カルヴィン・ハリスがついに帰還、『Funk Wav Bounces』がもたらした衝撃とは?

 
『Vol.2』におけるフィーチャリングの妙

だからこそ、本作の持つ質感は前作よりも更にリッチで、自由で、色鮮やかなものとなっている。アルバムの冒頭を飾る「New Money」は、イントロこそ「Slide」を彷彿とさせるような美しいピアノの音色でありながら、徐々にブラスなどの様々な音色や異なるピアノのレイヤーが重なっていき、更には淡々と刻んでいく21サヴェージのラップにもディレイをかけてしまうことでサウンドスケープをどこまでも拡大していくという、まさに本作を象徴するような壮大な楽曲だ。



「New Money」における21サヴェージの起用の仕方からも分かる通り、カルヴィンだからこそ実現することが出来るフィーチャリングの妙は『Vol.2』においても見事に炸裂している。例えば、先行シングルとして発表された「Stay With Me」はジャスティン・ティンバーレイクの軽やかでありながら絶妙な甘さを持った歌声と、ファレル・ウィリアムスの情感に溢れた歌声のコントラストに酔いしれていると、ホールジーのどこか突き放したかのようなスポークン・スタイルにグッと心を掴まれるという、ただ豪華なだけではなく、まるで聴き手を弄ぶかのような憎い仕上がりとなっている。ホールジーの歌声の魅力と言えば、やはり「Without Me」に代表されるようなどこまでも透き通っていくかのような美しい高音域にあると捉えてしまうが、カルヴィン・ハリスはそのハスキーな声の質感に着目し、大胆にもフックとして聴かせることを選ぶのだ。シングルとして公開された時点で絶大な中毒性を誇っていた同楽曲だが、アルバムでは「Stay With Me (Part 2)」に続けることで実質上のエクステンデッド・バージョンとなっており、ストリングスの音色を絡めることで更に贅沢な体験を与えてくれる。



また、人気ポップ・アーティスト/ソングライターのチャーリー・プースと、若手ダンスホール・シーンの筆頭格であるシェンシーアを招いた「Obsessed」も本作屈指の名曲であろう。コーラスで淡く切ない恋心を歌い上げるチャーリーの愛の訴えをシェンシーアが一つのヴァースで幾重にも声色やフロウを切り替えながら容赦なく圧倒し、それでも諦めきれないチャーリーが(今までの彼の楽曲ですら聴いたことがないほどの)エモーショナルで切実な歌声を響かせるも、その返答はリバーブたっぷりに響き渡る「nah(カジュアルな”no”)」の一言。あまりの温度差に笑ってしまいそうになるが、二人の持つキャラクターの魅力が楽曲全体で引き出されており、軽快なピアノの音色も相まって何度聴いても楽しい気分になってしまう。



他の楽曲においても、「Nothing More To Say」で若手ラッパーの筆頭格である6LACKが聴かせる、フランク・オーシャンをも彷彿とさせるほどに儚くも美しい歌声は、間違いなく本作屈指のサプライズだ。筆者個人としては、アナログな質感のシンセサイザーの音色とバスタ・ライムスの熱量たっぷりのラップの相性が抜群な「Ready Or Not」が特にお気に入りなのだが、どの楽曲も、聴けば聴くほどに楽曲に仕掛けられたアレンジの妙や、本作だからこそ引き出されるアーティスト達の新たな魅力を発見して、その度に唸らされる。トラックにおいてはカルヴィン・ハリスのソングライティング・スキルの進化に唸り、フィーチャリングにおいては現代のメインストリームを彩るアーティスト達が見せる新たな一面に驚きを感じる。まさに前作では到達することが出来なかった、カルヴィン・ハリスにしか創り上げることの出来ない、そして約5年の時を経たからこそ味わえる楽しさが『Vol.2』に詰まっているのだ。

前述の通り、『Funk Wav Bounces Vol.1』がリリースされた2017年当時は、そのサウンドはメインストリームにおいても、ダンス・ミュージックのシーンにおいても異端極まりないものであり、だからこそ同作が音楽シーンに与えたインパクトは極めて大きかった。その点で言えば、70年代~80年代に影響を受けたポップ・ミュージックが主流となった後の2022年において、「帰還」のような意味合いを持つ『Vol.2』はこの夏を彩る最高のポップ・ミュージック集であるとはいえ、何か変化を与えるような、インパクトという点では前作に及ばないように感じられるかもしれない。だが、カルヴィン・ハリスが持つ影響力は音楽性だけではなく、「Slide」や「One Kiss」に象徴されるように、アーティストが潜在的に持っていた新たな魅力を引き出すことにもある。そして、そのキャリアを遡ることによって、彼が今のシーンに与えた影響を実感するように、数年後、改めて本作を振り返った時に再び、「ここが起点じゃないか」と気付かされるのかもしれない。カルヴィン・ハリスとはそういう人物なのである。




カルヴィン・ハリス
『Funk Wav Bounces Vol. 2 | ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol. 2』
配信リンク:https://lnk.to/CalvinHarris_FWB2

<輸入盤CD>
2022年8月19日(金)発売予定

<国内盤CD>
2022年9月7日(水)発売予定
Blu-Spec CD2仕様 / ¥2,640(税込)
初回仕様限定特典:ファンク・ウェーヴ・スリーヴケース付き
予約リンク:https://lnk.to/CalvinHarris_FWB2


ファンク・ウェーヴ・スリーヴケースは『Vol.1』と『Vol.2』をセットで保管可能






 
 
 
 

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