ハリー・スタイルズ独占取材 世界的ポップアイコンが怒涛の一年を語る

ハリー・スタイルズの素顔と未来

ライブの8時間前、ハンブルク交響楽団のコンサートに一緒にいかないかと、筆者はスタイルズに誘われた。そういうところは、まるで本物のロマンス小説の貴公子だ。

スタイルズは、過去のツアーについて次のように語った。「『ここに来るのは6回目だけど、街を見たことがない』と、ふと思ったんだ。当時は、いろんな街を訪れていたのに」。今回のツアーでは、多くの建築物を見て回っている。「どこかに腰を下ろして、何かを見る。これくらいなら、ひとりでもできるから」と話す。

建築物の細部を観察することは、スタイルズが築き上げた規則正しくて秩序ある成熟したツアー生活とも合っている。スタイルズは、ツアー中のルーティーンを徹底して守っているのだ。夜は10時間眠り、静脈注射でビタミンや栄養素をチャージする。コーヒーやアルコールだけでなく、大事な喉(5万人のファンの期待がかかっている)に悪いとされる食品を除いた、体に優しいけれど厳格な食事制限も行っている。インタビュー前日の夜は、2台の加湿器をフル稼働させて寝ていたようだ。筆者がドアをノックすると、ミストサウナのようにむわっとした空気の中からスタイルズが姿を現した。

「エルプフィルハーモニー」ことハンブルク交響楽団が本拠地とするコンサートホール――「エルフィ」の愛称で親しまれている――は、豪華客船を思わせる美しい建築物の中にある。スタイルズは、前日にホテルで会ったときと同じ格好――ショートパンツの代わりにピンストライプのパンツを履き、サージカルマスクをつけている。ふたり揃って遅刻してしまったため、幕間までホールに入ることはできない。そのため、私たちは迷路のようなバックステージの通路を歩き、エレベーターを使って見事な音響設計技術が注ぎ込まれた建物を探検する。建物からは、ハンブルクの街が一望できる。スタイルズは、ひとつひとつに感動する。空調の効いたピアノだらけの部屋では、「いちばんいいピアノはどれ?」とツアーガイドに尋ね、ビートルズ風の幻想的なメロディを披露してくれた(そういえば、昨年の夏は朝のコーヒーを楽しみながら毎日ピアノを弾いていた、と言っていた)。室内のパネル張りについて質問する。そして本物の観光客のように、ひとつひとつを写真に収めた。

筆者が初めてスタイルズに会った時もこうだった。2017年、スタイルズは初のソロツアーでサンフランシスコを訪れていた。筆者は、キッド・ハープーンをインタビューしようとバックステージを訪問した。待っていた部屋に偶然、スタイルズがふらりと入ってきたのだ。その様子は、ヘッドライナーを務める人気アーティストというよりは、照明係のようだった。あのハリー・スタイルズ(YouTubeにアップロードされているワン・ダイレクションの「傑作インタビュー集」を見ながら、部屋いっぱいに彼らの切り抜きを貼っていた学生時代を思い出した)が、いかにもくつろいだ様子で入ってきたのだ。すると次の瞬間、ワン・ダイレクションのキーチェーンを捨てられずに持ち続けているひとりのファンではなく、旧友に話しかけるように声をかけてくれた。元気? サンフランシスコで何をするの? ライブを楽しみにしててね、と言ってくれたのだ。いまでもあのときのことを完璧に覚えている。

スタイルズには、相手に強い印象を残す天賦の能力がある。ニューヨークのセントラル・パークやロンドンのハムステッド・ヒースで彼に出くわしたファンに話を聞けば、まるでローマ教皇に会ったかのように細かく語ってくれるだろう(もちろん、ローマ教皇がヘアクリップを付けている可能性はないのだが)。

エルフィでのコンサートの後半戦を前に、ホワイエはくつろいだり飲み物を買ったりする観客で賑わっている。誰もスタイルズに気づかない(マスクのおかげだ)。こうもやすやすと世界的なポップスターが誰にも気づかれずに行き来する様子は、なんだか可笑しくもある。当の本人は、自分の知名度にも気づいていないようだ。

「自分はどこにも行けないし、自分が動けば大騒ぎになると決めつけてしまうことで、人生は本当にそうなってしまう」とスタイルズは話す。「だから、ロンドンにいるときは、とにかく歩いて移動する。車に頼ってばかりだと、レストランやいろんな場所になかなか気づけないから。それに、車移動ってあまり楽しくないよね」


PHOTOGRAPHED BY AMANDA FORDYCE FOR ROLLING STONE. TOP BY BOTTER. SHORTS BY JW ANDERSON. SHOES BY ERL.

スタイルズは、今後のスケジュールを明かしてくれた。7月31日のポルトガル・リスボン公演でヨーロッパツアーを締めくくったあと、友人たちと休暇を楽しむ予定だ。見逃した恋愛リアリティ番組『Love Island』を観るかもしれないし、ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』が評判どおりの名作かどうかを自分の目で確かめるかもしれない。8月末にはじまる北米ツアーには、ロサンゼルス、ニューヨーク、オースティン、シカゴといった都市での公演に加えて、レジデンシー公演も含まれる。レジデンシー公演は、ツアースケジュールの過密化を避けるだけでなく、ツアーの合間を縫って映画祭に参加したり、スタジオを借りて4作目の音楽づくりに取り組んだりするためにたどり着いた選択肢だった。「いつも曲を書いている」とスタイルズは言う。スタイルズとコラボレーターたちのあいだでは、常にアイデアが飛び交っているのだ。「また一緒に仕事ができることにみんなワクワクしているんだと思う。変だよね、アルバムを出したばかりなのに」

スタイルズは、いままでにないくらい未来を見据えている。ひと段落したら、どこかで有意義な休暇を取り、家族や友人と過ごす時間を増やしたいと願っている(曲づくりはやめられないだろうから、ツアー後を考えているのかもしれない)。その一方で、スタイルズは真実の愛の意味を知った。「幻想やまぼろし、世間が自分に抱いているイメージのせいで、自分は完璧な人間だと思ってしまうこともある」と話す。「でも、ありがたいことに友人たちは『完璧じゃなくてもいい』と常に教えてくれる。僕は、とっちらかっていることもあれば、間違えるときもある。でも、そういうところがいちばん愛おしいんじゃないかな。誰にでも欠点はある。だから、それに目をつぶって誰かを愛するのではなく、それを含めて愛せばいいんだ」

いつか父親になったときのことについて思いを巡らせた。「そうだね、いつか子供を持つようになったら、あるがままの自分でいて、弱さを隠さずに分かち合うことの大切さを教えたいな」

スタイルズは、社会に伝えたいことについても考えている。ティーンエイジャー時代は、政治には無関心だったと認めた。自分に直接関係のないことには興味がなかったと。だが、知名度が上がるにつれて不安を抱くようになった。「自分を徹底的に見つめ直したんだ」と話す。「その結果、僕はまったく……というか、何もできていないじゃないか、と思った」。人種差別と立法の不作為が頂点に達した2020年、スタイルズはデモ行進に参加し、イブラム・X・ケンディの『アンチレイシストであるためには』やベル・フックスの『The Will to Change』などの本を読んだ。多くの雇用を創出する仕事に携わっているひとりとして、人種とジェンダーの平等についても考えるようになった。「白人だからといって優位な立場にあるという考え方は嘘だ」と語る。

妊娠中絶を女性の権利と認めた「ロー対ウェイド判決」が米連邦最高裁判所で覆された直後、私たちは一緒にいた。「いま、アメリカの女性はどれほどの恐怖を抱えて生きているんだろう」とスタイルズは言った。ハンブルクのライブでは、ファンのひとりが持っていた“My Body, My Choice(私の体は、私が決める)”と書かれたプラカードをステージ上で高らかに掲げた。観客席は、慎重でありながらも楽観的なオーラにあふれている。「たとえこのツアーのためだけだとしても、こうして集まってくれた人々に出会えて幸せだ」と話す。「こうした人たちは、前の世代よりも傷口を開き、それについて話し合い、行動に移すことを恐れていない気がする」


PHOTOGRAPHED BY AMANDA FORDYCE FOR ROLLING STONE. STYLING BY HARRY LAMBERT FOR BRYANT ARTISTS. TANK BY LOEWE. SUSPENDERS, STYLIST’S OWN. TROUSERS BY GUCCI.

満席のコンサートホールで、私たちはハンブルク交響楽団の演奏の再開を待っている。家族と一緒に来ている少女たちを見ながら、ここにいる観客の何パーセントが今夜のライブ会場に足を運ぶと思う? とスタイルズに尋ねた。彼はホールを見渡す。年配の人が多い。次の瞬間、「1パーセント以下かな……僕を除いて」と言った。

スタイルズは、真剣な眼差しでオーケストラを見つめた。スタンディングオベーションに応じて指揮者が再登場すると、「待ちに待ったヒット曲の時間だ」とささやいた。5万人の観客を熱狂させていないときでさえ、隣にいる人を楽しませようとする。それがハリー・スタイルズなのだ。

コンサートホールが空になるのを待たずに、私たちは歩いて外に出た。スタイルズは、その場に少し残って写真を撮った。写真を撮り終えると、ライブの準備をしにホテルに向かった。彼のことを待ち焦がれていたファンの叫びを全身で浴びながら、今夜はステージの上で跳ね回るのだ。

ハンブルク交響楽団のコンサート後の私たちのように、ライブ後もファンたちはフォルクスパルクシュタディオンの外に集まって余韻に浸るだろう。そして着てきた洋服、涙と汗に覆われたラメだらけの顔、ふわふわの羽根飾りの残骸などの写真を撮る。夜空にスマホをかざしながら、ライブのお礼にワン・ダイレクションの「Night Changes」や『Fine Line』に収録されているバラード「Falling」といったヒット曲をかける。ハンブルクの街が一体となってハリー・スタイルズのすべてを反響させるなか、きっと本人はシャワーを浴びて裸の自分に立ち返っていることだろう。


【メイキング映像を見る】撮影中のハリー・スタイルズ

PRODUCTION CREDITS

Fashion direction by ALEX BADIA. Stylist Assistants: RYAN WOHLGEMUT and NAOMI PHILLIPS. Production by JAMES WARREN for DMB Represents. Hair by MATT MULHALL for Streeters. Grooming by LAURA DOMINIQUE for Streeters. Set design by DAVID WHITE for Streeters.

From Rolling Stone US.




ハリー・スタイルズ「Love On Tour 2023」
2023年3月24日(金)有明アリーナ
2023年3月25日(土)有明アリーナ
公式ウェブサイト:http://harrystylesjapantour.com/


ハリー・スタイルズ
『Harry’s House』
発売中
再生・購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/HarrysHouse

Translated by Shoko Natori

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