UKドリルの注目株がシーンの現状を語る「勢いを持続させられるかどうかは、俺たち次第」

セントラル・シー(©Jack Bridgland)

UKチャート初登場1位に輝いた2ndミックステープ『23』やドラマ『アトランタ』のサウンドトラックへの起用など、イギリスで注目を集めるロンドン出身のラッパー、セントラル・シー。UKドリルの“顔”として活躍する彼の音楽が支持を集める理由は、厳しい現実のリアルな描写がそこにはあるからだ。

※この記事は2022年6月発売「Rolling Stone Japan vol.19」に掲載されたものです。

成長のまっただ中にいる

ーあなたの地元はウエスト・ロンドンのシェパーズ・ブッシュですが、この地区は、2010年から盛り上がりをみせているUKドリルを語る上で欠かすことのできない場所であると同時に、ロンドンでもっとも犯罪発生率の高い地域でもある。ソングライターとして、楽曲では包み隠さず自分をさらけ出しているように思えます。それはあなたにとって自然なことなのでしょうか?

シー もちろん。俺にとってはごく自然なことだ。それが俺の音楽の本質だから。奥に行けば行くほどリアルになる。実際、そんなにたくさん曲は作らないんだ。スタジオに入って自分の中から音楽を引き出すには、まず何かを感じなければいけない。あとは、いたって自然に出てくる。

ー最新作のレコーディングでもっともインスパイアされたことは?

シー 最近は自分に向けられる愛情から多くのインスピレーションをもらっている。時折、我に返って自分の音楽を心から愛し、それを聴きたがっている人がいることを噛みしめるんだ。こうしたインスピレーションのおかげで、次の曲を作る気力が湧いてくる。自分の音楽が最高だとは思っていない。それはあくまで俺の感情表現だから。言うなれば、日記の1ページのようなもの。自分の音楽には感動しないけど、誰かが俺の音楽を聴いて感動してくれると想像するだけで「すげーな。新曲でも作るか」と思えるんだ。

ーデビューミックステープをリリースした頃と比べて、『23』ではアーティストとしての成長を実感することができましたか?

シー 成長したと思う。アーティストとしてかはわからないけど、一人の人間として成長した気がするし、それがアーティストとしての自分に投影されると思っている。俺はまだ成長の真っただ中で、もしかしたら、もっとはっきり自分の意見が言えるようになったり、新しいものの見方に対してもう少しオープンになれたりするかもしれないけど。



ー「Commitment Issues」で描かれているように、恋愛に関しては大人な視点を持っていますね。

シー 確かに。でも、それが現実だから。「あばずれ」とか「ビッチ」とか、そういうのが取り立てて好きなわけじゃない。何て言ったらいいかわからないけど、俺は普通の人間で、それが音楽に投影されているんじゃないかな。



ー自分のことをロマンチストだと?

シー いや、まさか。ロマンチストとしては絶望的。

ーその理由は?

シー 理由は、俺が他のことにフォーカスしすぎているから。恋愛は、俺の頭の片隅にしかない。最優先事項ではないんだ。それに、多くの時間を恋愛に捧げることもできない。恋愛とキャリアは似ていると思わないか? どちらも献身が求められる。俺は自分のキャリアと現状にかなり集中しているから、恋愛とかそういった人間関係に費やす時間がないんだ。

ーパンデミックの最中にブレイクしたわけですが、パンデミックによって以前とは違うものの見方をするようになったと思いますか?

シー 思うよ。俺のキャリアにとって(パンデミックは)プラスだった。すべてをスローダウンさせてくれたから。パンデミックがなくても当時の俺は冷静だったし、そこまで苦労することはなかったと思うけど。でも、すべてがスローダウンしたおかげで、助けられたんだ。うまく表現できないけど、平凡な市民が突然「有名ラッパー」になったわけだから。ごく普通の人間が、次の瞬間にはライブをしたり、たくさんの人に会ったりするのはかなりエネルギーを消耗するし、相当キツイと思う。でも俺は、居心地のいい自宅からこうした状況に身を置くようになった。人間関係も変わらない。誰かに会う必要もない。1年間、一度もライブをしなかった。地に足をつけていられたのも、そのおかげかもしれない。

Translated by Shoko Natori

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