カルヴィン・ハリスがついに帰還、『Funk Wav Bounces』がもたらした衝撃とは?

カルヴィン・ハリス

 
カルヴィン・ハリス(Calvin Harris)が2017年にリリースした話題作の続編『Funk Wav Bounces Vol.2』が8月5日に配信リリースされた(豪華特典付きの国内盤CDは9月7日リリース)。現代最高峰のDJ/プロデューサーは、このシリーズを通じて音楽シーンをどのように塗り替え、そしてどこへ向かおうとしているのか? ライターのノイ村に解説してもらった。


「ポストEDMの時代」の萌芽

かつて、EDMというムーブメントがあった。2000年代後半から2010年代前半にかけて米国を起点に広まった、大規模なフェスティバルのステージを熱狂させるようなド派手なプログレッシブ・ハウスやトランス、あるいはダブステップといったダンス・ミュージックは、やがてメインストリームをも飲み込むほどの勢いとなり、その影響を受けたポップ・ソングがチャートを席巻するようになっていった。それは日本国内においても同様であり、様々なダンス・ミュージック主体のフェスティバルが人気を博し、J-POPのサウンドに対しても大きな影響を与えるほどだった。

しかし、あらゆるムーブメントは、やがてその終焉を求められるようになる。当時、何度もクラブやフェスティバルに足を運び、ありったけの光と音を浴びながらEDMの熱狂を楽しんでいた筆者がこのようなことを書くのは気が引けるところもあるのだが、2010年代中頃の時点でEDMの勢いは完全にピークを迎えており、多くの人々が「ポストEDMの時代」を求めるようになっていった。元々、極めて商業的な方向に振り切っていたムーブメントであったこともあり、EDMそのものを快く思わない人々も決して少なくはなかったということも、その動きを加速させる追い風となっていただろう。例えば、2013年にダフト・パンクがリリースした『Random Access Memories』は単純に音楽的に絶賛されるだけではなく、当時のEDMに対するアンチテーゼとしても強い支持を集めた作品だった。だが、ムーブメントに待ったをかけるには、2013年というタイミングはやや早すぎたのかもしれない。



その点、2017年にカルヴィン・ハリスがリリースした『Funk Wav Bounces Vol. 1』は当時の音楽シーンに計り知れないほどの衝撃を与えた作品だった。これまで「Summer」(2014年)やリアーナとの「We Found Love」(2011年)といった楽曲によってEDMムーブメントの代表的な存在として認知されていたカルヴィンが、アリアナ・グランデやケラーニといったR&Bアーティストや、ヤング・サグやフューチャーなどのラッパーを招集して、それまでの方向性とは真逆とも思えるファンク/ディスコを基軸としたアルバムを仕上げ、その高いクオリティによって称賛を浴びたのだから。特にリード・シングルとして発表された「Slide」は、南国の楽園を思い起こさせるような程良い快楽性とアナログな質感に満ちたファンク・トラックに乗せて、フランク・オーシャンのメランコリックでありながら聴き手の心を鋭く刺すような美しい歌声と、音の隙間を絶妙に縫うような風通しの良いミーゴスのフロウが見事に絡み合った至高の一品だった。




そもそも、ニュー・ウェーブ色全開の「Acceptable in the 80s」(2007年)で最初のブレイクを果たしたカルヴィン・ハリスにとって、『Funk Wav Bounces Vol. 1』の作風は決して意外なものではなく、むしろルーツを見つめ直す原点回帰のような作品であった。だが、それでも「カルヴィン・ハリス=EDM」のイメージは非常に強く、そのような人物がフランク・オーシャンのような現代を代表するアーティストを集め、70~80年代のポップ・ミュージックにリスペクトを込めた、クラシックでありながらも新鮮さを感じさせる作品を創り上げたという事実は、当時の音楽シーンにとって衝撃以外の何物でもなかった。当時、カルヴィン・ハリスやEDMシーン全体に対して批判的なスタンスを取っていた批評家ですら、掌を返したかのように同作(特に「Slide」)を絶賛したのである(Pitchforkは同作の2枚目のシングルである「Heatstroke」のレビューのタイトルに「カルヴィン・ハリスが二度もやってのけるとは思わなかった」と寄せている)。EDMを好む人々も、好まない人々も、誰もがカルヴィン・ハリスによって「ポストEDMの時代」の萌芽を感じ取ったのだ。

 
 
 
 

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