ワイズ・ブラッドが語る、地獄のような時代にノスタルジックな音楽を追求する理由

ニューエイジとスピリチュアリティ

ーインタビューでたびたびエンヤに言及していますよね。彼女はどんな点がスペシャルだと思いますか?

ナタリー:エンヤはとても挑戦的だと思う。アイルランドで「伝統音楽を作ろう、シンセサイザーを使って」っていうところがね。それから彼女の曲には、ギターソロやドラムサウンドはみあたらなくてフェミニンな部分を保ち続けていた。彼女は彼女であり続けているし、そのことが世界規模での大ヒットにつながった。彼女の姿勢はまさに音楽の基盤のようなもの。伝統的であり、かつ現代的でもある。その二つをとても良い形で結びつけたんだと思う。



ーあなたの曲のなかにも、ニューエイジ風のシンセサイザーがたびたび使われていますよね。先ほど話したような困難な時代を生きていると、あのサウンドに「癒し」を感じとっているリスナーもたくさんいそうな気がします。

ナタリー:ええ。みんな癒しを必要としていると感じる。近年アンビエントに注目が集まっているのも、そのことが強く関係しているでしょうしね。

ーニューエイジという音楽はスピリチュアルな思想と切っても切れない関係にあり、そのことが批判の対象にもなってきたわけですが、あなたはスピリチュアルというものに対してどのように向き合っているのでしょうか?

ナタリー:いい質問ね。私自身、特に固執している考えがあるわけじゃないけれど、スピリチュアルなものを否定するんじゃなくて、存在するものとして受け入れている。だって、そういったものは定義するのが難しいし、スピリチュアリティは科学で定義できないでしょ? ただ、世間のムードとして、それをネガティブに捉える意見もあって、例えば、自分で説明できないことを目の前にしたとき「この人はおかしい」と言ったり、何も信じないといった態度をとる人もいる。そのことを残念に思うわ。この宇宙で意識的な生物は人間だけだと考えることはとても傲慢な考え方だし、世界は理解できないことで溢れている。だから、スピリチュアリティはたしかに存在して、時間軸や線で描かれないものの存在が認められているのだとすれば、それは科学的にスピリチュアリティが証明されているような物だと思う。


Photo by Masato Yokoyama


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ーあなたのパフォーマンスを観ていると、なんというか神々しいものを感じます。自分のステージを通してどのようなことを伝えようとしているのでしょうか?

ナタリー:スピリチュアリティが否定されている今、私はその可能性を取り戻そうとしている。理解の域を超えるものの存在を信じてもいいんじゃないかって。それと、消費資本主義はスピリチュアリティの代わりにはなれないということ、エンターテインメントより魅力的なものがあるっていうことを証明したい。みんなの考えをコントロールしたいわけじゃないし、意図的にスピリチュアルなことをしようとしているわけでもない。ただ、純粋な気持ちが伝わっているんだと思う。

ーこれまでやってきたライブで、深く印象に残っている出来事は?

ナタリー:ライブの最後の曲をみんなと歌って別れの歓声を聞いたときとか、自分がやっているのはパーティーミュージックでもないのに、まるでパーティーのようなムードが生まれているときはとてもワクワクする。フェスといえば、大音量でアップビートでしょ? 私のセットはローキーの曲が多いから、お客さんも休憩を兼ねて来ているだろうから(笑)。

ー自分でフェスを主催するとしたら、どんなアーティストを呼んで、どんなものにしたいですか。

ナタリー:キンクスのレイ・デイヴィスを呼びたい。彼はヘッドライナーにぴったりでしょ? それからキンクスのリユニオン! あとはジョックストラップにも出てほしい、好きなバンドなの。もちろんキャロラインもね。それから、ブロードキャストのトリビュートバンドをやりたい。私が(亡くなったボーカリストの)トリッシュ・キーナン役をやるわ。会場は絶対に野外がいい! 湖か川を泳いだりするのはどう?

【写真ギャラリー】ワイズ・ブラッド フジロック撮り下ろし(全12点、記事未掲載カットあり)


Photo by Masato Yokoyama

Translated by Ayako Takezawa, Natsumi Ueda

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