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この取材後、ハリー・スタイルズとアレクシスの娘のツーショットが、アレクシスのInstagramに掲載された
ー話を今回のアルバムに戻すと、制作に際しては「ライブの熱量を作品に落とし込みたい」という意識が強かったそうですね。そのきっかけのひとつとして、近年のあなたたちのライブでは定番となっているビースティ・ボーイズ「Sabotage」のカバーがあったんだとか。そもそもどういう経緯で「Sabotage」をカバーしはじめたんですか?
アレクシス:僕たちは全員ビースティ・ボーイズが好きだから、僕がみんなに提案したんだ。「Sabotage」はパンクっぽくて派手で、僕たちがいつも演奏している曲とはまったく違ったサウンドだというところが良かった。「快適な空間を生み出すバンド」というような、僕たちへの評価を取り去ってくれるような気がしたんだ。ちょっとみんなを驚かせたくてね。あの曲を演奏することでライブに対するインスピレーションを感じたから、自分たち自身でも呼応した曲を書けないかと思うようになった。だから、僕がこのアルバムのために書いた曲は、最初はもっとロックっぽかったんだよ。「Freak Out/Release」も歌詞だけは残して違う感じの曲に仕上がったけれど、書いているときはストゥージーズのようなイメージだったんだ。
ービースティ・ボーイズは少年期のあなたたちを結びつけた特別なグループでもありますよね。彼らの魅力を一言で言うのは難しいですが、あなた自身は特にどんな点に惹かれたのでしょう?
アレクシス:ビースティ・ボーイズは常にアティチュードとパーソナリティをいいバランスで保っていたグループだと思う。それに、音楽に関してとてもいいセンスを持っているね。彼らを聴くことで、リー・ペリーやスライ&ザ・ファミリー・ストーンなど、さまざまなレゲエやファンクのアーティストに導かれる。そもそも、ヒップホップそのものがリファレンスに満ちているよね。サンプリングを使っているし、リリックに他の曲やアーティストの名前もたくさん出てくる。初期のホット・チップの歌詞も、例えば1stアルバムに収録されている「Keep Fallin’」なんかはいろいろなリファレンスを引用しているね。僕たちはラッパーではないけど、自分たちがいかにその曲やアーティストを好きかということを示すために、あちこちからフレーズを引っ張ってきているんだ。
ー「Keep Fallin’」にはスティーヴィー・ワンダーやウィーンといったミュージシャンからギリシャ神話の登場人物までが登場しますね。
アレクシス:それに、ビースティ・ボーイズは常に進化しているところもすごいと思う。1stアルバム(『Licensed To Ill』)と『Paul’s Boutique』では全然違うことをやっているし、その後はよりバンドっぽいサウンドになっている。ビースティ・ボーイズはロサンゼルスに自分たちのスタジオを持ったことで、一緒に演奏しながらバンドらしい音を見つけていったんだと思うよ。スタジオのなかで「リラックス&エンジョイ」しながらね。バスケットコートがあったり、遊べる空間があったり。僕たちのスタジオも、ちょっと近いところがあると思うな。リラックスできて、夜にはお酒を飲めて。バスケットコートはないけどね(笑)。
―(笑)。
アレクシス:彼らは楽器を演奏する能力も高くて、ドラムもベースもギターもとても上手だし、インストゥルメンタルのファンクの曲を演奏するのにも長けている。ミーターズとかカーティス・メイフィールドのようなサウンドを鳴らしているよね。彼らは、自分たちが好きな70年代の音楽のリファレンスを上手に取り入れながら、自分たち独自のサウンドを作り上げている。ホット・チップも彼らに近いことをやっていると思う。
Photo by Pooneh Ghana
―ところで先日、あなたのInstagramのストーリーで見たのですが、The Wrong Trousersというバンドを観に行っていましたよね。
アレクシス:僕の甥っ子のバンドなんだ(笑)。
―親戚の子のバンドなのかなと想像していました(笑)。小さなライブハウスでのギグだったように見えましたが、いまだにああいう小箱に行くことは好きですか?
アレクシス:そうだね。ライブを観るのも、演奏するのも小さいライブハウスの方が好きだね。先週も80〜90人キャパのロンドンのライブハウスに行ったよ。もちろん、大きな会場でライブをやるのも大好きだし、そのことについては何の不満もない。ただ、お客として小さな箱でライブを観るのはエキサイティングだね。アンプから直接音が届くし、他のオーディエンスとの距離も近い。そういう環境で音楽を楽しむのが好きなんだ。大きな会場だと、ステージが遠すぎてライブの印象が薄くなるというか、はっきりと印象に残らない気がするんだ。もはや小さなライブハウスで観ることができなくなってしまったからこそ、そういうところで見てみたい人っているよね。このトム・ウェイツの本を見ていると(本を傍から取り出しモニターにかざす)、1974年にロサンゼルスの小さなヴェニューで演ったショーはどんな感じだったのか、想像してしまうんだ。彼のショーは大きな会場で何度も観ているし、いつも素晴らしいんだけれどね。
―あなた自身も先日、Servant Jazz Quartersという小さなヴェニューで演奏されていましたよね。その模様を写したInstagramの投稿には「Support your local venues!」と書かれていましたが、「地元の小さな会場」はどんな点で大切なものだとお考えですか?
アレクシス:地元の小さな会場は、新人のバンドにとって演奏できるチャンスをもらえる唯一の場所なんだ。僕のメッセージは、地元の小さな会場は永遠に存在するものではないから、できる限りサポートすべきだということさ。多くのそうしたヴェニューは、経済的に立ち行かなくて厳しい状況にあるのも事実だからね。地元に根ざした店は最終的に巨大チェーンに飲み込まれてしまうことも多い。独立系の小さな喫茶店がスターバックスやコスタ・コーヒーに買い取られてしまうというようにね。もしそうなったら、若いバンドはどこでオーディエンスの前でライブをしたり、ステージで演奏したりすればいい? 出たてのバンドはO2のような大きなチェーン系のライブハウスで出番をもらうことはできないし、そうなるとライブのやり方を学ぶこともできなくなってしまう。これは新人のバンドに限ったことではないよ。小さな空間というのは、音もオーディエンスの雰囲気も最高だから、生き残ってほしいんだ。それはとても大切なことだと思うから。
―最後にあなたにとってのロールモデルとなったミュージシャンを教えてください。
アレクシス:僕にとってのいちばんのロールモデルは、ポニー・プリンス・ビリーだね。我が道を行くという意味でニール・ヤング。多作で多彩、革新性という意味ではプリンス。自己表現と素晴らしい歌声という点でシネイド・オコナー。それに、モーリス・フルトンとかセオ・パリッシュといった多くのハウスミュージックのプロデューサーたち。彼らは我が道を突き進んでいて、想像力が豊かで、革新的で、実験的で、とても刺激を与えてくれる存在なんだ。ポール・サイモンのようなクラシックなソングライターにも影響を受けているよ。ピーター・ガブリエルやケイト・ブッシュもそうだね。カントリーやレゲエのミュージシャンからも影響を受けているし。僕にとって重要なのはプロダクションだけど、同じくらいソングライティングも重要。僕はインストゥルメンタルよりも、歌のある楽曲に繋がりを感じているから。ロールモデルはたくさんいるね。
【関連記事】ホット・チップのアレクシス、全アルバムとキャリア20年を本音で語る
ホット・チップ
『Freakout/Release』
2022年8月19日リリース
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12757
Translated by Tomomi Hasegawa
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