元シルヴァーチェアーのダニエル・ジョンズ、豪州の国民的スターが語る「進化と挑戦」

 
3つのアルバムを融合させた『FutureNever』

昨年12月、彼は2枚目のソロアルバム『FutureNever』が完成したことを発表した。その一部はポッドキャスト内で公開されていたが、その全体像が明らかになったのは、彼がファンに送ったパーソナルな手紙の内容が公開された時だった。

「FutureNeverっていうのは、君の過去と現在、そして未来が重なり合う場所のことだ」。その手紙にはそう綴られていた。「FutureNeverでは、過去の経験の量子が常識を超越した力へと変化する」

「ともすれば姿をくらましがちだけど、僕は帰ってきた」。その手紙はこう締めくくられている。「共に行こう、FutureNeverへ」

先行シングルを伴わない本作は、「一切の制約を無視して、自分にとって本当にリアルなもの」を生み出したいという欲求から生まれた。その一方で彼は、「統合失調症のような」本作が一部のリスナーを困惑させることを覚悟している。

「メディアからは『一貫性がない』ってこき下ろされるだろうね」。そう話す彼は、なんでもないことのように過去の批判に言及した。「でも、僕は一貫した人間じゃないから」

「このレコードに戸惑う人もいるだろうね、僕の過去の作品とはまるで違うから。このアルバムは、僕が冬眠してると思われていた間に作っていた曲のコレクションなんだ」



(アーティストはみな最新作を最高傑作だと主張することを認めつつ)ジョンズが最高傑作だと断言する 『FutureNever』の制作過程は、一般的なアプローチとは大きく異なっていた。ジョンズによると、本作はコンセプトが全く異なる3つのアルバムを融合させたものだという。

常に何かを作っている彼は(無数のデモが至るところに転がっているはずだという)、発表される予定のないその3枚のアルバムについて、過去数年の間にコンセプトが自然に形成されていったと話す。1つはエレクトロニックなパンクを基調とした「モダンなパンクアルバム」、2枚目は説明不要な「オペラのアルバム」、そして3枚目は2015年作『Talk』で追求したフューチャリスティックなR&Bサウンドに通じる「今っぽいエレクトロニカのアルバム」だ。

「別々のレコードだと思ってたし、どういう形で発表すべきなのか決めかねてた」と彼は話す。「デモは他にも数えきれないほどあったしね」

「それでレーベルに、正直に打ち明けたんだ。『また消化できないくらいの量を一度に作ってしまって、どう扱えばいいかわからない』ってね。それぞれ異なるプロジェクトのつもりだったし、いつものように曲を書いてた結果生まれてきた曲群をどうすべきかを理解するには長い時間が必要だった。蓋を開けてみれば、それは全部同じレコードのセッションだったんだよ」

当初、彼は3枚のアルバムをそれぞれ別名義でリリースすることを考えたが(「最悪のアイデアだって言われたよ」)、やがて自分が8年間で同じレコードを3つの異なるアプローチで作ったのだと気がついた。



興味深いのは、本作のボーダーレスなスタイルが彼の共感覚(ある刺激が別の種類の刺激を引き起こすこと)に影響したという点だ。ある曲を聴くと特定の色を思い浮かべるアーティストは多いが、彼は本作からギャング映画のカオスなムードや1940年代のイメージを思い浮かべるという。

「クレイジーなくらい多くのジャンルが混在してるけど、アルバムとしてまとまっていると思う」。そう話す彼は、そういった特徴のある有名なレコードをいくつか例に挙げる。「ビーチ・ボーイズの『Smile』は知ってる? アウトキャストのアルバムを1枚でも聴いたことは? 僕の好きなレコードに共通する点は、どれもカオスだっていうこと」

「オールドスクールなプリンス風のファンクだったり、オペラっぽい歌い方だったり、『トロン』のサウンドトラックに入ってそうな曲だったりと、クールなら何でもありっていう考えだったし、歌詞の面でも辻褄が合ってた。どの曲も絵画というよりもコラージュのような感じ。小さなパーツを組み合わせたり重ねたりすることで、立体感を生み出そうとしたんだ」

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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