カルヴィン・ハリスがついに帰還、『Funk Wav Bounces』がもたらした衝撃とは?

 
時代の転換点となった『Vol.1』

今思えば、『Funk Wav Bounces Vol. 1』はまさに時代の転換点を象徴するようなアルバムだった。筆者個人として、同作が引き起こした最も印象的な出来事の一つは、間違いなく同作のリリース直後のタイミングで実施されたサマーソニック2017におけるカルヴィン・ハリスのヘッドライナー出演である。そもそも、過密なスケジュールで知られる当時のEDMシーンにおいて、滅多にフェスティバルなどの大規模なステージに登場することのない彼の出演は、それ自体が事件のような出来事だった。だからこそ、当時の観客の多くは彼がこれまでに手掛けてきた様々なEDMの名曲群がプレイされることを期待していたのだが、その一方で、決して少なくない数の人々が『Funk Wav Bounces Vol. 1』主体のセットを渇望していたのである。結果として、カルヴィン・ハリスは(恐らくは多くの観客の期待に応えるために)EDM主体のド派手なセットを披露したのだが、セットを終えてSNSを開いてみると、そこにはこれまでに見たことがないほどの賛否両論の渦が広がっていた。従来どおりのEDMを期待し、そのセットを心から楽しんだ人々と、「その先」を期待したのに、「裏切られた」とすら感じる人々が入り乱れる光景。それはまさに当時のEDMを巡るリスナーの状況を示していたように思える。



そんな『Funk Wav Bounces Vol.1』だが、突如としてシーンが丸ごと切り替わることが無いように、その影響が現れるのはもう少し先の話となる。また、同作だけが後のシーンに影響をもたらしたというわけでも無い。例えば、『Funk Wav Bounces Vol. 1』に先んじてリリースされた「How Deep Is Your Love  (Calvin Harris & Disciples)」(2015年)や「This Is What You Came For  feat. Rihanna」(2016年)は当時のディープ・ハウスやフューチャー・ハウスのムーブメントを踏まえつつも、その一切無駄のないソリッドな仕上がりによってメインストリームをも巻き込む絶大な支持を集め、スラップ・ハウスやテック・ハウスといったここ数年のハウス・ミュージックのトレンドにも繋がる重要な楽曲となっている(更にそこからドレイクやビヨンセの新譜まで繋ぐというのは、さすがに贔屓のしすぎだろうか)。




そして、『Funk Wav Bounces Vol.1』の音楽性と、「How Deep Is Your Love」等のハウス・ミュージックの取り組みを融合し、当時、ブレイクの渦中にあったデュア・リパを招いて制作されたのが、2018年にリリースされた「One Kiss」である。派手すぎず、冷たすぎることもない絶妙な温度感のビートの反復と、『Funk Wav Bounces Vol.1』から地続きのレイド・バックしたサウンド、そしてデュア・リパの力強くエレガントな歌声が絡み合うその仕上がりは見事の一言であり、同楽曲は同年の年間全英チャートで首位を記録するほどの驚異的なヒット曲となった。そして、このヒットはデュア・リパを『Future Nostalgia』(2020年)の方向へと導き、2020年以降のポップ・シーンにおける70年代~80年代への回帰の動きの先駆けとなったのである。これは筆者の考え過ぎかもしれないが、2010年代後半のカルヴィン・ハリスの動きが無ければ、2020年以降の音楽シーンの景色はまるで違うものになっていたのではないだろうか。

 
 
 
 

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