元シルヴァーチェアーのダニエル・ジョンズ、豪州の国民的スターが語る「進化と挑戦」

ダニエル・ジョンズ(Photo by Sam Wong and Long Story Short for Rolling Stone Australia/NZ)

 
7年ぶりのソロアルバム『FutureNever』を発表。ダニエル・ジョンズが過去と現在、そして向かうべき未来を語る。ローリングストーン誌オーストラリア版のカバーストーリーを完全翻訳。


「僕はオーストラリアじゃそれなりに有名だから、ある程度の反響は期待してたよ」。ダニエル・ジョンズはいたずらっぽい笑顔を浮かべてそう言った。「でも実際、これほどだとは思わなかった」

2021年が終盤に差しかかった頃、Spotifyオリジナルのポッドキャスト『Who is Daniel Johns?』が公開された。司会のKaitlyn Sawreyが、普段メディアの前で多くを語らない彼の人物像を明らかにしていく同シリーズは、彼のことをもっと知りたいと願うファンの間で大きな反響を呼んだ。

ジョンズの関わったあらゆるプロジェクトが成功を収めているが、ジョー・ローガン等を抑えてオーストラリアで最も人気のあるポッドキャストとなり、豪州屈指の国民的スターの知られざる素顔を明らかにする同番組に世界中のリスナーが夢中になった。しかし、彼が同ポッドキャストで過去や現在について語れば語るほど、ファンはある疑問を抱えることになる。それは彼がこれからどこへ向かうのかということだ。


ダニエル・ジョンズ、2022年2月12日ニューカッスルにて撮影(Photo by Sam Wong and Long Story Short for Rolling Stone Australia/NZ)

やや肌寒いある日、ダニエル・ジョンズはニューカッスルの海岸沿いにある自宅に筆者を招き入れてくれた。かつて彼はその家について、『ブギーナイツ』に出てくる「70年代のポルノの城」と語っている。窓の向こうは一面の海であり、遠方で暴風雨を伴う雲が発達しているのがわかる。あらゆるアーティストが夢見るその空間に馴染んだ裸足姿の彼は、フレンドリーなハグで筆者を歓迎してくれた。

ギター、ビンテージのシンセ、古いドラムキットの他、一方の壁際には無数の楽器が置いてある。リノベーションを経た壁のあちこちには、ロックダウンの間に描くようになったという絵画が飾られている。ドアのすぐ側には、チャートを制した2002年作『Diorama』の曲を生んだヤマハのグランドピアノがある。

ジョンズを取材するにあたって、筆者は緊張を隠せなかった。シルヴァーチェアー、ザ・ディソーシエイティブズ、DREAMSを含む各プロジェクトの作品とソロ作の合計売上枚数は1000万枚を超え、ARIAアワード(21回)とARPAアワード(6回)の史上最多受賞者であり、同年にグラミー賞とエミー賞の両方を受賞した唯一のオーストラリア人アーティストである現在42歳の彼は、既に80歳であってもおかしくないほどの輝かしいキャリアの持ち主だ。彼が取材嫌いであり、スポットライトを浴びること自体が苦手だということは広く知られているが、飼い犬のGiaがくつろぐリビングで行われた取材が進むにつれて、互いの緊張は徐々にほぐれていった。筆者の前にいるのは音楽業界のアイコンではなく、創作への欲求に駆られる生身の人間だった。

「ステージで演奏することを目的としてレコードを作る人もいる。それはごく自然なことだけど、僕はそうじゃない」。そう話すジョンズは袖のない黒のトップスを着ており、彼のトレードマークというべき腕のタトゥーが露わになっている。「僕が曲を書くのは、頭の中にあるおぼろげな何かを形にしたいからだ。曲作りを止めることはないだろうね、自分を完全に納得させることは永遠にできないだろうから」

ポッドキャスト『Who is Daniel Johns?』は、2021年10月に配信が始まった。その時点で2015年発表のソロデビュー作『Talk』から6年、そして古くからの友人でありコラボレーターのルーク・スティールとのプロジェクトDREAMSのアルバム『No One Defeats Us』のリリースから3年が経過していた。

「あのポッドキャストは、僕がレコード会社の人間に言ったことがきっかけだったと思う。ライブをやらなくても、オーディエンスとつながる方法はあるはずだって言ったんだ」と彼は話す。「僕はステージに立つのが本当に嫌だから」

配信が開始された直後から、同ポッドキャストは圧倒的な反響を呼んだ。彼は番組内で、シルヴァーチェアーのフロントマンとして脚光を浴びた10代の頃のこと、拒食症や反応性関節炎を患ったこと、シルヴァーチェアーの再結成が絶対にあり得ないこと、そして彼がおそらくもう二度とステージに立たないであろうことなどを明かした。

「自分のファンベースがまだ存在してるってことが信じられなかった。ファンベースっていう言葉は好きじゃないから、他の表現で代用できたらいいんだけど」と彼は話す。「この世界で30年近く生きてきた甲斐があったと思う。自分が価値のあるものを残してきたんだって実感できるから」

セラピーの代わりみたいなものだというポッドキャストには反響を期待していなかったが、長いあいだ憶測ばかりが飛び交う中で真実を知りたがっていたリスナーの期待に応えられたことを、彼は嬉しく思っているという。2019年に「シドニーにある悪名高い売春宿で豪遊」という見出しで彼の写真を掲載したNews Corpを名誉毀損で訴えた時のことも、ファンが知りたかったことの1つだったはずだ(同社は最終的に、ジョンズに対し6ケタ豪ドルの慰謝料を支払った)。

ジョンズは頻繁に向けられる質問の数々に自身の言葉で答えるとともに、そのポッドキャストが問題を抱えているリスナーの支えになっていることに喜びを感じているという。

「なかなか口にできない悩みを抱えている人がたくさんいるんだ。病気を患っていたり、ものすごく繊細だったり、ただ悲しくなったり、そういうのは少しも恥ずかしいことじゃない」。そう話したかと思うと、彼は無邪気そうな笑顔を浮かべてこう言った。「ハッピーでいることを恥ずかしく思う人なんていないだろうう? ゴス系の人たち以外はね」

しかし、同ポッドキャストの最大の功績は、それが彼の過去と未来をつなぐ架け橋としての役割を果たしたことだ。それは彼自身が抱えていた精神面における課題を解決し、前に進むために不可欠なステップだった。

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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