リンキン・パーク『Meteora』20周年、ヘヴィロックから生まれた新たな価値観と普遍性

オルタナティブ・メタルの一つの完成形

これに加えて重要なのが、メンタルヘルスの問題を積極的に扱った歌詞だろう。メタルやハードコアパンク、そしてヒップホップの世界では、この当時はまだ自身の内面の弱みを曝け出す表現は主流ではなかった。KORNやナイン・インチ・ネイルズは90年代の活動初期からそうしたテーマに取り組んではいたが、そうしたジャンルが引き継いできたマスキュリニティ、重低音からも醸し出される男性的な圧力が少なからず滲んでいたように思う。リンキン・パークの音楽ではそうした要素が(完全にではないにせよ)明らかに薄められており、その上でメタル系譜のバンドサウンドに求められるエッジも必要十分に活かされている。特に『Meteora』では、チェスターの声の魅力(強靭だがアタックが強くなりすぎない絶妙な発声)をさらに前面に出すべく、シャウトにおける歪みのかけ具合が全体的に減らされているのだが、それが歌詞のテーマにも見事にマッチ。「From the Inside」「Easier to Run」「Breaking the Habit」といった曲名が示す内省的な表現を素晴らしい力加減でこなしている。







これは出身ジャンルのファンには“軟弱になった”“ポップになってセルアウトした”と見なされても仕方のない変化かもしれないが、旧来のメタル/ハードコアにはあまりなかった類のヘヴィさが新たに生まれているし、そこには先述の音楽的豊かさと同様、特定の領域に留まらない訴求力がある。本作が2700万枚以上の売上を達成できた背景にはこうした要素も少なからず関係しているのではないだろうか。『Meteora』というタイトルの由来はギリシャにある岩石郡で、それらが持つ壮大な存在感にあやかり同じ感覚を持たせたかったことから採用されたとのことなのだが、その割にメタルやハードコアの界隈に付きまとうマスキュリニティの気配は強くない。そして、それは以降のロック全般の在り方に影響を与えているし、2010年代のエモラップにそのまま通じる音楽性をこの時点で完成させてもいる。90年代までに築き上げられたオルタナティブ・メタルを総括しつつ、以降の展開を新たに導いた音楽。『Meteora』は、そうした歴史文脈の結節点としての意義を体現する作品でもある。


『Meteora』リリース当時のリンキン・パーク

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