マインドコントロールでインフルエンサーを恐怖支配、米カルト集団の手口

ある時、反訴状で「とどめの一撃」と書かれている出来事があった。ジムにいたシン氏がダグラスさんに背中の整体マッサージをすると申し出たが、「後ろから腰を押し付けてきた」という。この一件について、彼女は性的暴行で訴えた。シン氏が「非常に崇められていたため」、教会を脱会するまではフィッシャー=グリーンさんを始め誰にも言えなかったが、その後警察にシン氏を通報した。

原告に加わった別のダンサー、ケヴィン・デイヴィスさん(通称「Konkrete」)の主張も、ダグラスさんやフィッシャー=グリーンさんと似通っている。デイヴィスさんいわく、7M社からは手数料を15%しかとっていないと聞かされていたが、実は20%ピンはねしていた。シェキナ教のために動画の振り付けを依頼された時も、ノーギャラだったという。デイヴィスさんは収入の30%を教会に献金し、教会の所有地で建築作業にも携わったが、やはり報酬が支払われることはなかった。入信から数か月後、デイヴィスさんは教会の方針に不満を募らせ、2022年7月に脱会した。

7M社が全国的に注目されるようになったのは2022年初め。有名なTikTokダンサー、ミランダ・デリックさんの家族が、7M社に加入して付属教会に入信したデリックさんと連絡が取れなくなったと、涙ながらに語る動画をInstagramに投稿したのがきっかけだった。「ミランダは宗教団体に入ってから、私たちと口をきかせてもらえないんです」。両親に挟まれてソファに座る妹のメラニー・ウィルキングさんは、動画の中でこう語った。デリックさんが7Mに加入し、当時付き合っていたBDashことジェームズ・デリックと結婚する以前、ウィルキング姉妹はTikTokのダンサーとして知られた存在で、2020年にはフォロワー数も200万人を超えていた。

当時7M社は弁護士を通じて、デリックさんが家族と疎遠になったのは家庭内の諍いが原因だと述べた。ウィルキング家の動画が出てから数週間、デリックさんやBDash、他の7Mダンサーも声明や動画を出し、7M社に対する疑惑を否定した。デリックさんと夫は今も同社と仕事を続け、この1年はミランダさんの家を訪れている画像を時々投稿している。

ローリングストーン誌が昨年3月に報じたように、7M社のオーナーであるロバート・シン氏はシェキナ教会の牧師でもある。裁判資料によると、シン氏はトロントからアメリカに移住した後、1994年に教会を設立した。シン氏は教会について、「平和的な宗教研究と普及活動を通じて、宗教的なメッセージを広めることを使命とする結束の固いキリスト教信者の小集団」としているが、同団体は過去にも揉め事を起こしている。2009年には元信者のリディア・チャンさんが、詐欺と労働法違反でシン氏を訴えた。チャンさんいわく、シン氏は「不法威圧、マインドコントロール、強制的説得、抑圧、その他威圧的戦術を行使して」彼女に380万ドルを献金させたという。また週6日、無償で強制労働もさせられていたそうだ。シン氏はまんまとチャンさんの主張に反論し、判事はシン氏に有利な判決を申し渡した。

ロサンゼルス州上位裁判所の資料によると、昨年10月にはシン氏が2人の元信者と、同氏や7M社をはじめとする同氏の会社の不正疑惑を投稿したソーシャルメディアのモデレーター3人を訴えた。訴訟では元信者のうち1人はシン氏の元恋人とあり、シン氏から関係を終わらされたことを根に持って恐喝し、その後モデレーターとグルになって名誉を貶めたとある。またシン氏、7M、シェキナ教会の不正を暴いたと主張したソーシャルメディアのモデレーター3人も訴えている。不正疑惑について、シン氏、7M、シェキナ教会はいずれも否定している。

今回の反訴にあたり、フィッシャー=グリーンさんはシン氏や7Mに盾突いたことで、自分に腹を立てる人間も出てくるだろうとほのめかした。それでも、訴訟をきっかけにシン氏の企業や教会から猿人が増えてくれればと期待している。「これ以上、友人にあそこにおいておくわけにはいかない」と本人。「あの男の近くにいてほしくないんです。嫌われようが、好かれようが、何をされても構わない。僕はただ、みんなにあの環境にいてほしくないだけなんです」。

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from Rolling Stone US

Akiko Kato

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