NYドリルを担う新鋭たち

NYドリルを取り巻く現状

ニューヨーク・ドリルはシカゴ・ドリルから枝分かれしたジャンルだ。圧倒的影響力を持っていたシカゴ・ドリルは、時が経つにつれてギャング絡みの問題に悩まされ、そうした偏見はニューヨークにも引き継がれた。だが、ドリルは常にそれ以上のものを内包していた。チーフ・キーフ、リル・ダーク、G Herbo、故ポップ・スモークらは、一般のファンをドリルのサウンドへ導き、クロスオーバーのスターとなった。DJ L、808Melo、そして現在のCobainなど、このジャンルを代表するプロデューサーはドリルの可能性を押し広げ、しかるべき後押しがあればヒットする可能性を秘めた音風景をつむぎだした。

これまで警察当局は、主にショウを中止させるなどして、新進気鋭のドリル・アーティストに見えない壁を作ってきた。シカゴのリル・ダークやニューヨークのSheff Gを筆頭に、実に多くのアーティストが地元警察に目を付けられ、街にあいつらがやってくるぞと他の部署からも警戒された。2019年のRolling Loudフェスティバルの際には、ニューヨーク警察が「公共の安全上の懸念」を理由に5人のラッパーを検挙した。今年に入ってからも、ニューヨーク市のエリック・アダムス市長がドリルの暴力的なテーマを「危険」とみなし、ドリルシーンの取り締まりを検討していると公言(だがもともとパーティ好きのアダムス市長は、あるイベントでドリルに合わせて少なくとも数回は首を振っていた)。

この日のヘッドライナーだったCobainのセットでは、ロング・アイランドのラッパーSwoosh Godがステージに登場。ちょうどChowとCobainが、ジャージークラブの荒々しいキックドラムにドリムを融合した「Orgasm」を演奏している時だった。最終的に、Swooshはステージ上でMC仲間のMali Smithとダンス対決をする羽目になった。ヒップホップの歴史に精通している人なら誰でも、ブレイクダンスとヒップホップが暴力に代わるはけ口として生まれたことを知っている。あれから50年が経過し、同じような経済格差が襲うなか、またもや若い世代が音楽に希望を見出している。時に醜い現実を反映しつつも、自分たちの日常のサウンドトラックとなるような音楽に。禁止したがる理由が一体どこにあるだろう?

Cobainの底なしのサンプリングのセンスと、Swoosh Godのクラブ仕込みの感性は、ドリルの可能性を改めて実感させる。2人はあくまでも氷山の一角で、新たな形式へとシフトするドリルの興味深い事例はまだまだたくさんある。お役所制度や官僚主義、人種差別の弊害に埋もれながらもなお光を見出し、その過程で古き良きアメリカーナの甘い汁を覆してみせるアーティスト集団のほんの一例に過ぎないのだ。



Translated by Akiko Kato

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