「TONAL TOKYO」総括 チャーリーXCX、ジェイミーxxらが提示した熱狂と多様性

チャーリーXCX(Photo by Henry Redcliffe)

さる10月29日(土)、東京・有明アリーナにて「TONAL TOKYO」が初開催された。「未来のクラシック・スタンダード」を掲げ、「音色」や「色合い」という意味を持つ「Tonal」という単語をその名に据えたTONAL TOKYOは、「東京が持つ多様な音や色を束ね、東京から世界に発信する新世代の音楽フェス」と位置づけられている。

TONAL TOKYOが掲げる「未来のクラシック・スタンダード」とはどういうものなのだろうか。本稿では、現地の模様やライブの内容をまとめていきながら、この新たな音楽フェスが提示した意義や意図について振り返っていきたいと思う。

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国内シーンで異彩を放つ3組が登場

今回、TONAL TOKYOが開催された有明アリーナは、2020年東京オリンピック・パラリンピックの競技会場として建設された施設の一つだ。今年の8月からはコンサート会場としても利用されるようになり、同月にはビリー・アイリッシュの来日公演も開催された。収容人数は15,000人とされており、来年2月にはバックストリート・ボーイズの3デイズ公演も決定。今後も多くのアーティストの公演が実施されることだろう。

午前11時、この日のオープニングを務めるKroiのパフォーマンスが始まる。今年のフジロックではWHITE STAGEに抜擢されるなど、急速に躍進を遂げている彼ら。ソウル/ファンクからの影響を色濃く感じさせるグルーヴに満ちたバンドの演奏と、時にはラップを織り交ぜたり、ロック寄りのエモーショナルな歌声を披露するボーカルが織りなすミクスチャー感が最高に気持ち良い。リズム隊が冷静でどっしりと構えているのに対して、ギターが全身で感情を大きく表現しているという静と動のコントラストも魅力的で、客席からは自然にハンドクラップが沸き起こる。

良い感じになったムードの中で、Tempalay、Tohjiと、日本の音楽シーンの中でも特に異質なポジションを築き上げた2組が続いていく。轟音のサイケデリアを放つ壮絶な演奏の中で、小原綾斗による混沌と一体となるかのような歌声と、AAAMYYYの繊細で美しい歌声が交わることで奇妙で美しいハーモニーを響かせるTempalayと、EDMやハイパーポップ的なサウンドを大胆に取り入れたトラックをバックに、オートチューンによって儚くも心地良い質感を持ったラップや歌声を操るTohjiのステージは、(音楽性自体は異なるが)様々なジャンルを自由に越境しながら混沌とポップを両立させるという点において、どこか通じるものがあったようにも感じられた。


Kroi(Photo by Kazumichi Kokei)


Tempalay(Photo by Kazumichi Kokei)


Tohji(Photo by Kazumichi Kokei)


イヤーズ&イヤーズとジェイミーxxが生み出した熱狂

この辺で、一旦メインステージを離れて食事に向かう。TONAL TOKYOのフードコートは(有明アリーナに常設されている売店を除いて)施設を出た先にある屋外スペースに設けられており、芝生に座り、目の前に流れる東雲運河を眺めながらフードやドリンクを楽しむことが出来た。当日は晴天だったこともあって気持ちがよく、このエリアでクラフトビールを片手に、ずっとのんびりしている参加者もいたようだ。これもまた、有明アリーナで開催されるフェスならではの光景だろう。

快適なスペースといえばサブアリーナも同様だ。2010年にイギリス・ロンドンで設立され、長きに渡って世界のクラブ・ミュージック好きに支持されてきたオンライン・ストリーミング・プラットフォームであるBOILER ROOMとタッグを組んだこのエリアでは、カラフルな空間演出で彩られた休憩スペース(ハンモックも用意されていた)とDJブースが併設されており、リラックスしながらクラブ・ミュージックを楽しめる空間が構築されていた。筆者が訪れた際にはD.A.N.がDJを披露しており、柔らかな質感のテクノと硬質なハウスによる温冷のバランスを絶妙にコントロールしながらフロアを盛り上げる手腕に唸らされた(本人たちも非常に楽しそうで、特に櫻木大悟は自分がDJ卓を触っていない時間もずっとブースの横で笑顔で踊り続けていた)。


ライ(Photo by Kazumichi Kokei)


LANY(Photo by Kazumichi Kokei)

カナダ出身のマイク・ミロシュによるR&Bユニットのライ(Rhye)、米国出身のポップ・ロックバンドであるLANYを経てメインステージに登場したのは、2010年結成、現在はイギリス出身のオリー・アレクサンダーによるソロ・バンドとなったイヤーズ&イヤーズ(Years & Years)。最新作『Night Call』のツアーの流れを汲んだ今回の公演は、オリーに加えて2人のダンサー・コーラス、パリス・ジェフリー(Dr)、昨年までバンドの一員だったマイキー・ゴールズワーシー(Key, Ba)という編成によるライブ・セットとなっており、華やかなグルーヴ(特に力強くダンス・ビートを打ち鳴らすパリスのドラムが最高だった)と共に「Sweet Talker」や「Shine」、「Desire」といった至高のダンス・ポップアンセムが会場中に放たれていった。

何と言っても素晴らしかったのが、舌触りの良い甘くポップな歌声と、セクシー&キュートな表情・仕草・ダンスで観客を魅了するオリーのパフォーマンスだ。ナイトクラブでの燃え上がる愛を描いた「Muscle」ではダンサーと共にトゥワークを披露し、原曲の持つセクシャルなムードを更に増幅させながら観客を熱狂の渦へと誘っていた。

最大のハイライトは、オリーが主役を演じ、イギリスで社会現象となったドラマ『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』の劇中歌としても使用されたペット・ショップ・ボーイズ「It’s A Sin」のカバーだろう。美しいピアノの弾き語りに始まり、感情の昂りと共にバンド演奏に切り替わり、ピアノの上に立って“今まで僕がやってきたこと / 今の僕がやっていること / これまで訪れた場所 / これから僕が向かおうとしている場所 / その全てが罪だ”と高らかに歌い上げる彼の姿は、あまりにも美しく、そして力強かった。


イヤーズ&イヤーズ(Photo by Kazumichi Kokei)


イヤーズ&イヤーズ(Photo by Kazumichi Kokei)

その熱量を保ったまま、更に観客を熱狂のグルーヴへと導いたのがジェイミーxx(Jamie xx)によるDJセットだ(余談だが、この前日が彼の誕生日ということでアリーナ全体もお祝いムードである)。

イギリス出身、The xxの頭脳として知られ、『In Colour』(2015年)に象徴される自身のソロ名義による活動も絶大な支持を集め、ドレイク「Take Care feat. Rihanna」(2012年)やタイラー・ザ・クリエイター『CALL ME IF YOU GET LOST』(2020年)などのプロデュース・ワークスでも知られる彼が、現代におけるポップ/クラブ・ミュージックにおける重要人物であることは言うまでもない。だが、一秒たりとも退屈する瞬間のない80分間のセットを体感して改めて痛感したのは、「どのように音色やフレーズを増幅・加工・反復・配置すれば最も心地良いのか」を、彼がいかに熟知しているということだった。

原曲の時点で驚くほどの心地良さと中毒性を誇っていた「Sleep Sound」のような名曲ですら、解体・再構築された美しい音のレイヤーによって立体的に感覚が刺激されることで、まるで何段階も進化したかのような印象を受ける。『In Colour』のアートワークを彷彿とさせるカラフルな照明とスモークを用いた、シンプルなステージ演出も抜群に美しく、まさに一切の無駄がない、異常なほどの完成度を誇るステージだった。


ジェイミーxx(Photo by Kazumichi Kokei)


ジェイミーxx(Photo by Kazumichi Kokei)

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