デンゼル・カリー大いに語る 死と暴動、日本文化と松田優作、ギャングスタと己の生き方

 
『カウボーイビバップ』と松田優作の影響

―丁寧な解説のおかげで、情景がありありと浮かんできます。非常に辛く苦しい現実を反映している一方で、続く「Sanjuro」では黒澤明監督の『椿三十郎』と思われる引用もあります。

カリー:「Sanjuro」では、サムライ魂について語っているんだ。この作品を作るにあたり、宮本武蔵のような武士道精神で取り組んだんだよ。俺は「五輪書」も呼んだし、適当なことを言ってるわけじゃないから。つまり、アルバム制作中ずっとアメリカにおける自分の状況を冷静にとらえながら、自分のスタンスとしては武士道精神に通じるものを感じていたんだ。それがアルバムの根底にある。だから「Walkin」という曲もある。映画『用心棒』の冒頭で主人公が通りを歩くシーンがあるだろう? リメイクされた『荒野の用心棒』でも同じだ。『ジャンゴ 繋がれざる者』もそう。冒頭に主人公が歩くシーンがある。つまり、この曲は「救いようのない世界に俺が歩いて入ってくる」ということなんだ。だから“Clear a path as I keep on walkin’ /Ain’t no stoppin’ in this dirty filthy, rotten/Nasty little world we call a home”(俺が歩く道を開けろ/この薄汚れた世界で立ち止まることはない/俺たちが家だと呼ぶこの酷い世界)というリリックがある。1曲目の「Melt Session #1」で俺がどんな人間かは宣言した。そこから歩き出すことで、周囲の汚れが明確になってくるんだ。アンチヒーロー的手法だよ。




―「Zatoichi」はいかがでしょうか。映画『座頭市』から受けたエピソードがあれば教えてください。やはり「盲目」という設定が今作の「Melt My Eyez」というテーマとつながってきたのでしょうか?

カリー:その通り。目を溶かしてしまったら、視覚を失うわけだから他の感覚に頼らないといけない。今回、座頭市を比喩として使ったのは「盲人が盲人を導くことはできない」という諺があるからだ。つまり、レイ・チャールズがスティーヴィー・ワンダーを指導することはできないということ。でも実際はみんなやっている。でも同じ現実に生きていて、俺だってどうすればいいか分からない。同じように盲目である俺がどうやって進むべき道を示すことができるっていうんだ? でも、俺たちはみんな盲目的に指導者に従っている。フランク・ハーバートの小説『デューン』が格好の例で、主人公のポール・アトレイデスは次第に視力を失ってしまう。そんな彼は盲目的に指導者に従うことについて語り始めるんだ。何が言いたいかというと、「ただ盲目的に自分についてきてほしくない」ということなんだよ。自分がどんな人間か見てほしいし、自分が全ての答えを持っているわけじゃないってことも知ってほしい。英雄視しないでほしい。でも、自分のコミュニティのことだったら俺はたとえ周りと同じくらい盲目であったとしても、現状よりもいい道を見出す努力はするつもりだよ。



―あなたはこれまでも様々な日本文化を引用されてきましたが、とりわけ今作は日本映画の影響が強いですね。他にインスピレーションを受けた部分があればぜひ教えてください。

カリー:松田優作は知ってる?

―はい。松田優作は日本人の誰もが知っている俳優です。

カリー:今作のビジュアルに関して、アルバムにまつわるプレス用の写真はどれも松田優作から影響を受けているんだ。彼が演じた役柄もそうだし、彼が影響を与えたキャラクターもそう。彼は『北斗の拳』のケンシロウのモデルになっただけでなく、『カウボーイビバップ』のスパイク・スピーゲルのデザインの元ネタでもある。コロナ禍の隔離生活で俺の楽しみと言えば、心理療法に通うのと、スタジオに行って武術の訓練をするのと、射撃場に行くことくらいだった。あとは家族や友達とつるむこと。それしかやってなかったんだ。家に帰ってからジョイントを吸いながら『カウボーイビバップ』を観ていて、ふと思ったんだ。「スパイク・スピーゲルがこんなにかっこいいのはなぜだ?」ってね。『ルパン三世』の影響があるのはわかっていた。そこでルパン三世と松田優作を掛け合わせたと知って、松田優作の出演作品を調べたんだ。『野獣死すべし』の動画を見つけた。『探偵物語』も。それから『ブラック・レイン』も見た。彼が癌で亡くなる前、最後の出演作だね。さらに、彼が漫画『ワンピース』のキャラクターのモデルになっていることも知った(註:クザンのこと)。そんなわけで、俺は彼にめちゃくちゃハマってるんだ。ファッションから仕草まで、彼はまさに日本のジェームス・ディーンだよ。そんな彼を俺は今作で体現したかった。今の「かっこいい」の真逆を行くことで、「超絶かっこいい」を演出したかったんだ。

―それにしても、あなたは想像を遥かに超える日本通ですね!

カリー:松田優作以外に、三船敏郎も武士道精神のヒントをくれたということで影響を受けている。サムライに関しても俺はかなり知っている。彼らはやたらめったら刀を振り回していたわけじゃなく、他の武器も持っていたんだ。刀を使う前に銃を使うことだってあった。俺は自分を浪人だと思っている。俺もかつては一門に属していて、レイダー・クランのメンバーだった。でも今は流浪している。刀を持った浪人だ。俺は今の自分の立ち位置をそう思っているんだよ。

―アルバムリリース後、SNS でソウルクエリアンズについて言及されていましたね。ヒップホップをベースにジャズやソウルを取り入れた作品というとある種の定型化/ひな形化された型があるように感じますが、本作にはそれらとは異なる新たな進化を感じました。ご自身で特に意識されたことはありますか?

カリー:俺は、Pitchfork制作のソウルクエリアンズのドキュメンタリー映像をきっかけに彼らを聴きはじめたんだ。スタジオに人を招き入れる時に見せる動画でもあるんだけどね。ちなみに、それとあわせて黒澤明監督の『Composing Movement』(註:黒澤作品がいかに動きでストーリーを伝えているかを分析した動画)も見せるんだ。今回アルバムを作るにあたって、ソウルクエリアンズで特に研究した作品がディアンジェロの『Voodoo』、ザ・ルーツの『Things Fall Apart』、それとエリカ・バドゥの『Mama’s Gun』だよ。その後、内容がだいたい固まってきたところで「ヒット曲やみんなが踊れる曲が必要だ」ってことに気づいて、参考にしたのがカニエ・ウエストの『Graduation』。それ以外にも、ジャズでは菅野よう子のシートベルツ作品も参照したよ。特に『カウボーイビバップ』のサントラ。『COWBOY BEBOP SOUNDTRACK 1』も『BLUECOWBOY BEBOP SOUNDTRACK 3 - BLUE』も『Tank! THE! BEST!』も、さらにライブ・バージョンまで毎日聴いた!『FUTURE BLUES〜COWBOY BEBOP -Knockin’ on heaven’s door』も。今作における日本からの影響は計り知れない。しまいにはYouTubeで日本のヒップホップもひたすら聴いていたよ。Nujabesとかね。





―Nujabesの名前が出ましたが、たとえばアニメ『サムライチャンプルー』も時代劇とヒップホップを融合した画期的なアニメーション作品でした。

カリー:俺も大好きだよ!

―時代劇やヒップホップの、肉体的でアクロバティックな動きをベースに多くの要素を吸収していく今作の魅力は、まさに『サムライチャンプルー』のような作品に通じる部分があると感じます。

カリー:渡辺信一郎からはかなり影響を受けているよ。なぜなら『カウボーイビバップ』は俺が人生で一番好きなアニメ作品だから。彼は1930~40年代に出てきたビバップやジャズという「古い」とされている音楽を、未来を描くストーリーと見事に融合させている。彼は同様のことを『サムライチャンプルー』でもやっているよね。君の言う通り、時代劇とヒップホップが見事に融合しているし、俺が目指したのもまさにそこだ。俺は今回、アフリカにルーツを持つ人たちをこれまであり得なかった状況に置くという方法をとったんだ。だから「Walkin」のビデオを見ると、出ている大半の人がアフリカ系アメリカ人になっている。「Zatoichi」のビデオにしても、俺が闘っている相手は黒人女性だ。「Troubles」も、主要キャストは全員黒人。いろいろな世界を黒人で描きたかった。これは黒人による文化盗用ではなく、これまで見たことのない役柄を黒人が演じているだけのこと。なぜなら、黒人が演じる役柄と言えば泥棒、ぽん引き、殺人犯、ドラッグディーラーというステレオタイプが今も根強くあるから。俺はそんなのに迎合するつもりはないよ。

Translated by Yuriko Banno

 
 
 
 

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