デンゼル・カリー大いに語る 死と暴動、日本文化と松田優作、ギャングスタと己の生き方

 
「ギャングスタ・ラップには共感できない」

―振り返ると、あなたの初期~中期作品はクラウド・ラップの代表作として、はたまた 2010年代のトラップやブーンバップの最高峰として、かたやフォンクのルーツとして、現在でも日本のヒップ ホップファンに根強い支持を得ています。一方で、近作の幅広い音楽性の折衷はヒップホップコミュニティにおさまらない支持層にも広がってきています。そういった自身のアーティストとしての歩みや功績について、今どんなことを思いますか?

カリー:自分が変わったことは確かだ。完全に変わったわけではないけどね。「Sanjuro」みたいな曲を作ると、「もっと昔みたいな曲を出してよ!」と言われる。そう言いたい気持ちは分かるよ。実際あの手の曲を作るのはお手の物だ。でも、あえて今は作らない。なぜなら、いつでも作れるって分かっているから。違うこともやらせてほしいよ。チャレンジがしたいんだ。上手くいかなかったら、それはそれで仕方ないと思っている。でも今のところは手応えを感じているんだ。『TA13OO』や『Imperial』みたいなアルバムをまた作ってほしいと願っているファンに言いたいのは、あのアルバムがこの世から消えてなくなるわけじゃないからいつでも聴きたい時に聴き返せばいいよ、ってこと。だから、俺には新しいアルバムを作らせてほしいんだ。自分の音楽をさらに拡大していきたいから。

―近年はフロリダからLAに移って活動されていますが、最近のヒップホップシーンについて何か思うところはありますか?

カリー:今はまさにギャングスタ・ラップ全盛期だね。クラウド・ラップの時代は終わったよ。過去、ギャングスタ・ラップの後にネオソウルの時代が到来した。俺はそこの可能性をもっと見出したいと思っているんだ。

―今のあなたは、ヒップホップのギャングスタ的な部分にあまり関心がないということでしょうか。

カリー:俺の兄弟は全員ギャングなんだ。一人は格闘家だったんだけど、警察の過剰な取締りが原因で他界した。ギャングの友達も大勢いて、その多くが命を落とすのを見てきた。俺自身はオタクであるがゆえに死なずに済んだってことなら、オタクで結構だよ。これまでマジで色んなものを見てきたし、仲間の葬式にも何度も出た。俺はギャングスタ・ラップには共感できないんだ。「先週人を撃った」と言う仲間とつるんで、翌週俺がツアーに出ている間にそいつが死んだってこともあったよ。そんな経験はもうしたくないし、自分の子どもにも見せたくない。だから俺は、オタクと呼ばれようがかまわない。自分のサウンドがピンとくるし、人から何を言われても俺は俺だ。無理にギャングスタ風を装わない人間をリスペクトするよ。でも、もし俺を試そうとしたら、誰に連絡すればいいかはわかってるし容赦はしないから。それが俺だ。



―2020年に、残り3枚のアルバムを制作し引退するという発言をされていました。その後小説や漫画を書きたいと。今でもその気持ちは変わりませんか? であれば、残りの音楽活動で、ミュ ージシャンとしてのあなたの創作意欲はどこへ向かうと思われますか?

カリー:アルバムをどう構築すればいいかは分かっているから、エグゼクティブ・プロデューサーとして裏方に回ることだってできるんだ。もうかなり長いことやってきているし、アイデアをどうやって最大限に概念化すればいいかを手助けできる。

―実際、本当に引退するんですか?

カリー:どうかな。このアルバムがどうなるか次第だ。一つ言えるのはこれから先、俺に子どもができたらその子を絶対に独りにはしたくないし、俺が今いる世界を見せたくないということ。イカれたことが蔓延っているこの世界を見せるくらいなら、いっそ「子どもができたから俺はちょっと抜けるわ。またいつか会おう。これまで支えてくれてありがとう。これから育児に専念する」と言って潔く辞めたほうがいいよ。それが今の俺のスタンスだ。

―今日はありがとうございました。日本のリスナーはあなたの音楽を、過去の作品も今の作品もともに愛しています。来日公演を心待ちにしています。

カリー:絶対にまた行く! 日本のファンにもそう伝えてくれ!




デンゼル・カリー
『Melt My Eyez See Your Future』
発売中
視聴・購入リンク:https://virginmusic.lnk.to/MMESYF

Translated by Yuriko Banno

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE