのでしょう。

ナタリー:作り始めた当初は、別に意気込んでいたりしなかった。薄汚れてカビっぽい、230平方フィート(6.5坪)の小さなバンガローでギターを片手にただ座って「ほら、曲を作るのよ。ここから抜け出すために」って自分に言い聞かせていた。あの頃はバリー・ギブやビージーズを聴いていて、ポピュラーソングのようなグルーヴ感を含みつつ、私の独特なコードを取り入れた曲を考えようって思ったの。何も特別なことをしようとしていたわけじゃなくて、アルバムの収録を終えて聴いてみたら、結果的に「Andromeda」は際立っていた。

ー「Andromeda」は歌詞もいいですよね。曲の主人公は解き放たれたようにも、いまだに縛られているようにも感じられるのですが、ご自身の解釈は?

ナタリー:ギリシャ神話に出てくるアンドロメダは岩に鎖で縛りつけられていて、誰かの助けを待っていた。恋愛に当てはめると、それって危険な構図だと思う。誰かに救われない限り、自分は救われないという考え方はうまくいかないというか……。愛は相互的なものであって、一方的に救いを求めることではないと思うんだよね。


Photo by Masato Yokoyama


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ーあの曲のような美しいメロディはある日、突然ひらめくものなのでしょうか?

ナタリー:私は曲っぽいもの、意味があるかどうかすら曖昧なものを作ろうと思っているだけ。「A Lot’s Gonna Change」(『Titanic Rising』収録)を作った時は何時間もコード進行を考えたから達成感のようなものがあったけど、「Andromeda」みたいに収録されるまでその魅力に気づかない曲もある。何かの力がはたらいて、突然美しい曲が生まれることもあるみたい。

ーメロディをひらめく瞬間というのは音楽家にとってのブラックボックスとも言えそうですが、あなたの場合は突然降ってくるわけですか。

ナタリー:とりあえずギターを弾くこと。頭で考えるんじゃなくて、まずは音を出してみる感じかな。

ーあなたにとっての究極のメロディとは?

ナタリー:たくさんある! たとえばホーギー・カーマイケルの「Stardust」。私はオールドクラシックのクルーナーの曲(ゆっくりなテンポでささやくように歌う)が好き。「Love Is a Many-Splendored Thing」とかね。あとはエタ・ジェイムズ。オールドクラシックの曲には、コードチェンジとセンチメントな歌詞に鍵となる関係性があると思う。

それからジョージ・ハリスンも大好き。「Long, Long, Long」「While My Guitar Gently Weeps」とか。彼のコードチェンジからは、どこかに悲しさの表情を感じる。幼い頃はビートルズの曲が好きだったんだけど。いつも新しい音楽を探してるわ。好きなメロディがありすぎて、どれか一つを選ぶことはできない。




ー自分が書いたメロディの中でベストだと思う曲は?

ナタリー:うーんと.....「Something to Believe」かな。メロディと歌詞がうまくマッチしているから。アウトロが映画のエンディングのようで、私が表現したい雰囲気と合っていた。新しいアルバムなら「It's Not Just Me, It's Everybody」のメロディは特に気に入っている。



Translated by Ayako Takezawa, Natsumi Ueda

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