追悼シネイド・オコナー 不条理な世界と闘ってきたシンガーの必聴10曲

「Black Boys on Mopeds」(1990年)



本人いわく、一度聴いたら耳から離れないこの曲を書いたきっかけは2人の黒人の少年だったそうだ。少年たちは人から借りたスクーターに乗っていたが、警察から盗んだと疑われ、追跡された末に衝突死した。数十年後、演奏中にオコナーも苦々しく語ったように、「イングランドには絶対住みたくなくなるような曲」だ。オコナーの作品でもとくに重みのある辛辣な主張がこめられたの曲のひとつ「Black Boys on Mopeds」は、シャロン・ヴァン・エッテンやフィービー・ブリジャーズ、最近ではシンガーソングライターのシェイ・ローズにもカバーされ、新たな意味合いを帯びている。Black Lives Matter抗議デモを契機に、まさにオコナーが30年以上前に扱った「警察の暴力」への関心が再び高まっている。-J.A.B.

「I Am Stretched on Your Grave」(1990年)



報われない情事を主題にしたアイルランドの伝統的な詩を「Funky Drummer」のループに乗せて読み上げながら、オコナーは「I Am Stretched on Your Grave」でこの世のものとは思えぬ声の力を総動員し、結果的に90年代初期の作品は時代を超える楽曲へとなった。「私のリンゴの木、私の輝き、2人でともに過ごした時間」というくだりを、これほど切に歌い上げるアーティストは他にいるだろうか? さすがはオコナー、他のヒット曲と同じ熱量、同じ存在感で1600年代の詩をみごとに歌い上げた。晩年コンサートのクライマックスを飾ったのがこの曲で、時にはうっとりするアカペラで演奏された。2012年、ホイットニー・ヒューストンが他界すると、オコナーはわずか数週間後にこの曲を捧げた。-S.V.L.

「The Last Day of Our Acquaintance」(1990年)



唄い出しから穏やかなギターの爪弾きと囁くような声でリスナーを惹きつけた後、ギターとパーカッション、力強いコーラスが炸裂する「The Last Day of Our Acquaintance」は、セカンドアルバムの中でもっとも感情をかき乱される1曲だ。最初の夫でプロデューサーのジョシュア・レイモンド(この曲でも演奏し、オコナーとはキャリアを通じてコラボレーションした)と離婚する前年にリリースされたこの曲は、恋愛関係の終わりの物語。後に元恋人となるカップルが「他人のオフィスで再会」するが、「あなたは私の話を聞こうともしない」とオコナーは歌う。だが曲が展開するにつれ、そんなことはどうでもよくなる――彼女の誠実さ、反抗心、純粋な声が、別離の痛みを解放と前進という固い決意に変えていく。-S.P.

Translated by Akiko Kato

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