田中宗一郎が語る、拡張するダンス音楽

国家単位の政策の違いに左右されるヨーロッパ各国のダンス音楽の現状

ーコーチェラは基本的にアメリカの音楽シーンの状況を反映していると思いますが、イギリスをはじめとしたヨーロッパのダンスミュージックの状況は、今どのようになっていると感じていますか?

田中 これも現地に足を運ぶことが出来ていないので、ネット経由の映像や情報でしかないという前提で話をさせてください。ダンスミュージックは基本的に「フロアにいるオーディエンスが主役」というカルチャーなので、パンデミックで現場を奪われたことによって本当に両手をもがれたような苦しい状況にあります。ただ、イギリスは早い時期からワクチン接種証明書があればイベントに参加出来るという制度を打ち出した。それもあって、感染が深刻化しにくい屋外でのフェスやパーティを中心にまた活況を呈しているようです。実際、ドラムンベースの老舗レーベル、ホスピタルは再び活気づいている。そうした状況に伴って、2ステップやドラムンベース――90年代のフォルムが息を吹き返している。

ーそう言えば、90年代イギリスのダンスミュージックにおける象徴的なアクトの一組であるアンダーワールドが来日公演を行います(※取材時は来日公演前)。

田中 それで早速、この春から夏にかけて他にどんな場所で演奏しているのか、彼らの公式サイトで確認してみたんですよ。プラハやアイルランド、自分からすると名前も知らないような中規模の野外フェスにいくつか名前を連ねていて。

ーなんか棘がある言い方ですね(笑)。

田中 いや、我々はどうしてもアメリカのコーチェラ、イギリスのグラストンベリーといった大きな現場を軸にして全体を見ようとしちゃうじゃないですか。でも、もはや今は中心を欠いた時代とも言える。実際、それぞれのフェスにもそれぞれきちんとしたカラーがあって、ラインナップを見るだけでも面白いんですよ。中でも特に興味深いと思ったのは、ビジュアルや会場の造形からヒッピーイズムを読み取れるフェスにアンダーワールドが出演していること。サイトを見る限り、どこかセレブリティヒッピーというか、アリ・アスターの映画『ミッドサマー』に出てくるようなティーンエイジャーたちがヒッピー的な衣装で着飾って、その気分を味わうためのフェスという印象なんです。つまり、新世代のヒッピーイズムの表象として彼らの音楽が必要とされている。アンダーワールドの存在がかつてとは違う形で再定義されているんだなあ、という感慨がありました。

ーイギリス以外のヨーロッパの状況について、何か気になるポイントはありますか?

田中 欧州におけるテクノ音楽のもっとも重要な震源地と言えばベルリンですが、ベルリン在住の友人から一時期ベルリンのクラブは壊滅的な状況になったという話も耳にしました。ただ、普段からベルリン在住のDJ、田中フミヤのInstagramを通してベルリンが少しずつ現場を取り戻していることも確認してはいます。やはりパンデミックに対する国家単位の対策がそれぞれのローカルでの現場の在り様と深くかかわっているので、欧州の中でも国によってまったく違う状況なんだと思います。

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