辻陽太が語る、ストロングスタイルとオリジナリティの探求で手に入れる「世界一」の称号

思考のバックグラウンド

―5月3日の福岡大会で凱旋帰国を果たし、すぐさまSANADA選手に宣戦布告。そして凱旋して最初の試合がIWGP世界ヘビー級王座のタイトルマッチというインパクトを残されました。正直、このままの勢いだけで突っ走っていく選手が大半だと思うんですが、辻選手はとてもクレバーに物事を考えられているような気がします。

そこに関しては、学生時代のアメフトの経験が生きているのだと思います。俺がやっていたQB(クォーターバック)というポジションは戦術や相手チームを分析し、どういう筋道で試合を展開するのかを考えるポジションだったので、いまも俯瞰して物事を捉えられているのかもしれません。あとは、少しの間ですが、社会人を経験しているというのも大きいのかもしれない。



―社会人時代はどんなお仕事をされていたんですか?

人材派遣の会社だったんですが、新卒ということもあり、派遣先の業務もやっていたりしましたね。ちょうどそのときは、携帯販売の人材派遣を担当していて、俺も家電量販店で携帯を販売していました(笑)。でもこの経験がいま考えると大きい。

正直、プロレスラーって若ければ若い方が有利ということがあるじゃないですか。実際オカダ(・カズチカ)は15歳でプロレス界に入っていたり、一期上の海野(翔太)、成田(蓮)も18歳で入門している。俺は、大卒で社会人も少し経験して入門したので、プロレスラーのスタートはかなり遅い部類なんです。でも、いま思えば大学時代や社会人生活で学んだことは大きかったし、よかったなと思っています。

―あらためて、凱旋帰国後からの日々の流れは怒涛のものだったと思うんですが、ご自身の体感としてはいかがですか?

俺は、こういう風にしたいと思っていたので。5.3の福岡大会での凱旋帰国も先を見越してのアタックだったんです。というのは、新日本のいちばん大きい大会、イッテンヨン東京ドーム大会のメインにIWGP世界ヘビー級チャンピオンとして立つことを大前提として、いまここでいちばん目立つには、チャンピオンのまま、G1 CLIMAX 33を優勝することだろうと。なので、6.4の大阪城ホール大会“DOMINION”でチャンピオンになって、そのままG1優勝、そしてイッテンヨンのメインに立つのがいちばんだと思ったんです。

―SANADA選手とのタイトルマッチでは、リングから場外へ飛ぶ、「ブエロ・デ・アギラ」など繰り出す技のひとつひとつから辻選手の身体能力の高さが伺えましたし、あれだけのインパクトを残されたら、ファンの方たちの反響も多くあったと思います。

思っていた以上に上手くいったなと。正直なところ、試合には負けましたが、プロレスラーとしては勝ったと思っていますよ。

―新鮮に感じたのは、17分台という試合時間。タイトルマッチというと30分以上の戦いが多い中で、17分01秒という時間であれだけの濃密な戦いが観られたことは非常にフレッシュでした。

そこに関しては、海外遠征中に現在のプロレスは非常にゴチャゴチャしていると気づいたことが大きく影響していて。



―もっとシンプルでもいいと思っている?

シンプルかつ技に説得力を持たせるべきだなと。過去に棚橋さんがケニー・オメガのプロレスは品がないと発言した、イデオロギー闘争があったと思うんですが、その意味がなんとなく分かってきて。イギリス遠征中に感じたんですが、イギリスのレスラーってやりたいことばかりをやる選手が多いんですよ。

―イメージでは、クラシカルなブリティッシュスタイルのプロレスを好む気がしていました。

ザック(・セイバーJr.)みたいなイメージですよね? 俺もそう思っていたんですけど、実際はそんなことなくて。

―それこそ、頭から落とす技も多い?

そうです。やはりいまのままだとお客さんもやればやるほどわけが分からなくなってしまうというか。どの技がこのプロレスラーの技なのか、そしてこのプロレスラーはどういう感情を持っているのかということが分からなくなってしまう。新日本プロレスには、ストロングスタイルという世界に誇れるものがありますけど、現在はそのストロングスタイルとは一体何なのかということもある。だから、「新日本プロレスのプロレスはこういうものだよ」とひとつのカテゴリーのようなものを構築しないといけないと思ったんです。

―新日本が提示する新たなスタイルの構築。

それこそいまのままだとインディープロレス、学生プロレスに近づいている気がする。だからこそ、ひとつの技に説得力を持たせ、自分の感情をしっかり見せることが大切なんです。リングの上で何を伝えたいのかが大事。SANADAとの試合では、現在の新日本プロレスのプロレスに一石を投じる気持ちがありました。


Phto by Mitsuru Nishimura

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