リンキン・パーク『Meteora』20周年、ヘヴィロックから生まれた新たな価値観と普遍性

『Meteora』リリース当時のリンキン・パーク

リンキン・パークの2ndアルバム『Meteora/メテオラ』は言わずと知れた傑作だが、そうした評価が批評的な面でもなされるようになったのは近年になってからであるように思われる。

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2003年の発表当時も概ね好意的な反応を得てはいたが、音楽スタイルが1stアルバム『Hybrid Theory』に似ている、そのパート2に過ぎないという見方も少なからずあったし、出自であるヘヴィロックの界隈からは、ポップさを増したという印象から“シリアスなバンドではない”とする声も多かった。しかし、以降の音楽シーンに与えた影響は絶大で、ブリング・ミー・ザ・ホライズンやマシンガン・ケリー(『Meteora』収録の名曲「Numb」を引用した曲もある)、ONE OK ROCK、ビリー・アイリッシュやザ・ウィークエンドなど、2010年代を代表するアクトの多くがこの時期のリンキン・パークからインスピレーションを得ている。

また、ヒップホップ寄りだったHybrid Theory(前身バンド)期からロック寄りになりポップさを増していく音楽的変遷は、ヒップホップからエモラップが生まれていく2010年代の流れにも通じるものがある。本作の真価は2023年の今でこそよく見えるようになっているのかもしれない。『Meteora: 20th Anniversary Edition/メテオラ: 20周年記念盤』は、それを振り返るにあたっての絶好の機会と言えるだろう。

リンキン・パークの1stアルバムは全世界で3000万枚以上の売上を達成しているが、それは『Hybrid Theory』というタイトル通りの音楽性によるところが大きいように思われる。例えば、前身バンド期の同名EPに収録された「Step Up」(2パックの「I Get Around」をサンプリング)には以下のようなくだりがある。

And rapping over rock doesn’t make you a pioneer
(ロックにのせてラップしていてもパイオニアにはなれない)
‘Cause rock and hip-hop have collaborated for years
(なぜならロックとヒップホップは長きにわたりコラボレーションしてきたんだから)



リンキン・パークは、ア・トライブ・コールド・クエストやパブリック・エネミー、ビースティ・ボーイズといったヒップホップグループからも影響を受けており、こうしたコラボレーションの歴史的文脈を把握しつつ、双方のジャンルのエッセンスを汲み取り掛け合わせている。メロディとラップのツインボーカル(チェスター・ベニントンとマイク・シノダ)体制というだけでなく、バンドのグルーヴ表現やビートのバリエーションも豊か。それを後押しするのがニューメタル方面からの影響で、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやリンプ・ビズキットといったラップメタルはもちろん、ジェーンズ・アディクションやアリス・イン・チェインズ、ナイン・インチ・ネイルズといったゴシックの薫りあふれるバンドからも多くを得ている。

そうした数多の音楽語彙を融合しわかりやすく解きほぐした楽曲には、ロックまたはヒップホップといった特定の領域に留まらない訴求力がある。だからこそ様々なジャンルの音楽ファンに受け入れられ、莫大な売上を得ることができたのだろう。『Meteora』ではこうした方向性がさらに推し進められており、「Nobody's Listening」ではJay-Z feat.ノトーリアスB.I.G.「Brooklyn's Finest」と自身の「High Voltage」をサンプリングして巧みに融合、そしてJay-Zとは翌年に「Numb/Encore」で歴史的共演を果たしている。2000年代初頭におけるジャンル間クロスオーバーを象徴する作品なのである。





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