「TONAL TOKYO」総括 チャーリーXCX、ジェイミーxxらが提示した熱狂と多様性

ヘッドライナーのチャーリーXCX、TONAL TOKYO開催の意義

さて、いよいよヘッドライナーとなるチャーリーXCX(Charli XCX)の登場である。イヤーズ&イヤーズのオリーもMCでその名を挙げて今回のラインナップを称賛していたが、(テイラー・スウィフト来日公演のゲスト・アクトとして出演した)2018年以来となる待望の来日だ。

最新作『Crash』のアートワークを彷彿とさせるようなフルスロットルで車が走る映像を経て、スクリーンに大きく「XCX」の文字が映し出されると、もはや沸騰しそうなほどの熱狂が有明アリーナを埋め尽くす。まさに雷鳴のような演出と共に披露された1曲目は『Crash』を象徴する「Lightning」。まるで身体の中心から湧き上がってくるかのような美しく力強い歌声に、一瞬で胸を掴まれる。同楽曲における途轍もなくキャッチーな“Heartbreak already hit me once / They say that it won’t happen twice”のラインを筆頭に、「Move Me」や「Constant Repeat」といった楽曲に込められた宝石のような珠玉のポップ・メロディが次々と空間に弾けていき、これ以上ないほどの多幸感に満たされていく。


チャーリーXCX(Photo by Henry Redcliffe)


チャーリーXCX(Photo by Henry Redcliffe)

今回のパフォーマンスを観ている中で気付かされたのが、PC Musicとの繋がりを筆頭とした、いわゆるDTM的な文脈で語られることも多い彼女の音楽が、極めて身体的なものであるということだ(当たり前といえば当たり前なのだが)。ダンサーと共に、ほとんどの楽曲を踊りながら歌う彼女の一つひとつの動きが、完璧にメロディと一体化していて、むしろ身体からメロディが生み出されているかのような印象すら覚えた。

それはエッジの効いたトラックについても同様で、その点について最も象徴的だったのは、SOPHIEとのタッグで生まれた名曲で、ステージ終盤で披露された「Vroom Vroom」だろう。粘り気のある金属のような質感を持った音色の一つひとつが、チャーリーの身体的な動きや歌声と、それを浴びる観客の感覚をブーストさせ、ポップなメロディがもたらす多幸感と、自らの肉体が覚醒していくかのような感覚が身体中に流れ込んでいく。改めて、チャーリー自身や、SOPHIE、A. G. CookといったクリエイターのルーツがUKのクラブ・シーン(とりわけレイヴ・カルチャー)にあることを強く実感させられる瞬間でもあった。


チャーリーXCX(Photo by Henry Redcliffe)

フェス後半に出演したチャーリーXCX、ジェイミーxx、イヤーズ&イヤーズの3組はいずれも、「UKクラブ・カルチャーを起点に、オルタナティブな立ち位置からメインストリームに影響を与えているアーティスト」であり、同時に「クィア・コミュニティを強く支持している」ことでも知られている(ジェイミーxxに関しては、彼が所属するThe xxも含めて)。会場でもレインボーフラッグを掲げる人、レインボーカラーをファッションに取り入れた人を多く見かけた。従来の洋楽フェスでは見落とされてきた文脈をしっかりと提示する。TONAL TOKYOが掲げる「未来のクラシック・スタンダード」という言葉の背景には、そんな意図が込められていたのかもしれない。

また、前半に登場した邦楽勢の3組にしても、一定の知名度を誇りながらも独自のポジションを築き上げており、「トレンド」のような言葉で括るのが困難なアーティストばかりだ。TONAL TOKYOの試みは、そのユニークな一つひとつの個性こそが新たな「スタンダード」であるという意思の表明なのだろう。実際、観客側に目を向けてみても、いわゆるフェス・ファッション的な装いではなく、ストリートやモードなどを取り入れた、自分なりのファッションを表現している人を多く見かけた。

そこで気になるのは、初開催となった今回の反響を踏まえて、次にTONAL TOKYOがどのようなラインナップを提示するのかという点だ。これから回数を重ねていくことで、(出演アーティストと同様に)オルタナティブな立ち位置からメインストリームに影響を与えるような、極めて興味深いフェスへと成長するのではないだろうか。今回参加したことで、少なくともその期待を感じることはできたと思っている。

【画像を見る】「TONAL TOKYO」ライブ写真まとめ(全33点、記事未掲載カット多数)

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