カルヴィン・ハリスがついに帰還、『Funk Wav Bounces』がもたらした衝撃とは?

 
『Vol.2』によって迎えた「変化」

あれから数年が経った。「One Kiss」の成功を経たカルヴィン・ハリスは、その喧騒をよそに、更に深く自らのルーツを突き進めるという道を選んでいた。2020年に始動させた、自身が多大な影響を受けたという90年代のレイヴやテクノにインスパイアされたLove Regenerator名義による活動はその最たる例だろう。そこにはパブリックイメージとして付き纏うような商業性は欠片もなく、ただただ自らの好きな音楽と向き合う彼の姿があった。その背景の一つとして、パンデミックによって自らのルーツと再び深く向き合うことになったという要因もあるだろう。2020年から2021年にかけて5枚ものEPをリリースしていたことからも、彼がLove Regeneratorとしての活動にいかに注力していたのかを示している。



そして、世界中で再びフェスティバルが復活し、外で音楽を楽しむことが出来るようになった2022年、カルヴィン・ハリスは『Vol. 2』という言葉と共に、再びメインストリームへと戻ることを選んだ。『Funk Wav Bounces Vol. 1』以来、約5年ぶりのフルアルバムとなる『Funk Wav Bounces Vol. 2』が8月5日にリリースされたのである。

そのタイトルが示す通り、本作が目指す方向性自体は『Vol.1』と大きくは変わっていない。70年代~80年代のディスコ/ファンクを基軸としつつ、現代を代表するアーティストたちとタッグを組み、新鮮なポップ・ミュージックを仕上げ、うだるような真夏の日々を過ごすリスナーへと届けるのだ。注目のゲスト陣についても、前作にも参加していたファレル・ウィリアムスやスヌープ・ドッグ、オフセット(ミーゴス)に加え、「One Kiss」以来のタッグとなるデュア・リパやホールジーといった現代のメインストリームを代表するアーティストに、シェンシーアに6LACK、クロイ・ベイリー、コイ・リレイといった新鋭まで、見事に2022年ならではのラインナップを揃えている。それはまさに、今の音楽シーンの景色を生み出すきっかけとなった『Funk Wav Bounces』の「帰還」であると言っても良いだろう。



とはいえ、実際に作品を手に取るまでは「『Funk Wav Bounces』のスタイルは前作の時点で完成していたのでは?」と感じていたのも正直なところである。だが、実はカルヴィン・ハリスは『Vol.2』の制作に際して、前作から大きな方針転換を図っていた。それは、一言で言えば「ビートメイキングからソングライティングへの移行」である。

前作は、音楽性こそディスコ/ファンクでありながらも、トラック自体はヒップホップのビートのような、ループを主体とした仕上がりとなっており、あくまでダンス・ミュージックのDJ/プロデューサー的な思想の元に構築されたものだった。だが、今作では、ビートの反復に加えてアレンジメントによって音像を広げていくような楽曲が数多く収録されており、「New To You」「Stay With Me」では自身のキャリア史上初めて、実際のオーケストラが録音に参加しているほどである。その思想は楽器の音色選びにも反映されており、前作以上に多くの生のギターやドラムが使用されているという*



元々、カルヴィンはコライトが主流のEDMシーンでは珍しく、ほぼ全ての楽曲を自分自身の手で(共演するアーティストがいる場合はそのチームとタッグを組んで)仕上げるという、極めてソングライター気質の強いDJ/プロデューサーである(例えば「Summer」はプロデューサー/作詞・作曲/アレンジ/ボーカル/ミキシングを全て自分自身のみで完結させている)。Love Regeneratorの活動を通して自分自身のルーツを見つめ続けた彼が、プロデューサーではなく、ソングライターとして、かつて築いた自らのスタイルに挑む。そのカルヴィンらしい姿勢にこそ、約5年ぶりに『Vol.2』をやる意味があると言っても良いのではないだろうか。

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE