マッドリブとMFドゥームの歴史的名曲「Accordion」が生まれるまで

MFドゥームの才能

レーベルのStones Throwは異なる見解を示している。「デイダラスのサンプルは、アルバムのリリース前の時点で使用許可を得ていた。本人が話している通り、口約束という形でね」。レーベルのゼネラルマネージャーを務めるジェイソン・マグワイアはそう話している。「当時デイダラスは、発生した覚えはないけど、映画やテレビでの楽曲使用料の大きなパーセンテージのほか、マッドヴィレインの印税の一部を受け取るという条件で合意していた。それから何年も経って、私たちとデイダラス双方の弁護士は互いの合意に基づいて正式に契約を交わし、デイダラスには本来支払われるべき報酬が支払われ、楽曲の出版権の3分の1が譲渡された」

後年に起きた権利関係の問題にもかかわらず、デイダラスは『Madvillainy』に参加したことを今も誇りに思っている。「あの作品に参加したことは、私にとって多くのメリットがあった」とデイダラスは話す。「あのアルバムは数えきれないほどの人々に愛されている、その事実に鳥肌が立つんだ。リサイクルショップやレコード店でディグっている時に、あのレコードの新品同様の盤やテストプレスを目にするたびに、夢を見ているかのような気分になる。素晴らしいことだよ。その喜びは、これからも決して色褪せることはないだろう」

Stones Throwの創設者であるピーナッツ・バター・ウルフことクリス・マナクは、個人的な見解についてこう語っている。「デイダラスとはマッドリブがサンプリングしたことをきっかけに知り合って、それ以来良い関係を築くことができている。あのサンプルがロサンゼルスのエクスペリメンタルシーンで活動するコンテンポラリーなアーティストによるものだと知って、僕はすぐに連絡を取った。デイダラスをはじめ、あのレコードにフィーチャーされているすべてのアーティストには心から感謝している。そして誰よりも、あのアルバムを作り上げたマッドリブとドゥームの2人に」

デイダラスは「Accordion」のレコーディングで実際にアコーディオンを弾いたわけではないものの、あの曲とその楽器を結びつけない人はいないだろう。マッドヴィレインのヴィジュアルアプローチは、そのコンセプトを一層強固にした。

「マッドヴィレインのいくつかのショーで、私は実際にアコーディオンを弾いた」。マッドヴィレインとジェイリブのジョイントツアーにおける、El Reyでのロサンゼルス公演とGreat American Music Hallでのサンフランシスコ公演に出演したデイダラスはそう話す。「私の役目はアコーディオンを弾くことだけだった。トコトコとステージに出ていって、淡々とあのメロディを弾いたよ」



視線を下にむけ、くたびれた髪を垂らし、遠ざかったり近づいたりする中世の道化師を思わせるデイダラスがアコーディオンを弾く姿は、「Accordion」のミュージックビデオを観たことがある人にとっては馴染み深いはずだ。モノクロのそのクリップでは、MFドゥームがカメラに向かってラップしている。彼が立っている細い廊下は、Stones Throwのオフィスの一角だ。彼の背後では1人の女性ダンサーが、体をくねらせながら楽曲の独自解釈に基づく振り付けを披露している。そしてようやく登場するデイダラスは、物憂げなリズムに合わせて鍵盤に乗せた指を押したり離したりしている。

同曲のミュージックビデオは、文字通り土壇場で制作されることになったという。数多くのプロジェクトを手がけているフィルムメーカー兼フォトグラファーのアンドリュー・グラ(2年後にリリースされたJ・ディラの『Donuts』のジャケットとなった写真を撮影)はデイダラスに電話をかけ、現場に来れるかと尋ねた。グラは『Madvillainy』の最終曲「Rhinestone Cowboy」のビデオの撮影を終えたばかりだったが、出演したダンサーのスケジュールは終日抑えてあった。

「(グラは)『(ダンサーを)丸一日ブッキングしてるんだけど、予定していたビデオの撮影は終わったんだ。時間が余ってるから『Accordion』のビデオも撮ろうと思ってさ』みたいな軽いノリだった」。デイダラスは笑ってそう話す。

所有していたアコーディオンを持参したデイダラスは、約20分間で数テイクをこなした。デイダラスにもダンサーにも、グラは具体的な指示を一切出さなかった。ラップするドゥームの背後で、2人はフリースタイルで演じた。結果として出来上がったそのミュージックビデオは、同じくシンプルだが事前に練った計画に沿って複数のロケーションで撮影された「Rhinestone Cowboy」のビデオとは趣が異なる。

「あの時、パフォーマーとしてのドゥームの才能に改めて驚嘆させられた。マイクを握って言葉を発した瞬間に、彼はアイコンと化していた」とデイダラスは話す。「私もせめて髪をとかしておけばよかったよ」



Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE