ホセ・ジェイムズ、エリカ・バドゥを語る「ここ25年のジャズにとって最重要人物」

エリカは「冒険的でアバンギャルド」

―次は、プロデューサーやソングライターとしてのエリカ・バドゥの特徴について聞かせてもらえますか?

ホセ:サンプリングに対する耳がとにかくいいよね。彼女はJ・ディラとスタジオでハングアウトしながら、そこでいろんな曲からサンプリングしていってトラックが出来ていったみたいだよね。「Didn‘t Cha Know」ではタリカ・ブルー「Dreamflower」をサンプリングしているんだけど、ちょっとしたサンプリングがものすごい曲になっている。彼女はプロデューサー的な感覚で音楽を作っていける人で、なんならバンドが要らないくらいだよね。J・ディラやマッドリブ、カリーム・リギンスみたいに何万枚のレコードを持っていて、そのアーカイブのデータベースが頭の中にあって、そこからサーチして音楽を作っている人たちとエリカはコラボしているんだけど、エリカ自身も彼らと同じような耳を持ったアーティストだと僕は思う。

そしてエリカは、過去の曲のサンプリングによって生み出された、完全に新しい音楽のうえに新しいものを書いてきた。彼女はとんでもないソングライティングの技術をもっているんだ。彼女はビートのうえにスポークンワードとしてのラップを乗せるんじゃなくて、サンプリングされたフレーズのキーを考慮して、そこにあるハーモニーの構造を考えたうえでメロディを書くことができる。50年前に書かれた曲のフレーズのキーに合わせて、新たなメロディを加えて、それにより全く新しいものを生み出すってこと。僕はエリカもそうだし、ATCQ(ア・トライブ・コールド・クエスト)の功績はそういうところにあると思ってる。





―なるほど。

ホセ:今回、僕がアルバム『On&On』でやったことは、望遠鏡の反対側からエリカの音楽を見つめた感じと言っていいと思う。エリカは70年代のバンドが作った音楽をサンプリングして新しい音楽を作った。僕らはそのエリカの音楽をいかにバンドならではの表現で演奏できるかってことにチャレンジしたんだ。

制作中は不思議なパズルを組み立てているような感覚だった。エリカの音楽のヒップホップ的な要素を失いたくなかったけど、同時に僕ららしいバンド的な表現も両立させたかったから。エリカの音楽はとてもシンプルに聴こえるんだけど、そこには奥深さがある。僕らはそこがきちんと伝わるような表現にしたかった。たった一行の中にあるとんでもない情報量を確実に捉えたような音楽をやりたかったんだよね。これはビル・ウィザースの音楽を取り上げた『Lean on Me』(2018年)の時と同じ。エリカもビルと同じようにすごく深い音楽をやっているからね。


Photo by Janette Beckman

―同じソウルクエリアンズの音楽でも、ディアンジェロの『Voodoo』がどれだけ優れているかはいろんな人が言葉にしていますが、エリカの音楽のどこがどういうふうに優れているのかはあまり言葉にしようとする人がいなかったような気がします。今回あなたは、そんなエリカの音楽を分析して、それを言葉じゃなくて音楽で伝えようとしているのかなって思ったんですけど、いかがですか?

ホセ:うん、その通り。あのシーンの中でJ・ディラと同じくらいエリカ・バドゥの貢献はすごかったと思うよ。クエストラヴがJ・ディラの貢献を語っているはみんなよく知っているけど、もっとも冒険的でクリエイティブでアバンギャルドだったエリカ・バドゥのことももっと語られていいよね。それに、エリカがあれだけのセールスを記録したのはとんでもないことだと思う。ただ持て囃されただけでも、担がれたわけでもないんだ。しかも、彼女は今でも先端にいるし、常に素晴らしいコラボをしている。つい最近だってBTSのRMとコラボしていた。ロバート・グラスパーやサンダーキャット、フライング・ロータスともコラボしているし、コラボした人たちに場所を与えるようなプラットフォームの役割も果たしている。エリカの話になると、どうしてもファッションやクールな発言にフォーカスされがちなんだけど、シンガーとして、ソングライターとして、プロデューサーとしてのすごさも忘れちゃいけないと思うんだよね。


Translated by Kyoko Maruyama

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