田中宗一郎が語る、拡張するダンス音楽

ジャンルが溶解した時代のダンス音楽、その象徴としてのデュア・リパ最新作

ーここまでは現場の状況から読み取れるダンスミュージックの現状について分析してもらいましたが、チャートの動きからは何かわかることはありますか?

田中 ダンスビートを取り入れたポップソングという観点から話すと、やはりデュア・リパの『Future Nostalgia』とザ・ウィークエンドの『After Hours』は本当に大きかったと今も感じます。特に『Future Nostalgia』は良くも悪くもメルクマールでした。あのアルバムを80年代的と呼ぶ人も90年代的と呼ぶ人もいますが、実際、あの作品はUKテクノを筆頭に様々な時代の多種多様なビートを曲ごとに緻密に取り入れている。極めて完成度が高く、かつ影響力があったように思います。今ではカントリーにもトラップ的なビートが鳴っていたり、それぞれのジャンルにおけるビートが多種多様であることがごく当たり前の時代になりました。プロデューサー自体もかつてのように一つのジャンルに特化するのではなく、どんなタイプのビートもごく普通に作れてしまう時代になった。そういった2020年代的な状況の、ちょっとした象徴が『Future Nostalgia』だと言えると思います。日本国内に目を向けても、例えばYENTOWNやAwichのプロデューサーChaki Zuluにしても、(sic)boyを筆頭に様々なラッパーのプロデュースやミキシングを手掛けるKMにしても、本当にいろんなタイプのビートを得意とする人たちです。








デュア・リパ(Photo by Xavi Torrent/WireImage)

ーなるほど。

田中 一方で、チャーリーXCXの存在はとても重要だと改めて感じます。彼女はキャリアを育む以前に英国のレイブシーンに身を置いていて、PCミュージック周辺のソフィーやA.G.クック――インターネット音楽のシーンにも深くかかわってきた。彼女にはダンス音楽という出自が明確にあって、それをメインストリームに持ち込もうとしてきた。彼女の新作『CRASH』には2ステップのビートもあれば、インターネット音楽の出自を強烈に感じさせるトラックもある。ダンス音楽の今を象徴する1枚だと感じました。勿論、デュア・リパに較べると爆発的な成功は収めてはいない。ただ、その商業的な結果もまた、今の時代を象徴しているように感じます。

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