新たな胎動の予感? 各メディアの2021年の年間ベストから読み取れる時代の空気とは?

2022年2月8日、英ブリットアワードのステージでパフォーマンスするリトル・シムズ(Photo by Dave J Hogan/Getty Images for BRIT Awards Limited)

音楽メディアThe Sign Magazineが監修し、海外のポップミュージックの「今」を伝える、音楽カルチャー誌Rolling Stone Japanの人気連載企画POP RULES THE WORLD。ここにお届けするのは、2021年12月25日発売号の誌面に掲載された、海外の主要メディアによる2021年の年間ベストの結果を考察した記事。各メディアの年間ベストを横断的に眺めることで見えてくる時代の空気とは?

【一気にチェック】2021年の年間ベスト・アルバム上位10作

様々なメディアが恒例の年間ベスト・アルバムを発表した。果たして2021年はどのような作品が、どのような文脈から支持を集めたのか? それを横断的かつ俯瞰的に見ていくことによって、2021年という一年の輪郭を浮き彫りにしていきたい。なお、本稿執筆時の2021年12月8日現在ではThe GuardianやNMEなど幾つかの主要メディアの年間ベスト・アルバムがまだ出ていないため、あくまで現時点での暫定的な総括だということを付記しておく。

まず結論から言ってしまうと、2021年の年間ベスト・アルバムには過去数年ほどのわかりやすい傾向はない。と言うのも、2020年のフィオナ・アップル『Fetch the Bolt Cutters』、2019年のラナ・デル・レイ『Norman Fucking Rockwell!』のように圧倒的な支持を集めている作品が見当たらないからだ。だが、それこそが2021年的な光景だとも言えるだろう。つまり、誰もが時代を象徴すると感じるような特定の作品はない。「中心を欠いたバラバラな状態」というのは過去数年にも言われたことだが、2021年はいよいよそれが全面化したと読み取ることが出来る。とは言え、停滞した印象はない。それは多くのメディアのチャートにおいて、世界各地、各ジャンルの新たな胎動への興奮と、それをしっかりと捉えようという意図が汲み取れるからである。

具体的に見ていこう。今のところ、もっとも多くの媒体で1位を獲得しているのはリトル・シムズ『Sometimes I Might Be Introvert』(6つの媒体で1位。媒体数のカウントはalbumoftheyear.orgを参照している)。これまでとは比べ物にならないほどのスケール感を獲得した本作が各年間ベストでも上位に食い込むのは大方の予想通りだろう。パンデミックの行動制限下で自分を見つめ直し、更なる深みに到達した作品という意味では、2021年に生まれるべくして生まれた作品だと言える。


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