「ジャズの世界は狭すぎるし、アメリカは根本的に間違ってる」シオ・クローカーがそう語る真意とは?

シオ・クローカー(Photo by @ogata_photo)

カッサ・オーバーオールと共に「ジャズは死んだ」と連呼する、シオ・クローカー(Theo Croker)の楽曲「JAZZ IS DEAD」は大きなインパクトを与えた。

これまでにデューク・エリントンからマイルス・デイヴィス、近年ではニコラス・ペイトンなど、多くのミュージシャンたちが「ジャズ」という呼称を否定してきた。つい最近もミシェル・ンデゲオチェロが「ジャズ」ではなく「即興的ブラック・アメリカン・ミュージック」のほうがしっくりくるとRolling Stone Japanの取材で答えていたし、トランペット奏者のマーキス・ヒルは「今、できることはこの言葉について学ぶことだ」と語っていた。

「ジャズ」という言葉の是非を問う「JAZZ IS DEAD」は、何十年も前から語られ続けているトピックを、久々に議論の俎上に載せるきっかけになったと言ってもいいだろう。



2019年の『Star People Nation』ではグラミー賞にもノミネートされているトランペット奏者のシオ・クローカーは、現代ジャズ・シーンの最先端にいるひとりだ。もともとアフリカン・アメリカンとしてのアイデンティティや意識が高く、先人から伝わるものを作品の中で様々な形で表現してきた彼は、近年のアルバム『Blk2Life || A Future Past』(2021年)、『Love Quantum』(2022年)でさらに踏み込むようになり、ハウスやテクノをアフリカン・アメリカン由来の音楽として取り上げたり、ブラック・ミュージックの在り方そのものを問うようなメッセージを発するようになった。

RSJでは以前のインタビューで、「ジャズ」という言葉やアフリカン・アメリカンとしての彼の考え方をかなり深く聞くことができた。そして、今年5月の来日時に再びインタビューの機会を得たので、前回の続きを訊いてみることにした。

ここではアメリカのジャズ教育やミュージシャンの活動スタンスについても言及されている。常に新しいサウンドを提示しているシオだが、ここではまるで70年代のレジェンドたちのような発言も少なくない。そういえば、シオや彼の盟友であるカッサ・オーバーオールは、いつも取材で先人の名前を挙げ、彼らとの交流を誇らしげに語っている。先人との対話、先人が残してきたものの再点検・再評価など、彼らはアフリカン・アメリカンとしての自分たちが今、何をすべきかを常に考え、それを音楽を通じて表明している。ここでのシオの発言にもまた、そんな彼の態度がそのまま表れている。


Photo by @ogata_photo


―前回のインタビューで、「日本やヨーロッパでは、ジャズという言葉に込められてる意味合いが違うし、アメリカとは違うリスペクトがある。軽んじられているのはアメリカだけ」って話をしてましたよね。

シオ:うん、アメリカでは全くリスペクトされてないからね(笑)。

―そうなんですか。

シオ:アメリカの文化的なものだと思う。そもそも一般的に、アメリカ人はとにかく音楽を重んじない。中でもジャズを重んじないんだよね。これはたぶん、それを実際に創出した黒人を大事にしないことと関係している。だから、今までもそうだったしこれからもそのままだと僕は思っている。「ジャズ」そのものや「ジャズを作ってきた人たち」を大事にしないどころが、傍らに寄せてしまっているっていうのがアメリカの現状。そんな背景があるから「ジャズ」って言葉を使いたくないんだよ。

それに、軽視していない場合は「教育」にしてしまう。ウィントン・マルサリスはそうすることを選んだわけだ。つまり、学校って場所で教えるものにしてしまうってこと。これには善し悪しがある。学校で教えるってことは「必ずしも必要ではない」ものになっちゃうよね(笑)。しかも、学校を運営しているのは「その音楽を作った人たち(≒黒人)ではない」って現実もある。

―なるほど。

シオ:アメリカにおける音楽の聴かれ方というのは、「Hear」はするけど「Listen」はしないものなんだよね。聞きながら踊ったり掃除をしたり、ラジオをかければ同じ曲が延々とかかっているみたいな感じ。それがアメリカなんだ。アメリカでは音楽を座ってじっくり聴くっていうことをしない。でも、ジャズはじっくり聴くべき部分もある音楽だと僕は思っている。

アメリカでは音楽をどんどん使い捨てるような感じ。あっという間に消えてなくなってしまうんだよ。本当は時間をかけてゆっくり楽しめるんだけど、そういうことをしない国民性なんだ。せっかく自分たちの国にあるものを十分に楽しめない人たちなんだろうなって思うよ。ジャズはじっくり聴けばいくらでも楽しめるものなんだけど、人気があるものに走ってはすぐに関心を失い、別の人気があるものに移る。その繰り返し。でも、これはアメリカにおける文化のありかたなんだと思う。

しかも、今のアメリカではとにかく「10秒〜15秒パッとつけてパッと楽しめればいい」って感じのものが求められている。食べ物だってそうだし、ファッションもそう。とにかくファストなんだ。Spotifyだってパッと聞いて、10秒ぐらいでみんないいやってなっちゃうわけだしね。音楽はしかるべくして、そうなってしまったんだよ、アメリカではね。

Translated by Kazumi Someya

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